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第17話「試されているみたい」

「こんばんは、かしら?」


 その声にはっ、と目を開くと、目の前には白い、そう、白い少女が居た。

 よく見れば、頬や唇は淡く桃色に色づき、髪もまたその色だった。瞳だけは赤く、そこだけが燃えるよう。


「ここ……は?」


 何とか、それだけを喉の奥から押し出すようにして言った。

 ふわふわとした意識の中、異様に重い首を動かして周りを見れば、白一色の世界が広がっている。

 どこからか地面で、どこからが空なのか解らないその不可思議な空間はしかし、どこかで見たことがあるような気がした。


「ここは、夢。あなたは今寝ているの」

「夢……?」


 そう、夢。彼女はそう言って、唇を綻ばせた。


「迷宮の魔力も、少しずつ馴染んできたみたいね。でも、そう。まだまだ足りない」


 君は、という声を出そうとして、口が動かないのに気付いた。

 いや、自らの体がそこにないような――。


『迷宮の奥で、待っている』


 楽し気に笑う彼女の顔が遠く、遠くへと離れて行き、意識はまた、真っ暗な淀みの中に落ちて行った。



********



「夢を見ていた気がする」

「ほう、どんな夢だ?」


 第五層を探索しながら、ふと思い出して言う。

 朝の目覚めは良いものとは言えなかった。安酒特有の二日酔いから来る頭痛と、魔力吸収のせいだろう、軽い貧血気味な調子で、しばらくふらふらとしていた。

 迷宮まで歩いて来るうちにそれらは覚めたが、今もまだちょっと足元がふわふわしている気がした。


「いや、何か思い出せないのだけれど、とても大事なことだったような……」

「あるじさま、足元」

「へぶっ!」


 もうお約束のように、そこにはアブミクチ。そうなると、周りにヤマイヌが居るという計算だ。

 もはや単純作業となっている狩りだったが、気が緩むと怪我の一つや二つは出来る。


「いてて……」

「よそ見してないで、ちゃんと注意してください」


 クロからお小言を頂いてしまった。

 言っていることは怒っている風だが、その顔は心配しているようなものだ。


「大丈夫か? ロウ殿」

「うん、ちょっと擦りむいただけだから」


 ヤマイヌにちょっとじゃれつかれただけだ。

 慣れてくると、まさにそのまま大きい犬である彼らが可愛く見えてきて困る。

 何が困るって、向こうは殺しにかかってきているのに、刃が鈍る。


「そういえば、人型の魔物とかもいるの?」

「そうだな……近い所では十層の守護者がそれだな」

「そっかぁ」


 人型だからどう、という訳でもないが、この調子だと意外と抵抗感があるかもしれない。


「女の子とかじゃないよね」

「うん? ああ、女子供は切れぬ、というやつか?」

「いや、そういう訳でもないけれど」

「じゃあ、どういう訳なんです?」


 思わぬところで横槍が入った。何故かクロはちょっと不機嫌そうである。

 ちょっとなだめに入る。しかし、確かにそういう訳なのかもしれない。


「安心しろ、十層の守護者の姿形は鎧武者だ」

「鎧武者。何かこの前言ってた事と矛盾は……していないのか」


 鎧を着ていると迷宮では動きにくい、という話をしたばかりだったが、こちらは探索する必要があるのに対して、相手は待ち受けているのだから、武装をしない理由もないだろう。


「十層ごとの守護者の層は、伽藍堂とも言われるが、文字通り広いからな」

「そうなると、こちらも武装していった方が良いように聞こえるのだけれど……」


 うむ、とコンは頷いた。これは説明モードに入るな。


「確かに、裕福な者であれば、鎧なぞを着てこれに挑戦する者も居る。それどころか、広いのをいいことに、弓矢を持ち込む者も居た。かつては、多人数で攻略しようとした者もいたな」

「いた、という事は今は居ないの?」

「ああ。確かに、伽藍堂には守護者が居るが、一人とは言っていないだろう?」

「つまり?」

「人数が増えるごとに魔物が呼び出される。それに、あまりに人数が多いと、守護者自体が増える」


 人数だけ増えた烏合の衆だったその人物の伍は、一瞬で瓦解したらしい。


「守護者とはいえ魔物だからな。倒してももう一度行けば復活しているし、そもそも魔力の塊に過ぎないのだろう」

「うーん。ますますもって試されているみたいだね」

「しかも、守護者は魔石を落とさないのに、倒すとそれ以降の層に行けるようになるのだ。守護者を倒せれば、十分に対応できるくらいの層に、な」


 実際どうなのか、というのは未だに謎らしい。最深部の百層を見て帰ってきた者がいないのだから、それも当然だろう。


「だから、百層には神が待っている。と言う話になるわけだな」

「なるほどねぇ」


 しかしその神とやらは、試練を与えて何を求めているのだろうか。


「あるじさま、足元」

「おっと……ありがとう」


 どうやら、アブミクチはいつもは地面に半ば体を隠していて、足が目の前に来ると食いつこうと飛び出すらしい。

 だから、後ろから見ていると見つけやすいということで、最後尾を歩くクロに確認しているのだった。


「さて、今日はまだまだ稼げそうだな」

「うん。早い所稼いで、次の層に行ってみたいな」


 層を進めば、収入もよくなるそうだし、コンが熱く語ってくるおかげで、僕も迷宮の攻略に興味が湧いてきた。


「百層、何が待っているのかな」

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