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第29話「いやぁ、参った」

「いやぁ、参った」


 数匹の魔物を切り捨てて、柄の具合を確かめるために血振りをする。

 いい加減、通算何体切り捨てたかは覚えていないが、鍔鳴りがすることもなくまだまだ使えそうだ。


「柄とか目釘とかは本体に数えられるのかな」

「いえ、本体は刀身ですから。そうですね、服みたいなものです」


 それもそうか、と黒石目の鞘を見下ろせば、いつの間にぶつけたものかいくらか塗装が剥げて木の地肌が見えていた。


「刀装具は変えなきゃダメかな」

「そうですね。あまりボロボロなのは……」


 と、話しつつ、次の魔物を見つけて切り捨てる。

 今居るのは第五層。そう、前の層に戻ってきている。


「やっぱり、地図を確認しながら戦うって無理だよね」

「方向を見失ってしまいますよね」


 そういう訳なのだ。

 つまるところ、今まで道案内をしていたコンが居ないということで、新しい層へ入る前に馴らしにもどってきた所である。

 今居るのは第五層。多くの潜り屋が稼ぎに入るために、入り口の、転移陣のある広場で魔石を売っていた。

 潜り屋価格ということで、万屋に売った時の価格に少し色をつけたくらいなのはありがたい。

 普通に買うと、値段は二倍三倍になる。というよりも、砕いていない魔石を探すのはなかなか骨だ。

 魔石そのままの大きさが必要な魔力を要求する道具は、業務用の冷蔵庫とか湯沸かし器などになる。


「えーっと、こっちから来たのだから」

「あるじさま、まだ入ってきたばかりですから、一本道ですよ」


 そうだっけ。頭をかいて上を見る。

 ただ歩くだけならどうにでもなるのだが、戦闘を挟むと頭から地図の内容が飛ぶのだ。

 代り映えのしない景色で、目印になるようなものもないのだから、気分がげんなりもしてくる。


「歩いた軌跡を地図に書いてはどうでしょうか」


 というクロの提案は理にかなっていると思ったのだが、魔物が歩き回る中、悠長にそんなことをしている暇がないということでかなり初期に頓挫していた。

 そも、鉛筆やペンといった便利な道具はなく、小筆を墨に浸して……などとやっていたら大変なことになる。というかなった。墨を入れた瓶をひっくり返したのである。

 角筆という、紙にへこみを作る道具もあるのだが、兎にも角にも見づらい。それに、地図に書き込む、ということの問題は、安くはないそれを使い捨てにするのと同義だということだ。


「儲けも少なくなってしまったからなぁ」

「やっぱり、魔物に集中できないのはつらいですね」


 そう。コンが居なくなってから数度、迷宮に潜ったのだが、未だに慣れられないでいる。

 地図を一つ見て、次の場所を正確に誘導してくれていた彼女が居なくなってしまっては、効率も大きく下がっていた。

 三人に分けていた分け前が、二人で分けられるようになったとはいえ、狩れる魔物が少なくなってしまってはどうしようもない。


「次の層でアブミクチみたいなのが出てきても面倒だしなぁ」

「初めて会ったときは、苦戦していましたよね」


 知らずに連携する魔物が現れるとなかなか恐いものがある。

 第五層に限っては、既に十層をクリアしているからか、魔物との戦闘はずいぶんと楽に進められたが、十一層からは十層までよりも辛いとの話は聞いている。


「今日はこれくらいにして引き上げようか」

「そう、ですね。丁度いい時間かと」


 結局、一日の内に半分も進めないまま、地上に戻る道を進むことになる。

 帰り道の途中では他の伍とすれ違うこともあり、互いに半身になって道を譲るものだが、行きでは追い越されることはあっても、誰かに追いつくことはなかった。


「やっぱり、誰か入れるべきなのかなぁ」

「コンさんのありがたさが解りますね……」


 本当に。コンのありがたみが身に染みるようである。

 大事なものは失って気づくとは言うものだが……まぁ、さておき。


「ミカも野伏が必要なのではないか、って言ってたけれど、こういうことかな」

「そうですね。罠や迷宮に詳しい人が居れば随分と楽になります」


 とはいえ、そんな人材は当然、引く手あまたであるから、ミカの言う分にはまだまだフリーの野伏は見つからないそうだ。


「せめてもう一人いれば」


 前衛に僕が一人、後衛にクロが一人。戦闘になると後方の警戒も必要だし、火力としてクロが居ないと苦しい。

 もう一人いれば、クロの護衛に回ってもらうなり、その一人が地図を見るなりできるはずだ。


「ミカさんにまた募集をお願いしておきますか?」

「そうだね。野伏が欲しいとか贅沢は言わないから誰か、と」


 そうこう話しているうちにまた魔物である。


「本当に幾らでも湧いて出てくるなぁ」

「お金になるからありがたいことですけれど」


 行きに倒しているし、後続も居たのに、いくらか少ないとはいえ、いつの間にやら復活しているのである。

 おかげさまで食いはぐれるという事はないのだが、帰りも気を抜けない。


「一番近い転移陣は……どれだろう」

「多少遠くても、解りやすいところが良いですね」


 帰還用の転移陣につくまでに迷ったら笑えない。

 魔物自体は楽に戦える程度ではあるのだが、それでも疲れは溜まるのだ。


「いやぁ、参った」

「口癖みたいになっていますよ」


 おっと。と、口を噤む。とりあえず、弱音を吐くにしても、ここから出てからだ。

 まぁ、口に出さずとも、クロとは契約の糸があるのだけれど。

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