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自称世界一の魔術師  作者: サバ太郎
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作戦失敗

男が炎の腕から飛び出す。


その男の上半身は火に包まれていた。


燃える服を男は破り捨てる。


服の下の体は、赤くただれていた。


いくら腕の物理的な直撃は免れたとはいえ、あの炎に晒されたのだ。


炎に打ち勝つには至近距離の攻撃しかないのに、炎が邪魔で近づけていない。


攻めあぐねた男は一旦距離を取ろうとするが、獄炎鬼がそれを許さなかった。


腕が、足が、炎が、男に襲いかかっている。


・・・どうする。


どうにか獄炎鬼の動きを止められたら。


何か策はないか。


雷撃は効かない。


氷漬けでも、わずかな時間しか稼げないだろう。


それに、仮に動きを止めても致命傷を与えられるのか。


攻撃するにしても、せめて頭や心臓じゃないと・・・。


そこで、思いついた。


急所に届かないなら、相手から近づいてもらえばいい。


俺はミラとベルクのもとに駆けだした。





それぞれに軽く説明を行った後、俺たちは位置に着いた。


この作戦では、位置取りが重要だからだ。


その時が来るまで魔力を練って待つ。


今、槍を持った男が獄炎鬼に対峙している。


おそらく俺では、獄炎鬼の攻撃を単独で回避し続けるのは無理だ。


だから俺は下手に獄炎鬼に魔術を放てなかったのだ。


もし、狙いが俺たち三人の誰かに変わったら・・・。


俺たちは騎士ではない。


それを痛感する。


これが、騎士と魔術師の差なのだろう。


一人で全ての攻撃を受け持ち、相手の注意を引きつける。


今この場で、燃え盛る鬼にそれができるのは、彼だけだった。


交流戦でバルドが言っていたのは、こういうことなのだろう。


男は戦場を駆けまわる。


獄炎鬼が男を仕留めようと、目まぐるしく体勢を変えていく。


そして、遂に待ち望んだ状況が訪れた。




『ギガントハンマー』


俺は獄炎鬼の真後ろにいた。


頭上に巨大な岩の槌を出現させ、獄炎鬼の背に叩きつける。


戦闘を全て『雷槍』に任せていたため、獄炎鬼は俺たちに注意を払っていなかった。


背に直撃を受け、獄炎鬼が前に傾く。


「『凍って』」


声が聞こえるとともに、鬼の両足が凍り付いた。


足を踏み出すことができずに、巨体がそのまま地面に倒れていく。


獄炎鬼は倒れるのを防ぐため、右手を地面に着け体を支えようとした。


だが、その腕で地を支えることは無かった。


地に着く前にベルクが猛スピードで突っ込み、その腕を弾き飛ばしたからだ。


全く踏ん張ることができなかった巨体が、地面に吸い込まれていく。


そして、倒れこむ獄炎鬼の真下に、槍を構えた男が待ち構えていた。


それは丁度獄炎鬼の胸の位置だ。


槍が紫の雷をまとう。


そして、獄炎鬼が地に叩きつけられる直前で男が槍を突き出した。


地に叩きつけられた獄炎鬼の背中を雷撃が突き抜ける。


雷撃は鬼の胸に大きな穴を開けた。


その穴を通って男が鬼の背から飛び出した。


男が地に伏した鬼の背に乗っている。


男と目が合った。


そして男は拳を突き上げた。


成功だ。


胸を貫かれた瞬間、鬼を包んでいた炎が消え去った。


それは獄炎鬼が魔力を練れなくなったことの表れだ。


ミラもベルクも安堵している。


俺たちが獄炎鬼を討伐することはできなかったが仕方ない。


報酬がもらえないのは悔しいが、こいつを放置しておく方が危険だからな。


「ありがとう。本当に助かった」


男は鬼の背から降り、爽やかな笑顔を浮かべてこちらに向かってきた。


歩いてくる男の後ろで、ぴくりと鬼が動いた。


そして、地に伏した鬼が吠えた。


瀕死とは思えない爆音だ。


手で耳をふさごうとしたとき、目の前から男が消えた。


獄炎鬼が、その腕を力任せに振るったのだ。


警戒が薄かった為、男はその直撃を受けた。


俺が治癒した女性のように、弾き飛ばされた。


無事ではあるまい。


しかし、俺たちに男を助けに行く余裕はない。


獄炎鬼が、立ち上がったからだ。


胸に風穴を開けられ血が噴き出しながらも、獄炎鬼は確かな足取りで立ち上がったのだ。


再度、鬼が吠えた。


力強いその声に、冷や汗が噴き出す。


なんて生命力だ。


あれでも仕留められないのか。


獄炎鬼が一番近くにいたベルクに向け走り出した。


そして足が振るわれる。


ベルクは横に飛びそれを回避する。


回避した先に拳が落とされる。


ベルクは風魔術で進路を急転換し何とか避けた。


そこで獄炎鬼の動きが鈍った。


呼吸音が聞こえる。


それは以前より遥かに大きく、鬼の体力が低下していることが見て取れる。


そして、一番厄介だった燃え盛る炎は、もう無い。


「俺たちで倒すぞ!獄炎鬼はもう限界に近い!一気に畳みかける!」


俺は二人に聞こえるように、大きな声で言い放った。


二人が強く頷いたのを見て、俺は魔力を練る。


ベルクが獄炎鬼を引きつけ、攻撃を回避する。


そしてまた、計画の位置に誘導した。


『ギガントハンマー』


巨大な槌が、獄炎鬼に襲いかかる。


だが、その槌は地を叩いただけだった。


獄炎鬼は振り返ることなく、槌を避けたのだ。


同じ手は二度も通じないか。


先ほどと同じ配置になったのに気付いたようだ。


学習している。


獄炎鬼が振り向いた。


そして俺のもとへ駆けてくる。


「『凍って』」


足を氷漬けにしようとした瞬間、獄炎鬼が飛んだ。


獄炎鬼の真下に氷が発生するが、足まで届いていない。


そして着地し、止まることなく俺に向かってきた。


間に合うか。


そして俺に向け、蹴りが放たれた。


『アースウォール 五連』


俺と巨大な足の間に、五枚の壁が並んだ。


そして衝突する。


蹴りの威力が、壁に衝突する度に弱まっていく。


だが、止めきれない。


遂に最後の壁を突き破って俺の目の前まで来た。


これだけ遅ければ十分だ。


『イラプション』


地面から火柱が上がった。


勢いよく噴き出す炎によって、蹴りの軌道が上に逸れる。


足は俺のぎりぎり上を通過した。


そしてさらに上昇する。


横方向の速度を弱めて、上に加速させたのだ。


加速され続ける足のせいで、獄炎鬼の体勢が崩れる。


そのまま後ろに倒れろ。


獄炎鬼はその勢いを利用して、くるりと回転し立ち上がった。


そう簡単にはいかないか。


手負いの魔獣相手に、ここまで苦戦するのか。


俺たちの火力不足が目立つ。


『雷槍』のように獄炎鬼に致命的な傷を与えることができない。


「『凍って』」


更に俺に向け走り出そうとする獄炎鬼の足が凍った。


が、やはり力づくで砕かれる。


何か、何かないか。


またも接近する獄炎鬼を前に、焦りが生まれる。


このままでは、獄炎鬼より先に俺たちが魔力切れだ。


今度は上から踏みつぶしてくる。


俺は剣に魔力を込め、炎をまとわせる。


そして振ってくる足に横から斬撃を叩きこんだ。


だが、少し軌道が逸れただけで止まらない。


巨大な足が、俺の真横に落ちた。


隣で鳴る轟音に、血の気が引く。


危なかった。


やはり広範囲な斬撃では致命的な傷を与えられない。


槍のような、一点集中でないと獄炎鬼の体を貫けない。


俺はその場から駆け出す。


これだけ近ければ、魔術を発動する前に攻撃されてしまう。


逃げる俺を追おうとする獄炎鬼の足が、氷で覆われる。


いいタイミングだ。


獄炎鬼はまたすぐ氷から抜け出すが、その頃には俺も十分距離をとれる。


距離を取り、次に備えて魔力を練る。


その時、声が聞こえた。


「良いこと思いついた!絶対勝てるぜ!」


そう叫んだのは、ベルクだった。

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