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第19話「一体、何が始まるんです?」

「護符」

「だからそうだって言ってるじゃん」


 目の前の猫耳少女、アカネは頬を膨らませて言った。

 如何にも幼い仕草ではあるが、その見た目にはぴったりだ。


「でもそれだけ安い、っていうのはちょっと恐いものがあるなぁ」

「効き目はばっちりだよ! これでも符術課では神童で通ってるんだから」


 ふんす、と薄い胸を張る彼女の売っている護符は高くて一両程度で、コンから聞いていた使えるのは五両から、という話からするととても安い。

 いわくすぐにお金が必要だから安く売り払っているだけで、その効き目は五両のものにも劣らないのだという。


「本当かなぁ……」

「むっ、疑っているの? じゃあ、そうだなぁ。何が良いかな」


 アカネは懐をがさごそと漁ると、一枚の札を取り出した。


「ごほん。さて、ここに見えますは焔術の符になります」

「一体、何が始まるんです?」

「これをちょいと撃ってやると、えい!」


 彼女がその札を投げると、空中に炎が走った。その威力はチョウチンオイワ以上、クロ未満、と言ったところだろうか。


「ね、そこのクロさん? は術士でしょ? ちょっとこの符を持って」

「構いませんが……なるほど、符というのはこういうものなのですね」

「どういうこと?」

「魔力が込められていて、多分、術士ならだれでも同じ威力の魔法が撃てるようになっているのだと」

「そうそう! 自分の魔力がぎりぎりでも使えるし、ただ、消耗品なのが玉に瑕なんだけどねー」


 ちょっと嬉しそうに説明すると、アカネはさらにもう一枚の符を出すと、ぺたり、と服の内側に貼り付けた。


「これは一番高い護符だけど、これをこうして……さぁ、クーちゃん。それを撃つが良い」

「クーちゃん……? えーっと、これをアカネさんに?」

「危なくない?」

「ふふふ、適当な護符だったらそうかもね。さぁ来い!」

「じゃあ、行きます。えい!」


 一本の炎の矢が、クロからアカネに向かって走る。彼女の姿が一瞬、炎に包まれて見えなくなった。

 思わず息を詰める。これは駄目か、と思った次の瞬間、そこには無傷のアカネの姿があった。


「ね? すごいでしょ」

「確かにすごいね。ここまで効くものなのか」

「ふふーん。まぁ、これは特定の魔法特化のもので、他には全く効かないのだけど」


 ついでに売り物でもないらしい。これは研究用に作った特殊な護符だ、ということだった。

 

「私の符の、しかも炎に対してだけしか効かない護符だから、ま、実演販売用だね」

「それって客に言う事かな」

「あっ」


 アカネはしまった、という顔をする。商売には向いてなさそうだ。


「でも確かに護符には効果がありそうだね」

「う、うん。この護符だって作るのとーっても難しいんだから」


 彼女が並べた護符を見る。それはお札、といった感じのもので、朱色で何事か複雑な文字が書かれていた。

 値段の程は千文から一両といったところで、見た目からはいまいち違いが解らない。


「それぞれ、効果が違う護符だから」


 ということで説明を頼むと、それぞれ特化するものが違うという話だった。炎によく効くとか雷によく効くとか。


「魔法にはそれぞれ波長があってそれを打ち消すものだから、いつかは相手の魔法だけ止めてこっちのは通す、っていうのもできるんだと思うんだよねー」


 それぞれの護符にも短所があって、炎は打ち消すけれど冷気は逆に強まるとか、そういったものもあった。


「強力にすればするほど、反対効果も強くなっちゃってねー。これが課題になるのだけれど」

「うーん、それじゃあとりあえずこの、汎用っていうの二枚もらうかな」

「はい毎度ー! んー、まぁ、そんなに派手な効果はないけど、良い選択、かな?」


 値段的には一枚千五百文といったところだから、手持ちの一両半程から出すのに問題はない。


「その護符は魔法なら大体何にでも効くけれど、軽減量はそれほどでもないから気を付けてね」

「こればっかりは実際に試すって訳にもいかないからなぁ」


 先ほどのように無効化できるなら話は別だが、好き好んで怪我はしたくない。


「ま、信用してよ。不安だったら魔術所で符術課のアカネって言えば通じるから」

「うん。またお金が貯まったら護符を買いに行くかも」

「それは良いね! ついでだから使い心地も教えてくれるとありがたいな……って、やば!」


 それまで物が売れた事にほくほく顔で話していたアカネが、僕らの後ろを見て毛を逆立たせて目を見開く。


「ありがとねクーちゃん、兄ちゃん! またね!」

「お、おう」


 アカネは手早く茣蓙を丸めて商品を片付けると、しなやかな動きで走り出した。あっという間に背中が離れて行く。


「待てー! 街中で魔術を使うとは何事だー!」

「あっ、やっぱり駄目だったんだ」

「でしょうねぇ」


 それを追いかけるように僕らの後ろから来たのは、衛士のお兄さんだった。


「そこの二人! 先ほどの魔術はお前たちの仕業か!」

「えっ、いや、違……わなくもないのか?」

「……一枚、符を使ったのは私ですね」

「話は所で聞こうか」


 お兄さんはもう話も聞いてくれなさそうである。


「はぁ、仕方ないか」

「魔術所符術課のアカネ、って名乗ってましたよね」


 知りませんでした、と言える雰囲気でもないので、大人しくお兄さんに従うことにした。

 一応は配慮されているのか、特に武器を取り上げられることもなく、手錠なども使われなかったが、気分はまさに強制連行である。

 こうして所に連行されるのは、生涯二度目である。一回目はこっちに来て初めての時。


「とりあえず、正直に説明しようか……」


 それ以外に手はないように思えた。きっと解ってくれるだろう。

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