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第21話「ちゃちゃっといきたい」

 第六層、第七層と攻略する。

 文字にすれば簡単な事のように思えたが、実際にはなかなかの手間だった。

 一つの層を踏破しよう、と思ったら、一度の撤収も許されないのだ。

 層毎には途中から入れるが、層の途中からは再開できない。その縛りが効いてきた形である。

 結局、一日に一層ずつ丁寧にクリアしていく、という手しかないようだった、


「いやしかし、この護符、なかなか有用だな」

「本当に。これはアカネに感謝しなければいけないかな」


 コンとそんな言葉を交わす。護符がなければ危なかった、という事態が数度あった。

 それはチョウチンオイワの炎をまともに受けた時だったり、ヤマイヌの体当たりを受けた時だったりするのだが、常ならばそれだけで後退してもいいところを、意外と持ちこたえることが出来た。

 体中擦り傷や軽い火傷だらけだが、その程度で済んでいるのが今までと違う所である。


「チョウチンの火を浴びた時には死んだと思ったけれどねぇ」

「死にはしないだろうが、火傷は残るだろうな」

「顔に火傷痕ですか……それはちょっと」


 思う所があったのか、クロは顔を歪めた。確かに、それは避けたいところだ。

 何やらファンタジーな世界だったが、回復薬に当たるものはないという話から分かる通り、傷は残るのだ。

 実際、初めに受けたヤマイヌの爪による切り傷は、肩にしっかりと痕を残していた。


「わ、私はあるじさまがどんな姿でも大丈夫、ですよ……?」

「そこは無理しないでいいから……」


 あれ? むしろ怖い顔をしていた方が他の人が寄り付かない? などとぶつぶつと呟き始めた彼女にドン引きする。

 結構危ないやつだと思ってたが、ここまでだったか。


「六層ももうすぐ終わりだ。ここで気を緩めないようにな」

「おっと、そうだね」


 コンの声に意識を引き戻す。いくら護符があるから、とはいえ、油断すれば無傷では済まないのだ。

 見れば、正面から見慣れたヤマイヌの姿が迫ってくる。

 もう慣れたもので、足元をざっと見るだけでそこにアブミクチが居るかどうかは解るようになっていた。

 鯉口を切ってから数分としないうちに、ヤマイヌらは魔石と化していた。


「何キロ四方くらいかなぁ。意外と長いよね」

「きろ? まぁ、そうでもなければ誰でも迷宮は踏破できるだろう。この先はもっと伸びていくぞ」


 一層を突破するのは、軽く半日以上がかかる事業だった。

 途中、宿で貰った握り飯を食べるのが唯一の休憩で、後は歩き通しである。


「地図のない所まで行ったら大変そうだね」

「ああ。自分で書きながら進むことになるだろうが、基本は帰還の陣を見たら帰る。という形らしいな」


 そうならざるを得ないだろう。いつ帰れるか解らないのだから、帰れる時には帰って、次の機会には地図の所まで進める。

 ゲームなどで無理やりにでも進めるのは、一つはやり直しが効くからで、もう一つは疲労がないからだ。


「そろそろ小休止といこうか」

「そうだね。疲れてきたところだし」


 道の途中壁を背に座り込む。一時間に一度はこうして休憩をとっていた。

 迷宮の中では一定の灯りがあるせいで時間感覚が怪しくなる。

 ともすれば延々と歩き続けてしまいそうになるが、その結果は注意力の散漫によって魔物の奇襲を許してしまうものだ。


「水を飲み過ぎるなよ」

「大丈夫、大丈夫」


 竹筒の水筒から、唇を湿らす程度に水を飲む。

 水にも制限はあるし、飲み過ぎると運動の後でわき腹が痛くなったりするものだ。


「しかし、順調ですね」

「そうだね。このままなら楽に第六層は抜けられそう」

「うむ。このまま九層までは、一日ずつでいけそうだな」


 かなり安全の為にマージンを取っていたが、この調子ならそれも不要かもしれない。

 どうしても踏破の為に戦闘を避けるから儲けは多少悪くなるが、このまま守護者とやらにぶつかるのも悪い話ではないように思えた。


「どうかな、今の僕らで十層いけるかな?」

「楽に行けるのではないかな。いや、二十層もあるいは」


 コンが考えるように顎に手を当てた。どうやら、十層までは気にするまでもないらしい。


「ちゃちゃっと行きたいものだね」

「いや、焦りは禁物だ。十層も気を抜いていいところではない」


 先ほどとは矛盾しているようだが、おそらく、本気で挑めば行ける、ということだったのだろう。


「ま、慢心せずに行けばいいのかな」

「うむ。どんな相手でも油断してはならない。基本だな」

「……その話、しない方が良かったのでは」


 クロが根も葉もないことを言っていたが、その声はコンの耳には届かなかった。

 僕よりもよっぽど耳は良いはずだから、聞こえないということはなかったと思うのだけれど。

 それが証拠に、少々、冷や汗をかいているように見える。


「さて! 十分に休んだな。この層もあと少しだ。さっさと行ってしまおう!」

「お、おう。そうだね」


 バッと立ち上がったコンは、ずかずかと奥に進んでいく。

 水筒に栓をして、僕もその背中を追いかけた。

 途中出てくる魔物もさっくりと片付けて、結局、楽に第六層は攻略できました。まる。

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