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第11話「ぐーっとやってばーん」

 抜いた刀を肩に担ぐようにして構える。正面から突っ込んでくる相手はもはや見慣れたヤマイヌだ。

 動きは大体把握した。彼らは速さを活かした体当たりを仕掛けてくる。それで押し倒して噛みつこう、という訳だった。


「ふっ!」


 軽く息を抜きながら、袈裟懸けに切りつけた。膝を抜いて返す刀で近づいてくる二匹目を逆袈裟に切り上げる。

 大した力もいらない、寧ろ力を抜いて刀の重さを利用するのだ。


「クロ!」

「はい! 焔よ、護れ!」


 三匹目、四匹目の前に炎の壁が現れる。急なことに止まることも間に合わずヤマイヌはそれに突っ込んだ。

 稼げた時間は、それらが僅かに躊躇った数瞬。だが、柄の握りを直すのにはそれで十分だった。

 袈裟、逆袈裟。結局、これ以外に使う事もなかった。突きは点で相手を捉える以上、突っ込んでくるヤマイヌには使い難かったし、唐竹からだと切り上げるのは難しい。

 燕返し、などとふざけて考えているが、実際にはそれほどの剣の理には全く到達していないだろう。

 ほとんど、力任せの剣であると自省する次第である。まる。


「よっし、片付いたかな」

「お疲れ様です。あるじさま」


 コンに見せるには少々恥ずかしい、荒っぽい剣だった。


「いや、これは実践的な剣だな。刀も剛剣と言って良いそれだ」

「コンには敵わないと思うけれどなぁ」

「そうか? 私にはどう止めて良いものか解らないが」


 相手の手の内を探りたくなるのは職業病のようなものに思える。

 あるいは同じ趣味の者同士が揃った時か。


「それはこっちも同じだよ、コンの剣には起こりが見えなかったし」

「いやいや、この程度ではまだまだ。切ったと知られないうちに切れ、と習っているからな」

「それが出来たら……気づいたら死んでいた、かぁ」

「目指せ、という事だから本当にやれ、という事ではないと思うがな。しかし、出来るはずだと思うのだ」


 などと話が盛り上がっているうちに、次の足音を見つけたらしく、コンが止まる。

 今のところは交代しつつ当たっているので、次は彼女の番というわけだ。


「クロの魔法もどうなっているの? それ」

「うーん、説明しろと言われると難しいですね……こう、ぐーっとやってばーんって感じで」

「ぐーっとやってばーん。こう、溜めて、撃つ。みたいな?」

「そんな感じですね。何と言うか、私としては手足を動かせるのと同じくらい今となっては自然で」


 そうか、クロにとっては手足を動かせるのがそもそも不思議だったのか。

 思わず、刀の柄を撫でるようにすると、微妙に頬を染められた。


「そういえば、クロってどっちが本体なの」

「本体ってまるで機械みたいな……私にとってはこちらに意識があって、そちらの感覚もある、と言う感じでしょうか」


 そういえば電話の子機って最近聞かないな。いや、二度と聞くこともない可能性があるのか?

 まだ一日程度なのに、何かとても、こちらの基準に慣れてきている気がする。

 しかし、こうして考えると、この刀とても使い難いものがあるような気が。


「よし、これでまた一つ」


 などと話しているうちに、コンの方も片付いていた。相変わらず危うげない様子である。

 

「そろそろ時間も良いころか」

「かな。いくつ集まったっけ?」

「ひとつふたつみっつ……」

「おっと、今何時かな?」

「それは八つくらいだろうな」

「で、今いくつだっけ」

「それは八……うん? 魔石の話か!?」


 幾つだったかと頭を抱えているコンの様子を見るに、本当にミカの時そばに引っ掛かったんだな。

 確か、何だかんだといいつつ、十五くらいは狩ってたはずだから、一つ百文として千五百文。

 初日の、しかも半日のものとしては悪くない稼ぎなのではないか。個室分の宿賃を払っても、二百文残る。


「とお、じゅういち……十六個だな」


 おっと一つ多かった。さておき、今日は半日で終わる、と先に決めていたのでここでこのあたりで撤収である。

 しかし、この時間の数え方には慣れない。何故、一つ二つではなく、六五四から九八七と飛ぶのか。

 コンが微妙に恨みがましい目を向けてくるのを無視しながら思考を飛ばす。


「とりあえず、地上に戻ろうか。戻るときはどうするの?」

「む、戻るときは入り口まで行くか、奥の転移陣に向かうかだな」

「奥の転移陣?」

「ああ、次の層に進めるものだが、同時に戻ろうと思えば戻ることが出来る」

「でも、零層の魔石、何てものはないよね?」


 確か、入り口の魔法陣では階層ごとの魔石で転移できると言っていたはずだ。


「うむ。次の層に進むのは魔石がなくても良いのだが、戻る場合にはその層の魔石が必要なのだ」

「そっか、順当に進んでいたら次の層の魔石は持っているはずもないしね」


 奥まで進んだら、そのまま進んだ方が得、ということか。


「あれ? 二層で入り口の転移陣に乗ったらどうなるの?」

「その場合は一層に戻るな。その場合も二層の魔石で入り口まで戻される事になるが」


 そうなると話は変わる。二層からはいずれにしても魔石を消費しないと帰れない訳だ。

 一層一層がかなり広いようだから、一層から出口まで戻るのは難しそうだ。


「とりあえず、入り口まで戻ろうか」

「そうだな。まだまだ来た側の転移陣が近い。そちらから戻るか」


 その間に魔物が出ればそれを狩るのも悪くない。まだまだ体力には余裕もあるし、楽な物だろう。

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