第五話 前説 早退のお知らせ
今日も今日とてゲーム屋でバイトの長谷川と荒野原。
何時も通りボチボチお客様さんが来る。
昼休憩も終わってまったりと店番をしていた。
「今日もいつもと変わらないね~」
「それが日常生活ってやつだろ?」
「そうだね~非日常はゲームだけで十分だよ」
「ああ」
長谷川のスマホが震えて確認する、画面を見て一瞬怖い顔をした。
そして自分を落ち着かせる為に深呼吸をする、もちろんそれに気付かない荒野原ではない。
「……」
「長谷川君?」
「どうやらゲーム内はやはり非日常らしい」
「どったのさ、怖い顔をして」
「斬摩さん……じゃなかった、斬銀さんがやられた」
長谷川がスマホの画面を荒野原に見せた。
そこには病院のベッドで寝ている斬銀が居た。
スマホに写っている画面は、レアスナタのゲーム内アプリだ。
「えっ、病院送りじゃん」
「俺はこれを見すごせる程人間出来ちゃいねぇ」
「茶化す言い方になるけど、魂貫通ってやつだね」
魂貫通、それはロールプレイ等に使われる言葉だ。
演じているキャラクターとしてではなく、プレイヤーとして心にきた時に使われる。
つまりは縁というよりも、長谷川として許せないという事だ。
「どうやら犬の神にやられたらしい、まあ……ゲーム内の事だしな、仕事終わったらダッシュだ」
「こりゃ仕事放棄フラグ」
「いやダメでしょ、仕事はしましょう」
「話は聞かせてもらったぜ」
店長が何時の間にか後ろに居て、長谷川達は少し驚きながら振り返った。
「行って来い長谷川、荒野原も今日はあがっていいぞ」
「あら」
「たまには俺が店番しないとな」
「店長、ありがとうございます」
「お前は休めと言わないと休まんだろ?」
「そうですか?」
「雇ってる俺が言ってるんだぜ?」
「すみません店長、行ってきます」
「おう」
こうして長谷川達は仕事を早めに終えて、何時も通りゲートへと向かっていた。
「長谷川君にしては感情的に行動したね」
「え? 俺は比較的そだよ?」
「今日は特にそうだね~」
「そりゃそうだ、俺がゲーム内で一番最初にあった人だ」
「出会いって聞いたっけ?」
「言ったような……言ってないような? まあもう一度説明すると」
「聞こう聞こう」
「ゲーム内でつまんない顔をしながら、ブツブツとくだらない事を言ってたらさ」
「話しかけられた?」
「ああ、どうしました? そんな怖い顔をして、私用のキャラクターですが、私は運営ですよってね」
「おお……言ってる事はかっちょいいんだけど、上半身脱いでる男か」
「まあ俺も警戒したけども、直ぐに信用出来たよ」
「そうなの?」
「ああ、ゲームが好きな人の喋り方だった」
長谷川は本当に楽しそうに話している、彼には斬銀との出会いは蜘蛛の糸だったのだろう。
「俺のその時の気持ちや悩みを聞いてくれた人、そして縁としてゲーム内で自分の考えていた設定を生かしてくれた人だ」
「超恩人だね」
「ああ」
「なるほどなるほど、そりゃ魂貫通だね~」
「ま、犯人は許すロールにしようかなと」
「あら?」
「何もされないで許されるという事は……後で何をされても仕方ないだろう?」
これは一言で説明するならば、許さないと同じ事である。
例えば罰金を払った、これは罪に対しての罰という事だ。
何もされにいという事は……もっとも残酷なのかもしれない。
「なるほど……つまりは罰が下って無いからさ? いつまで許されるのか、また何かした時に積み重ねになったりとか」
「ああ、それに……神は慈悲深いからな」
「ふーん……だったら私は殺意マシマシで行こうか」
「あら?」
「何時も通りって訳じゃないよ? 旦那の恩人に手を出したってんならさ」
荒野原というよりも結びとして答えたのだろう、目付きが本気で殺す眼をしていた。
「絶対にぶっ殺す、まあ縁君の考えを最優先するからさ」
「ありがとう」
「あ、ゲーム内も大切だけどさ」
「どしたの?」
「俺昼飯食べて無いや」
「え? それは食べなゃダメでしょ? 休憩あったよね?」
「いやー今日も午前中で終わると思ったんだよ、休憩室のお菓子食べたけどさ」
「ちゃんと食べましょう、てか言ってよ~お弁当作るよ~?」
「だな、英気を養うか……ああ、昼」
「よし、どこかへ寄ってから行こう」
「ああ」
軽食を済ませた後にゲートへと向かった。
今日の縁もとい長谷川達は少し違うかもしれない。