第四話 演目 御神体
縁達が被害者達の元へと戻ると、治療を終えた人達が居る。
アフロ先生達はすでにい居なく、毛布や食べ物の物資があった。
「島主、お客人と犯人連れて来たよ」
京子は島主へと近寄って行き、ぬら爺を指差した。
「……もしやぬらりひょん様ではありませんか?」
島主はぬら爺を見て深々と頭を下げた。
「ん? お前さんは……」
「昔お世話になった者です、今は心木と名乗っております」
「……もしかして血の木霊か?」
「はい、その一族でございます」
京子がコッソリと絆に聞いた。
何故ならただならぬ雰囲気を感じ取ったからだ。
「絆ちゃん、木霊ってなんだ?」
「木の妖怪ですわね、精霊ともいいますね」
「へー血の木霊って事はよくある人間の血を吸って成長した木って事か?」
「多分そうでしょう」
島主とぬら爺は久しぶりに会った、上司と部下の顔をしていた。
文字通りなのだろうが2人の顔は笑顔である。
「あの小僧がここまで歳をとったか、おめぇの母親は約束を守ったようだな」
「はい、妖怪とてし死んでしまいましたが、木としては生きています」
「あー! なんか懐かしいと思ったら、この小僧が貼り付けにされていた木か!」
「……ん?」
京子は素早く頭の中で今の話が繋がった。
木として島主の母親は生きている、貼り付けにされていた木。
つまりは島主の母親はあの木、その木に対して矢を放った。
京子は慌てて声をあげた。
「あの木は島主のお母さんかよ! てか子供の頃登ったり叩いたりしちまったじゃねーか!」
「落ち着け京子、母上はそんな事では怒らない……というか昔から母親だと言ってただろ」
「いや……普通何かの比喩だと思うだろう」
困惑している京子は村の皆を見る。
子供達はきょとんとしていて、大人達は苦笑いをしていた。
おそらくは京子と同じ反応だったのだろう。
「って事はここの奴らはアイツの子孫って事になるのか?」
「はい、人の世の者達と共に歩んでおります」
「そうかそうか……俺も薄情だ、今になってアイツを思い出した」
「それだけ長い時がたったという事です」
「おめぇの母親はすげぇな」
「はい、自慢の母親です」
「なるほどなるほど……じゃあこのクソガキは同胞に弓引いたって事になるな」
ぬら爺は持っている一つ目の妖怪を島主に見せた。
一つ目の妖怪は意気消沈していて喋ろうともしない。
「絆よ、わりぃが同胞で話がしたい、席を外してくれねぇか?」
「わかりました……あ、京子は木工品が得意でしたわよね?」
「ああ、島の民芸品だしな」
「私達の御神体を作ってくれませんか? 無論報酬はお渡しします」
「え゛? いや……え? いや……もっとちゃんと――」
「あら? 自分の腕がしっかりとしてないと?」
「……それは聞き捨てならねぇな」
職人の顔付きになった京子に対して島主が声を掛けた。
「御神体か……私の母親を使うといい」
「……いや、いくら木でも気持ちが進まねえよ」
「何を言っとる、昔から弓の練習やらしていただろうに、それよりいいだろう?」
「……」
痛い所を突かれた京子は、その場から逃げる様に振り返った。
「行って来る……行こうぜ2人共」
「ええ」
「ああ」
そんなこんなで先程の場所へと戻ってきた縁達。
先程の木を見れば大木とまではいかなくとも、しっかりとした木だ。
妖怪というのも納得出来る美しさもあるような気がする。
京子はその木に対して頭を下げた。
「アンタ島主の母親だったとは……いやすまねぇ、やっぱりあまり気が進まねぇな」
「あらあら? 気にしないと言っておりますわよ?」
「絆ちゃん話せるのか?」
「ふふん、神様ですもの」
「直接話がしたい」
「なら木に手を当てて――いえ、私が触れた方がいいでしょう」
絆が木に手を当てると優しい声が辺りに響いた。
『京子さん、お久しぶりですね』
「あ、ああ……最近帰ってきてなかったからな」
「てかすまねぇ、アンタが島主の親だったんだな、アンタに矢を放っちまった」
『それは昔からやっていたでしょう? それにその程度は直ぐに治ります』
「え? あ、本当だ、さっきの矢の部分が治っている」
京子が木を確認すると、矢の傷痕は無くなっていた。
『力は衰えたといえど、私も大妖怪でしたし? ふふん! あ、私の名は樹木子と言うのですが』
「ああ……確か血をすすって育った木だったか?」
『確かにそうなんですが、今はそんな事はしていません! あ!モッコちゃんってどうでしょうか? ちゃんとちゃんは付けてね?』
「いやまあ……可愛げはあると思うぞ?」
『ふふん……まだまだ私、イケるわね』
「……」
島主の母親、つまりは長い時間を生きた妖怪。
おそらく時間の流れもあるのだうが、かなり陽気な木の妖怪らしい。
「えっと……ここの島の住人はアンタの子孫って事でいいのか?」
『ええ、少なからず私の血を受け継いでいますよ? 貴女は……髪の色くらいでしょうか』
「色? 力は無いのか?」
『ありませんね、お気に召しません?』
「いや……妖怪のアンタはきっと綺麗な赤い髪だったんだろ?」
『あ、わかります? 旦那もそう言ってくれたんですよ?』
「……アンタの旦那さん何者よ」
『変わった植木職人でしたね、この私に恋をするくらいにはね? ああ、安心してください? 夫はちゃんと火葬して墓の中ですよ』
「おおう……」
自分の先祖のなりそめもビックリだが、それよりも京子が気になっていたのは――
「オレはこの島の歴史を知らずに育ったんだな」
『昔は結構血生臭い歴史でしたよ? 子供に話す内容ではないですね』
「オレはもう大人だよ、それに育った場所の成り立ちは知っておきたい」
『私から落ちて泣いた子供が大きくなって』
「……ご先祖様視点というより木の視点なんだな、モッコちゃん」
『元々木の妖怪ですし』
子供の頃から見られていた。
この事に対して恥ずかしがっていたら話が進まない。
そう思った京子は本題を話す事にした。
「アンタに頼みがあって来たんだ」
『知ってますよ? 私の身体を使って御神体を作るんでしょ? いいわねーそういう使い方なら大歓迎よ、それに私も大切にしてもらえそうだし?』
「……私が言うのも何だが絆ちゃん、妖怪の木って御神体にいいのか?」
「大歓迎ですわよ、この地の縁と絆を見守ってきた神木ではありませんか?」
「ああ……そういう見方もあるのか」
『あらやだ神木ですって、そんな事言われたらこの身を捧げるしかないじゃない』
「文字通りじゃねーか……まあ御神体作るよりもまずは村建て直さないとな」
京子は壊された村を見回した、どう見ても衣食住は難しいだろう。
絆はモッコちゃんから手を離した。
「お兄様」
「ああ、赤柳さん、迷惑でなければ物資の支援をさせてくれ、まあその前に片付けか」
「え? いやありがたいのだが……今は渡せる物が無いぜ?」
「良き縁と絆を守るのは俺達の努めだからだ」
「んじゃ、神様の恵みに感謝するか」
『ありがとうございます神様』
「え゛? 何で聞こえているんだ?」
『それは貴女が私が話せると認知したからでしょう?』
「そんなもんなの?」
『そんなものです、応援しか出来ませんが頑張って下さいませ』
縁達はとりあえず村の片付けの準備を始めた。
縁は物資の調達も、絆はジャージに着替える。
京子はモッコちゃんの周りから片付け作業を始めた。