第四話 幕開き 絆の親友
縁と絆は自分達の神社へとやって来た。
壊された建物は撤去され、資材と足場等が置いてあった。
まだ工事は始まっていないようだ。
「お兄様、最近神社には来てました?」
「いや」
「お兄様、神としての家なのですから少しは興味を持ってください」
「うーむ……だがガワだけだったよな? 御神体も作ってもらった記憶がない」
「それは前の話です、お兄様も神として自覚を持ってくださいまし」
「え? 御神体作るの?」
「もちろんです、聞きましたよお兄様? 色々な神様に摂社を作ろうと誘っているとか」
「ああ」
「……お客様の場所にもなるのです、しっかりとしてください」
「確かにそうだな、まだ時間は有りそうだが……ゆっくりもしてられないか」
縁は辺りを見回すとがれきの撤去はされ、雑草は取り除かれていた。
よく見れば歩く場所の砂利や石が直されている。
少しずつ神社は直されているようだった。
「お兄様、口酸っぱくいいますけども、何度も言いますが私達の神社ですのよ?」
「ああ」
「お姉様にお熱になるのもほどほどに……いえ、同じくらい神社にもそそいでください」
「だな、俺はもう力の無い青年じゃなくなったしな」
昔の縁は神としては弱かった。
そして若いというのもあり神社をテキトーに管理していた。
だが今の縁は上位の神も一目置くほどになっている。
そんな神が自分の神社を雑に扱うのは、世間の目、いや神々の目にもどうなんだと映るだろう。
「あら!?」
「どうした」
縁が少々思い出にふけっていると、絆が大きな声を出した。
何かを察知したような顔をした縁を見る。
「お兄様私の親友の危機です、一緒に来て下さい」
「わかった」
そう言って縁と絆はその場から消えた。
そして絆の転移に合わせて移動した縁の目に映ったものは……
老若男女のもだえ苦しむ姿だった、虫の息の者、泣いている子供。
縁は直ぐにカミホンを取り出して、何処かに連絡をしている。
「……へへ……やっぱり絆ちゃ……いや、絆様だね」
絆はその声がした方を見た、大怪我をしている女性が木を背に座っていた。
その女性は動きやすい服装にショートヘアーの赤い髪が特徴だ。
「京子!? いったい何が!?」
慌てて京子へと駆け寄った絆は身体を見る。
切り傷や火傷等々、誰が見ても大怪我と言えるだろう。
「絆! アフロ先生達が直ぐに来てくれる、安心しろ」
「ありがとうございますお兄様」
縁の言った通り、アフロ先生が医者や看護師を複数人連れて来て処置を始める。
京子も処置のおかげで一命を取り留め、その場に居る人達も助かった。
絆は横になっている京子に話しかけた。
「京子ちゃん、もう喋れますか?」
「ああ大丈夫だ絆様」
「京子ちゃん、様はいらないわ……何があったの?」
「ああ……詳しくはオレも知らねーんだけどよ、実家に帰って来たら妖怪に襲われていた」
「妖怪に?」
「ああ、一つ目のガキが他の妖怪に指示を出していた様に見えた」
「……絶対にぶっ殺す」
絆は自分のウサミミカチューシャを外そうとするが――
「ほらほら落ち着け絆ちゃん、アンタ口が悪くなるから……名前忘れたけどゴスロリの婆さんの所に修業に行ったんだろ?」
「……失礼しました、我が師の名はトゥルティーヌ様ですわね」
「小さい頃は可愛かったのに、歳重ねると言葉荒々しくなったよな」
「仕方ありませんわ、命を狙われてましたし」
「それは置いといて……ありがとうございました」
「水臭い事言わないで下さいませ、それに敬語はいりません、私と貴女の絆ですもの」
一目見ても2人が何十年と一緒に居たのがわかる。
当たり前の話かもしれないが、縁は絆にも長年の友達が居たのかと安心した。
妹の身の回りの話はあまり聞いてこなかったのだ。
兄妹とは言え、根掘り葉掘り何でも聞くのは違うだろう。
「お兄様、ちゃんとした紹介が遅れましたね、彼女は赤柳京子、人の世で最初の親友です」
「兄の縁です、お話は妹から聞いています」
「ああ、お兄さんとは昔何回かあったんだが……忘れてるか?」
「え?」
「あの時のお兄様は、私に害を成す者を殺す事しか考えてませんでしたから」
「覚えてるぜ、スゲー怖かった記憶があるが……」
縁は昔の話をされると困った顔する。
本人的には振り返りたくない過去なのだろう。
絆を守る為とは言え、多くの人が幸せになり身を滅ぼしたからだ。
京子は縁をジッと見て首を傾げた。
その顔は昔と今を比べて不思議に思っている様に。
「何だろう? なんつーか、惚気パワーを感じる? ああ縁の神様だから絆と同じなのか? 名の通り縁を力とするのか?」
「その通りです京子ちゃん、ああお兄様、京子ちゃんは『命狩り』……言い換えれば狩人とかハンターとかスカウトでしょうか?」
「だな、本当は命狩りなんだが……無差別に命を狩る者と思われてな」
「つまりは相手を探る能力はピカイチですわね」
「なるほど」
「よし、身体を動かせる様になった」
包帯が巻かれている身体でゆっくりと立ち上がる。
手足や身体全体を動かして、何処がどう痛むのかを確認しているようだ。
ニヤリと笑って絆の方を見る。
「待たせたな絆ちゃん」
「では行きましょうか、お兄様も同行してくださいませ」
「ん? 俺もか?」
「正直言って、敵を目の前にした時に正気を保って居られるか心配ですので」
「わかった」
「現場に案内するよ、まあまだ居るかはわからないが」
その場はアフロ先生達に任せて、縁達は京子の案内で敵が居る場所へと向かった。