第四話 幕切れ やはり一目置かれている
一本槍の元へと向かった縁達、現場に辿り着くと人型や獣型の犬が倒れていた。
おそらくは山で修行をしていた一本槍を襲撃したのだろう。
「おやおや? もう終わってるね」
「一本槍君がこの程度の神にやられる訳が無い」
「縁先生、結び先生、お久しぶりです」
一本槍は大人びていた、立ち振る舞いはもちろんの事。
だが一番は雰囲気が達人の領域へと入っていた。
何がと言われれば答えられない、言葉では表せられない。
少し汚れた衣服と強い眼差しがそれを助長させていた。
「見ない間に強くなったね~」
「まだまだこれからですよ」
「んで、どうして襲われたのさ?」
「何やら縁先生と因縁がありそうな事を言ってました」
「いや無いな、結びさんにボコられて直ぐに復讐に動いたんだろう」
縁は一本槍が対象した神へと近寄って行く。
その中では実入りが良さそうな服装をしたいた。
つまりはリーダー的存在の可能性が高い。
「で、お前らは何がしたいんだ?」
「けっ……低俗の神が調子にのってんじゃねぇ、俺達の復讐は始まったばかりだ!」
「ほう? 多分だが結びさんにボコられて俺の関係者を襲って復讐か?」
「これは『犬の神とお前達』との戦争になる! 覚悟しておくんだな!」
縁は相手の言葉を聞き逃さなかった、『犬の神とお前達』という部分だ。
表情を変えずにリーダーを見下ろしている。
リーダーは今にもかみつきそうに威嚇をしていた。
「大きく出たな? 俺は戦争経験者で生き残ったんだが? いいんだな? 戦争で」
「ハッ! 人と争っただけの神が偉そうに」
「そうか……ならあの神に今回の詳細を伝えないとな」
縁はカミホンを取り出して話を始めた。
「犬神様ですか? お久しぶりです……ええ、急ぎの用事です、ご足労いただきませんか? ありがとうございます」
縁が通話が終わると、高そうな着物に身を包んだ老犬が現れた。
人型とかでも亜人でもなく犬である、そしてその傍に犬の亜人の付き人が立っていた。
「おうおう、縁の坊ちゃん」
「犬神様、お久しぶりです」
縁は深々と頭を下げた、それを見た一本槍と結びも続いた。
そして、倒れている襲撃者達は驚いた顔をしている。
その中でもリーダーは絶望的な顔をしていた。
「縁君、この犬のおじい様は誰なのさ?」
「この方は犬の神の最上位に居る神様だよ」
「縁君って凄い人達と知り合いだよね~」
「何、縁の坊ちゃんが昔暴れてた時に知り合っただけだよ? 俺の社を壊した時にな」
その言葉を聞いてその場に居る者は縁を見た。
社を攻撃する事、それはその神への宣戦布告を意味している。
「いやいや縁君、なにやってんのさ」
「ああ大丈夫だよお嬢さん、壊れた経緯ってのが大切でさ」
「まあ……確かに? 手違いの可能性もあるし?」
「縁の坊ちゃんが壊したの街に俺の社があっただけの話さ、まあ俺の社を壊したかった訳じゃないって事だ」
「縁君、ちゃんと確認しないと」
「そうだな、本当に申し訳ございません」
「いやいやいいんだよ、あの時の事はちゃんと話し合って決めただろ?」
「縁君とどういう約束したんですか?」
「将来俺と同格の神になるなら許すと言った」
「えぇ……無理じゃない?」
「まあ普通はそうだな、だがガキで根性あるギラ付いた目をしてたからよ、だから将来スゲー神になるなら見逃すと言ったんだ」
「おお……社壊されたのに懐の広い神様だ」
「本社じゃなかったし、小さい社だったしな……それに」
犬神は縁を見定める様に見た、今までのほほんとしていた雰囲気がから一変した。
「俺の目に狂いは無かったな……で? これはどういう事だ?」
「そこの神が大きく出まして、犬の神とお前達との戦争って言葉を使いましてね」
「ほーう? どうしてそうなったか話せ縁」
「はい」
縁は地獄谷の一族に起きた事を簡単に話した。
犬神は聞けば聞くほど顔が睨みを効かせて来る。
「なるほどな……おい、コイツは何処の神の派閥だ?」
「少々お待ちください」
付き人がジッと倒れているリーダーを見て直ぐに返答をした。
「知犬の一族ですね」
「アイツらか……元祖十二支だからってまだ調子に乗ってのか?」
「犬神様質問~、その知犬ってさ……」
結びは無邪気に手を挙げると同時に、目に映る者を滅ぼす目をしていた。
「この私でも殺せる?」
「待て待て界牙流の四代目、アンタに暴れられたら犬の一族そのものが滅びかねん」
「あら、知られてた?」
「そりゃそうだ、縁に伴侶が出来た事は衝撃的だったからな」
「……縁君、恋人出来る事を驚かれる程暴れていたのね」
「ああ、だが後悔はしていないよ? 妹を守った結果だからな」
「まあ話を戻して……縁君が確認したいのはさ、そこの神が『犬の神達とお前達の戦争』って部分だよね?」
「ああ、組織に属している奴の言葉は……『その組織の言葉』として受け取られてもいいって事だからな」
「まあ確かにそうだね、大変だね~組織に属するってさ」
「縁の坊ちゃん知らせてくれてありがとうよ、取り返しがつかねぇ所だった」
「そうなの?」
「当たり前だろ四代目、神としての位は低いだろうが……今の縁に本気で暴れられたら手を付けられねぇ」
「あら~縁君強い」
「四代目、お前さんもだ」
「あら」
「……はぁ、知犬の奴らどうやってケツを拭くんだよ」
唐突に難題を突き付けられている犬神。
それはいたずらをして見つかった犬の様に困った顔をしていた。
「縁の坊ちゃん俺も手を回すけどよ、手が届かない部分もあるぜ?」
「はい、もう容赦なくやりますので」
「縁君が暴れるなら私もだね~」
「名前負けしてるじゃねーか、知犬の野郎共」
名前負けしている、知の犬と書いて知犬、見る限りただの裏社会の者にしか見えない立ち回りだ。
武力には武力、舐められてるから復讐、結びの実力を考えて負ける事は無いだろう。
そしてそれを見ても勝てると思っている時点で愚かなのだ。
もはや付ける薬も無いだろう。
「縁の坊ちゃん、この場は俺に任せてくれ」
「はい」
「んじゃ学園に帰ろうか」
「学園に?」
「一本槍の話を聞こうかなと」
「わかりました」
「んじゃ行こうか」
縁、結び、一本槍は桜野学園へ向かった。
本格的に地獄谷を気に食わない組織との戦いが始まる。