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第16話「みんなどうしているの?」


「随分ぼろぼろやなぁ。何があったん?」


 万屋に魔石を換金しに行ったら、開口一番にそう聞かれた。


「いやぁ、ちょっと迷宮で転げまわって」

「ははーん、五層行くゆうとったな。あそこから九層までは嫌らしいもんなぁ」

「苦戦と言う程ではなかったのだが、とにかく煩わしいのだ」

「私は別に大丈夫ですけれど」


 僕とコンは、アブミクチに足を引っかけられ、ヤマイヌに体当たりされ、チョウチンオイワの炎にあぶられて、と散々な目に会っていた。

 一方、クロの方はと言えば、足は動かさなければ引っかけられることもなく、魔物を近寄せることなく次々と叩き落していた。


「これってみんなどうしているの?」


 と、ちょっとした弱音を吐いてみれば、ミカは口元を扇子でかくして少し笑った。


「兄さんも真正面から行く質かいな。見るからに剣士やもんなぁ」

「確かに搦め手は苦手だけれど……」

「あの辺は野伏を連れて行くのが一番やなぁ。途中から罠も増えるから斥候役は居て悪いことはないやろ」


 なるほど、ゲームで言う所のシーフ、盗賊か。しかし、そんな知り合いもいない。


「今のところ空いてるもんは居ないなぁ」


 パラパラと帳簿をめくりながら、ミカが言う。

 潜り屋達は別に集まるところもないのにどうやって伍を組んでいるのだろうと思っていたら、紹介も万屋の仕事らしかった。


「まぁ、今のところは何とかなってるからいいけれど」

「そうだな。いつかは欲しい所だが、今のところは私の耳もある」


 索敵はコンの耳に頼っているし、足を取られるのは多少厄介ではあるけれど、別にそれほど危ない訳でもない。


「また深い所行くときあったら言ってぇな。それで今回の魔石のお代やけれど」

「ああそうだった」


 全部で二千四百五十文、というところだった。一人頭八百文で、五十文は返済に充てる。


「これでようやく宿賃も返せるな」

「別にコンには仕事も紹介してもらったし、構わないのだけれどね」

「いやいや、施しを受けるのは士道に背くものだ」


 ならそもそも借金をするのはどうなのだろう、という言葉を飲み込んで、初めに貸した三百文を返してもらう。


「しかし、こうしてみるとちょっとは余裕が出来てきたね」

「とはいえ、まだまだ必要なものはたくさんありますけれど」

「うむ、そのうち装備も整えたいところだな」


 宿での食事にも、一品増やせる程度には稼げるようになっていた。

 今は夕飯の漬物を肴に市場で購ったお酒を飲んでいるところである。

 日本酒ではあるのだが透明な清酒ではなく、白く濁った、濁り酒、というところだった。

 諸白、という清酒はやはりあるようだったが、値段が張る上等なもので、安いお酒は濁り酒やどぶろくといったものだった。


「装備? 防具とかそろえるの?」

「うむ。値は張るが護符などがあるな。それに、ロウ殿は気にしなくても良いのかもしれないが、刀だって消耗品だ」

「魔力さえ頂ければ、私は折れず曲がらず、ですからね」


 ちょっと自慢げにクロが言う。魔力さえ、の処でこちらをチラッと見た目が相変わらず恐いが、確かにそれは凄いことだった。

 刀は刃物である以上、研がなければ切れ味は落ちていく。他の刃物と違って、蛤刃の形が大事であり、それには熟練の研ぎ師が当たるのだが、それはまぁ置いておいて。

 刃物は研げば薄くなる。それは当然のことではあるが、刀においては用途が用途、武器であるのだから、そうなるといつかは使えなくなるものだった。

 特に、造り込みの中で材質の違う鉄を用いている場合は、薄くしていくとついには芯鉄が出てきてしまう。こうなったらもう使えない。

 それに、意外とよく曲がる、折れる、という事は起こるものだった。幾ら名刀とはいえ、実用するなら消耗するのが当然だった。


「護符、というのは?」

「チョウチンオイワが出てくるようになっただろう。あのように魔法を使う者に対する手段でな。魔力の通りを悪くするんだ」

「やっぱりアレはそのまま受けるものじゃなかったんだね」


 危うくこの世界の人間は皆、異様に丈夫なのかと思うところだった。


「まぁ、魔力を扱う術士には使えないものだが、そもそも魔物も魔力の塊であるから、魔法、物理両面で攻撃の通りを悪くすることはできる」

「そんな便利なものがあったのか……でも、お高いんでしょう?」

「ああ。安くて一両とかになるな」


 実に四千文である。まぁ、長く見れば買えない訳ではない。


「とはいえ、実際に使える、となると五両から二十五両はするな」

「うわ、そんなに値段の差があるものなの」

「まぁ、一両程度では風邪避けのお守り程度のものだな」

「そっかぁ」


 聞けば刀一本二十五両ほどらしいから、鎧と比べれば安いものなのだろうか。


「そういえば、鎧を着ている人ってあまり見ないね」

「どうしても動きが鈍くなるからな。兜に至っては音も視界も遮られるものだから、それよりは身軽な方が良いだろう」


 そもそも、潜り屋、という仕事自体が高給取りに見えて意外と金がかかるものだった。

 普通に生活が出来るほどの収入がありながら、装備の手入れや更新を考えると、首も回らない。

 ずっと第五層に留まっていられれば良いものだが、実際には多くの者が同じ層に入ってくるし、後続の初心者もここを狙うから残っているだけ儲けが減る。

 潜り屋の中では、ある程度慣れてきたら次の狩場に行くのが暗黙の了解だ、というのはコンの談だ。


「暫くは五層で慣らして、六層、七層と進めていく形だな」

「五層と内容はほとんど変わらないのだったっけ?」

「そうだな。十層を攻略して守護者を倒せばようやく一人前、という所だが」

「とりあえずの目標は十層攻略かー」


 十層を攻略しなければ、その先には魔石を使っても進めないらしい。

 そうなると、伍の全員が一度はそこを通過している必要がある。コンは既に一度そこをクリアしているとのことだ。

 酒の瓶を一つ空けた頃、ふわ、とコンがあくびをした。


「方針も決まったことだし、今日は解散かな?」

「そうだな。また明日もよろしく頼む」

「うん、よろしく。おやすみー」

「おやすみなさい」


 ほろ酔い加減で席を立つ。ちょっと酒に足を取られてる気がした。

 なお、本日の魔力吸収は手首を噛ませて、ちょっと貧血気味な気持ち悪さになる程度で済みました。まる。

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