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8.のんのさん

「そういえば、この前の散歩で、いないって言ってたんだよ」

「何の話?」


ある休みの日に夫が話しかけてきたのは、夫が娘と散歩に行った時の事だった。


「お稲荷さんのとこ」

「ああ、あそこ好きだよね。でも蚊が結構いるから最近は行ってないなぁ」


まだ歩き始めの頃、私の母が娘を散歩に連れ出してくれた時、マンション近くの駅に向かう途中で脇道に行くとお稲荷さんを見つけたのだ。


その時から側にベンチもあるので休憩もかねてお詣りをしていた。というより娘が「のんのさんに行く」というのでよく寄っていた。


ちなみに娘が「のんのさん」と言う言い方は、私の母がそう教えたのだろう。


その稲荷さんは、とても小さく手すりも錆び階段も綺麗とはいえない。階段を上がれば、小さな古い社と同じく小さな白い陶器の狐さんがちょこんと置かれている。


娘は、いつも階段を上がりお辞儀をしてお賽銭をし鈴を鳴らす。


周りは大きな銀杏の木と少しの古い木々があり薄暗く、これといって目立つ場所ではない。


なのに。


私は、いつも来ると別な空間、まるで箱庭の中にいるようで。怖いような、怖くないような気持ちになる不思議な場所だ。


別に普通な感じで、むしろ階段を下り、鳥居を抜けすぐに近所の方が作った小さな花壇があり、いつも季節の花が咲いていて華やかだ。


私は、暗い時なんて絶対行かないであろう注意深い夫に言った。


「午後行くんだね」

「夕方って言ってもまだ明るかったんだよね。いつも午前中は寄るけど、その時、行くって言うから」

「そう。で、お詣りしたの?」


その日は蚊にさされてなかったよなぁと思いながら聞いた。


「行かなかった」

「えっ? 珍しい」


娘は頑固だ。一度決めたら、それを変更するのはかなり難しい。説明すれば納得する場面も増えてきたが、それでも自分で行くと言って止めるなんてあまりなかった。


「いや、階段下まで行ったんだよ」

「えっ」


そんな近くまで行って階段を上がらないなんて、いままで私が覚えている限り一度もなかったので少し驚いた。


夫は不思議そうに言葉を続けた。


「それでさ。あれ? のんのさんいないね。って言うんだよ」

「夕方だから暗くて上が見えなかったんじゃないの?」


私は、普段は昼間に行くので見えなかったのかなと思ったのだ。


「いや、時間は遅かったけど、暗くなかったよ」

「結局蚊がいるからやめたの?」


「いや、本人が上に行かなかった」

「私の時、そこまで行って行かないなんてなかったんだけど」

「俺も初めてだよ」

「「…」」


夫は、そういうものを全く信じないし、私があげる交通安全のお守りだって興味がない。

でもその日は珍しく。


「なんか、そう言われるとな」

「…そうだね」


私もネットでたまたま神様は夜帰るというのを読んだばかりの時だった。


考えすぎなんだろうけど不思議な気分になった日でした。


書いていて思ったのですが、鳥居の先から雰囲気というか空気が変わり重たい気がします。


気のせいというか、たんに少し暗い場所だからだと思いますが。




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