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第10話「なにそれこわい」

「さて、狩るぞ!」

「随分とやる気ですねコンさん」

「ちょっとやる気過ぎて引くかも」


 魔石は魔物から取れるものだから、狩れば狩るだけ良いというのは確かなのだけれど。

 コンは鼻息も荒く、今にも走り出そうな勢いである。


「とりあえず、奥に進むか」

「魔物が何処に居るのか、ってわかるの?」

「このあたりに出やすい、という分布の情報はあるな」


 コンが持ち込んでいた地図を見せてもらうと、赤丸のつけられている場所がある。

 どうやらそこがよく魔物が出る場所、という事らしかった。


「やはり瘴気溜まりの近くではよく魔物が出るらしい」

「何そのガスだまりみたいなの」


 明らかにやばそう。というのは解るが。


「あまり瘴気に当たりすぎると気を病むと聞くな」

「なにそれこわい」

「地図もあるし、瘴気石もあるから大丈夫だ」


 聞けば瘴気石というのは、瘴気に触れていると色が濁っていく石で、これが濁り切ったら外へ出た方が良いというものだそうだ。


「とりあえず、ここで話していてもしょうがないし」


 と、歩を進める。目指すは一番近い瘴気溜まりである。

 地図を見ながら進んでいて気が付いたが、この迷宮、一層が中々に広い。

 百層というと少ないように感じたが、どうやら広さでその辺りはカバーされているようだ。


「そういえば、他の人たちって見ないね」

「ああ、層を追うごとに魔石の質が上がるからな。勿論、魔物も強くなっていくのだが、大体、稼ぎ目的なら五層辺りから始めるだろう」

「稼ぎ目的以外と言うと?」

「踏破目的だな。やはり、こうして迷宮に挑む以上はより深く攻略するのが潜り屋の定めだろう」


 定め、ねぇ。けれど、言いたいことは何となくわかる気はした。


「っと、話しているうちにどうやらお出ましのようだ」


 ぴくぴくっとコンの耳が動いた。どうやらその犬耳は飾りではないらしい。


「魔物か。どうする?」

「ここは私に任せてくれ」


 一人で剣を振るう分には十分な広さだが、二人が並ぶには微妙である。


「じゃあ、お言葉に甘えて」

「ああ、討ち漏らしたら頼む」


 コンが前に立ち、地面を確かめるようにして足を肩幅に開いた。

 リラックスしたような、力の抜けた姿勢である。まだ刀は抜いていない。


「……来ました!」


 クロが言う。長い直線になった道で、奥から四つ足の獣が二頭、走ってくる。


「あれは」


 見覚えのあるそれは、草原で出会った狼のような何かによく似ていた。

 ただ、こちらの方が少し小さく、どちらかと言えば犬に近いように思える。目が赤く輝いているのは同じだった。


「ヤマイヌか」


 山でもないのに山犬というのか、と思いつつ、コンはどう迎え撃つのかと見る。

 彼女は未だ、柄に手をかけてもいなかった。ただ、左手は親指を鍔にかけて、鞘を握っている。


「居合……?」


 いや、立っているので立合、抜刀術の類か。しかし、こうして明らかに敵対している以上、それに利点はあるのか。

 既にヤマイヌは目前、あと一歩で間合いに入る、と思われたとき、コンが動いた。

 いや、結果的にそうだったというべきか。いつの間にか、刀は鞘から出て振りぬかれていた。

 まっすぐに向けられた剣尖に吸い込まれるようにして二匹目のヤマイヌが刺さった。すぐに切り払うようにして刀を引き抜く。

 そのまま刀を鞘に納めた。そこまでの一連の動作がまるで流れるような調子で、流麗、と言うに相応しい。


「ざっとこんなものだな」

「お見事」


 決して速い技ではなかった。目には映っていたのだ、確かに。

 それをそれと気づかなかったのだ。技の起こりが見えなかった。

 つまりは最初から最後まで動いたと思えない自然体だったのだ。


「いやいや、私なぞまだ修行中の身だ」

「そうですよ、あるじさまだって負けてませんから」


 クロの謎のフォロー……というか、対抗心は置いておいて、本当にぞっとするほど美しい剣技だった。

 どうすればコンと戦って勝つことが出来るか。そう考えてしまう。

 居合と言うのは鞘の内、と言う。

 一見、左腰から右に向かっての横薙ぎの技しか放てないように見えるが、実際にはそうではない。

 切り上げ、切り下げはもちろん、突き、はたまた左腰からさらに左を切るような技もある。

 つまるところ、鞘の内にある間は、どんな攻撃が来るかわからない。

 コンの今の抜きつけは前から見ていれば柄頭の点から刃が伸びてくるように見えただろう。

 これをどうにかするには受ける、と考えない方が良い。先に抜かせるか、あるいはこちらが先手を打つか。


「うむ、悪くない魔石だな」


 魔物の死体は、風に溶けるようにしてなくなり、後に残ったのは消しゴムほどの大きさの赤い色の石だけだ。

 コンはそれを拾って、光に透かして見ると満足げに頷き、持ってきていた麻袋に入れた。

 考えを切り替える。少なくとも今は、コンは味方だ。味方にしてこれ以上に頼もしいことはないだろう。


「それ一つでどれくらいになるの?」

「そうだな、これだけで一つ百文にはなるだろう」

「その大きさでそんなになるのか」

「これでも、普段、市井で売っているよりも大きいぞ。普通はこれを砕いて使うものだ」


 そうなのか。そういえば普通に使われている魔石の大きさを知らない。


「さて、まだまだ狩らねばな」

「そうだね、まだ宿賃にもならないや」

「ですね」

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