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第30話「もしかして」

「はい、毎度。いつもありがとなぁ」

「こちらこそ。ところでミカ……さん」

「ミカでええよ。なんならちゃん付けでもええで」


 それこそ、すっかり慣れてしまった魔石の換金の後に、ミカに募集の件を話しておこうと思っていた。

 何と言うか、ミカは見た目には幼いのだが、仕事上では取引先でもあるし、呼び捨てにするのも躊躇われたのだが、彼女は特に気にもしていないらしい。


「じゃあミカ。一つ相談があるのだけれど」

「なんや? 金なら貸すで」

「いや、おかげさまでお金には困っていないのだけれど」


 実際、普通に生活する分には十分なだけは稼げている。

 宿を借りて少し貯金ができる程度ではあるけれど、なかなか悪くはない。

 最近は、朝夕の食事に何を加えるかが密かな楽しみになっている。


「そういえば、いつも煙管吸ってるけど、煙草葉は何処で手に入れてるの?」

「煙管はのむものや。これは市場にある薬屋からやな」


 薬扱いだったのか。道理で嗜好品の類で見ない訳だ。

 狐の尻尾と耳、そして目を持ったミカは、その気だるげな雰囲気と相まって煙管を吹かす姿も様になっている。


「あるじさま」

「おっと。それで、相談なのだけれど」

「せやったな」


 煙草盆にぽん、と灰を落として、ミカが番台に体を乗せ身を乗り出した。


「伍に新しく人を入れたいと思って」

「あー、コンはんも抜けてもうたからなぁ」

「そうそう」


 その経緯については、ミカはおそらく僕よりもよく知っている。

 伍の登録を変更するときには、万屋を訪れる決まりでもあるし、どうやらコンの生家も知っているようである。


「野伏が欲しいっちゅう話やったら、まだ空きは出そうにないで」

「いや、この際、野伏じゃなくても良いのだけれど」

「あるじさまと私だけだとどうにも迷ってしまいそうで」


 自分たちだけかと思ったが、やはり他の伍を見かけると、三人以上で組んでいる者が多かった。

 そのうちの一人が地図を見ていて、おそらくそれが野伏というものだったのだろう。


「さいか。ちょい待ってな。今、帳簿を見てみるわ」


 うーん、と悩むように唇に筆を当てながら、ミカは名簿をめくる。

 ぱらぱらとめくったところで、思い出したように机の下から一枚の紙を取り出した。


「なぁ、ロウはん。贅沢は言わない。言うとったよなぁ?」

「え、うん。正直、戦力になるならそれが一番だけれど、そうでなくても」


 何やら、悪いことを考えているような目である。

 獲物を見定めた時のように、瞳孔が縦に開かれている。


「いやいや、おあつらえ向きに戦力としては十分な者がおるんや」

「へぇ、それはまたどうしてそんな人が余っているのかな」


 伍の間では、やはり経験者、実力者を求める声は少なくない。

 かく言う僕も、別の伍に入るのも手ではあるのかと思ったのだが、やっぱりまだ経験が浅いのと、二人組、というところがネックになっているようだった。

 新人一人なら荷物持ち兼道案内で済むのだけれど、二人となるとお荷物な上に分け前も減るということらしい。


「ある意味有名人でなぁ」

「ああ。何か話が読めた気がする」


 問題児、というやつか。


「ま、大丈夫や。有能な術士であることは確かやね」

「術士。尚更、浮いているのが不思議だね」


 術士は珍しい、というのは何度か聞いた話だ。

 それこそ、クロのように強力な者は引っ張りだこらしい。

 それとなく勧誘を受けていたこともあるけれど「私はあるじさまの剣なので」の一言でばっさりといっていたらしい。


「それで、どんな人なの」

「それがな。魔術所の者でな」

「ほう。変わり者が多いとは聞いたことあるけれど」


 ステレオタイプな物の見方だけれど、研究者というのはやはり偏屈、というか変わった人が多いのだろうか。


「御多分に漏れずってやつや」

「そっか」

「それで、符術師でな」

「うん?」

「よく、街中で魔術をぶっ放しては問題になっとるんやな」

「……ちょっと待って」


 どこかで聞いたことのある話だ。


「因みに、その術士……さんはどうして迷宮に潜りたいの?」

「研究費、学費を払うのに金がいくらあっても足りないゆうことでな」

「ああ、なるほど。ねぇ」

「はい。あるじさま。おそらくそのお方は……」


 これだけの特徴を挙げられて、他の人物ということがあるだろうか。

 一つ溜息を吐いて、その可能性を問いかけてみる。


「もしかして、アカネ、って名前じゃない?」


 ミカは少し驚いたように目を見開いた。ついでに瞳孔も広がった。


「何や、知り合いだったんかいな」

「うん。ちょっと前に護符を売ってもらってね」

「なら有能なのは解るやろ」

「それは確かに。確かにそうだけれど……」


 彼女と歩いていると官憲に追い回されそうな気がするのだけれど。


「なら話は早いやんな」

「うーん。どうなのかなぁ。ところで、アカネは十層以下行けるの?」

「勿論や。昔、潜ったときにさくさく行ったみたいやな」


 その手の記録も彼女の手帳には控えられているらしい。


「そっか。知らない人よりは良いのかな……」

「信用、できますか?」


 クロの問いかけに沈黙で返してしまう。


「まあ、難しく考えんでも、試しに組んでみたらええんとちゃう?」

「そう、だね。とりあえず、その方向で考えてみる」

「うん、解ったわぁ。とりあえず、明日の夕方、そうやな、暮六つにでも来いや」

「それじゃあ、よろしく」

「うちも扱いに困っとったんや。それじゃ、また明日な」


 話はそれまで、と、ミカは早速とばかりに何やらしたため始めた。

 そういえば、他の従業員を見たこともないし、潜り屋以外の姿を見た事ないのだけれど、どうやって連絡を取るのだろうか。

 少し気になったけれど、仕事の邪魔をするのも悪いし、と、今日は宿に帰ることにした。

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