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第15話「おおっと」

「うわっち!?」

「チョウチンオイワだ! ぬっ!?」


 先ほどの二の舞を恐れて、足元に気を付けていたのがあだとなったか、いきなりの攻撃に対処が遅れた。

 飛んできたのは炎の塊で、幸い直撃はしなかったけれど、顔の横を飛んで行ったそれに髪が数本燃えた。


「焔よ! 爆ぜろ!」


 宙に浮いている提灯に向かってクロがいつもの魔法で対処するが、爆発に対しても柳に風。ふわりと揺れただけだ。


「面倒な!」


 コンはコンで足元をアブミクチに取られたらしく、それを切り払うのにワンテンポ遅れる。

 僕は刀を構えて接近するが、あの炎を撃ってくる相手に近づくのはちょっと気が引けるのは確かだ。

 幸い、駆け寄る最中に炎が飛んでくることもなく、切ってみればあっさりと、まさに紙のような感触を残して斬れた。

 切り目から炎に包まれて消える様は、まさにお化け提灯って感じ。


「っふう。クロがポンポン撃ってるアレって、やっぱり恐いものなのだね」

「それはもちろん、炎ですから」


 魔法だからといって、炎というのはそのまま現実の現象である。

 松明が飛んでくるのを考えてみると良い。これに触れれば死ぬのではないか、という恐怖がすごい。

 頬を掠めていった熱量は本物で、おかげで冷や汗をかいてしまった。


「魔法かぁ。僕も魔法使えるようになれないかな」

「うむ、私も使ってみたいところだが、術士というのは希少でな」

「そうなのですか?」


 こんなものがぽこぽこと撃ててたら、確かに恐すぎる。


「魔力との親和性のあるなしで使えるかどうか決まるから、生まれつき、先天的な問題なのだ」

「ちなみにコンは?」

「私は全くない。だから剣を使っているのだが」


 それもそうか。これだけ便利そうな能力があれば、確かに使わない手はない。


「そういえばクロは炎だけれど、やっぱり属性とかあるの?」

「うむ。雷や冷気などもあるらしい。後は、魔法ではなく魔術、だな」

「魔術?」

「ああ、より強力な魔法を使ったり、魔力との親和性の高い低いを補う術、とでも言うべきか」


 私も詳しくはないのだが、とコンが前置きして語ったところによると、魔術を使うには知識が必要だということで、魔術所という研究教育機関がある。

 その中では、巫術、占術、呪術、陰陽術などなど、細分化された魔術の研究がされており、滅多に外に出てくることはないらしい。


「へぇ、魔法って攻撃用途ばかりじゃないんだ」

「偶に食い詰めた術士や、学問の追究を諦めた者が潜り屋になるが、そうなるとやはり攻撃魔術を使う者が多いかな」

「なんでクロは魔法が使えるのだろう」

「さぁ、なぜでしょう。使い魔だから?」


 つまり、クロは魔物と同じようなものなのだろうか。


「何か失礼なこと考えていません?」

「いや、何も」


 さて、続きと行くか、と迷宮の奥に足を向ける。

 第五層は嫌な連携を見せる魔物ばかりだが、タネが解ってしまえば、後は楽なものだろう。


「ロウ殿、そっちではないぞ」

「おおっと」


 踵を返す。コンに地図を見せてもらったが、正直、今、何処にいるのかもいまいちわからない。


「コンって今の位置どうやって確かめているの?」

「うん? それは来た方角と地図を見比べて……ほら、あそこで右に、その先で左に曲がっているところがあるだろう?」


 だからここだ、と彼女が地図上に指した場所は、確かにそういう形の道になっている。


「クロ、解る?」

「いえ、私も地図を見るのはさっぱり」

「……これってコンとはぐれたらかなりマズいんじゃ」


 よくこの二人であの森を抜けられたものだ。もしかしたらアレはかなり危険な賭けだったのかもしれない。


「迷宮の壁に目印を書いたりとかはできないのかな」

「先人もそれを試みたみたいなのだが、結果から言うと無理だ。文字は消えるし、物を置いても次来た時にはなくなっている」

「そういえば、潜り屋の死体も吸収されるって言っていたっけ」

「そうだ。道具の類は時折、置いたところとは別の所に出てきたりもする」

「軽くホラーがかってますね……」

「まるで生きているみたいだね」

「そう! そうだ!」


 何に反応したものか、コンの声が一段高くなる。ぐっとこちらに顔を近づけてきた。


「迷宮は生きている! まるで一つの生物のように代謝が繰り返されているのだ!」

「ソーナノカー」


 近い。キラキラと目を輝かせている彼女は実に楽しそうではあったが、とにかく近い。


「そもそも、迷宮は謎の多い場所だが、徐々に上がっていく難易度と言い、十層ごとに待ち受ける守り人と言い、何かこう作為的な物を感じるのだ」

「あ、そこは疑問に思うんだ」

「何?」

「いや、何でもない」


 これだけなんでもありな世界でも、やっぱりそこは謎なのか。

 僕からしてみれば、何もかもが首を傾げるものだけれど。


「迷宮は一つの生き物だから、こうして餌を差し出すことで、人間を招き寄せているという話もあるが」

「まるで食虫植物だね」

「そう、もう少し考え方を変えれば、共生関係にあると言ってもいいな。そういう話もある」

「コンは違う考え方をしているの?」

「そうだ。迷宮の百層には神が居る。という話は覚えているか?」

「ああ、そういえばそんなこと言ってたね。百層に辿り着いたものはいない、ということも」

「この迷宮は、誰かが作ったもので、百層に到着する人間が出るのを待っているのではないか、と私は思う」


 考えさせる時間を与えるかのように、コンはそこで口を噤んだ。

 あるいは、本人も自分の言ったことを頭の中で整理しているのかもしれない。


「笑わないのだな」

「うん、まぁ、荒唐無稽なものはたくさん見てきたからね」


 コンの耳とかもその内の一つである。


「そうか。この話の続きをしたいのは山々なのだが――」

「あるじさま、敵です」


 正面からはヤマイヌとチョウチンオイワ、足元にはアブミクチ。

 これまでの復習のような陣形で、魔物が道を塞いでいた。


「ちゃちゃっと片付けますか」


 迷宮を作った者が居るのなら、その者は僕らの事を見ているのだろうか?

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