第三話 後説 道徳と飲み方のお知らせ
縁達はロールを一通りの区切りを付けて、ゲーム内ロビーへと戻って来た。
「お疲れ様」
「おう、お疲れ様」
「お疲れ様ですね」
「お疲れ様でした」
「おつしたー」
「乙」
皆が挨拶をした後グリオードがスッと手を上げて言った。
「すまない、少々無理して出て来たんだ、そろそろ失礼させてもらう」
「お前社長だもんな、頑張れよ」
「ではな色鳥、皆」
グリオードは少々慌ただしいログアウトしていった。
続いていずみもメニュー操作を始めた。
「グリオードさんも忙しそうですね、と言いつつ私も夕食のしたくしますので。これで失礼します」
「おう」
「お疲れ様」
「お疲れ様でした」
いずみに続いて陣英も。
「慌ただしいが俺も落ちる」
「おう、またな陣英」
残ったのは縁、色鳥、シンフォルトだった。
「皆慌ただしい落ちていくなー」
「それだけリアルが忙しいんだろ」
当たり前の話だが、皆学生ではなく社会人であり、長谷川の様なサイクルでゲームをしてはいない。
だがいつかは長谷川も親友達の様に、慌ただしい事になるのだろう。
「と言いつつ俺も落ちるんだけどな」
「お前もか」
「まあな、今日は俺が家事当番なのでな」
「そうか」
「じゃあな2人共」
色鳥もさっさとログアウトしてしまった。
縁は自分とは時間の使い方が違う事を改めて感じてしまう。
これが一般人なんだよな……と。
「ふむ……」
「どうした縁?」
「シンフォルト、口調はいいのか?」
「ま、ロール終わったんだしいいだろ、にしてもさ」
「どうしたよ」
「寂しそうだな?」
「ああ、何つーか……無理して集まってくれたのかなと」
「それは違うだろ、皆で遊ぶ時間を作っただ、つまりこの集まりにその価値があるという事だ」
「物は言いようだな」
縁は今一度自分と親友達は違うんだなと感じる。
働いてはいるが、自分はレアスナタしか無い――
いや、大切な人も居るが……いつかは自分も普通になれるのかを考えている。
そんな事を考えているとシンフォルトが話しかけて来た。
「んなしけたツラすんな、しゃーないもう少し相手してやろう」
「というと?」
「サ店でだべろうぜ」
「いいね」
「そいや、縁は地元か?」
「ああ、中学とか高校生の時に使ってた施設あるだろ? レアスナタは何時もそこでしている」
「実は今実家に帰って来ててな」
「ほう」
「つまりはお前と同じ場所に居る」
「あらまあ」
「ログアウトしてサ店に行くぞ」
「へーい」
ログアウトをした長谷川がロビーで待っていると……
髪を赤く染めたイケイケな女性が話しかけて来た。
服装も絶対にゲームとかしないタイプが着るような服だ。
言わばファッションセンス抜群という事。
「……お前、リアルでもジャージなのかよ」
「そういうお前は相変わらずイケイケギャルだな、横山」
「古い」
「まあお互い変わってなくてよかったよ」
「おっと待ってくれ、彼女に連絡をする」
「お前口から彼女という言葉を聞くとは……」
「ゲーム内で散々聞いただろ」
「……いや……こう……信じられない」
「失礼な奴だなぁ」
長谷川は荒野原へとチャットで連絡をした。
二つ返事でオッケーとの返信が帰って来る。
「よし、ちゃんと連絡もしたしサ店に行くか」
「誘った私が言うのもなんだが……彼女さんは心配しないのか? 女と2人でさ」
「ふむ、お前はなら伝わるだろうが……」
縁はドヤ顔で自信満々に言い放った。
「俺が普通の女性を好きになると思うか?」
「いや、それ彼女さんに失礼じゃないか?」
「お互い様だ」
「そうなのか?」
「荒野原さんは真顔で心からくっさい甘いセリフを言う男性が好きらしい、まあ他にもあるだろうけども」
「……」
横山の顔が物語っていた。
ああ……長谷川の愛する人だからこそ、少々変な女性なのだろう。
そんな顔も気にせずに長谷川は言葉を続ける。
「で、俺はレアスナタガチ勢で……行動力がある女性が好きだ、もちろんこれも――」
「お前から惚気を聞く事になるなんて……」
「……失礼だなぁ」
「ま、とりあえず続きはサ店で」
「だな」
長谷川と横山は施設の近くの喫茶店へと向かった。
テキトーに軽食やドリバーを頼んだ、しばらくして注文の品がやって来る。
久しぶりに会った親友同士近況報告だった。
「長谷川はずっとあのゲームショップで働いているのか?」
「ああ」
「高校の時の先生達に推薦で大学行けって言われてたよな」
「懐かしいな、俺は親に勉強しろと言われたくないから、してただけなのに」
「そいや言ってたな、お前完璧だったなぁ……勉強出来て運動出来て、学校行事も進んでやって、ボランティアもしてたよな?」
「ああ、全ては親にレアスナタの料金を出させる為だ」
「言い方よ」
「俺は学生としてやるべき事をしていた、ま、一言で言えば『親に文句を言わせなかった』だな」
「狂ってるなぁ……」
親友達も引いていた、長谷川を褒めれば次のセリフは間違いなく――
レアスナタの為だ、褒められる事はしていない。
他人が聞いても冗談に聞こえるだろうが……
真実なので親友達は当時あまりふれなかった。
理由は簡単、長谷川を怒らせたくなかったからだ。
妹の話から話を聞いていたからだ、だがそれも昔の話だ。
「そう言う横山はどうなんだ? なんちゃっての悪さしてたけども」
「はっ、タバコモチーフのお菓子に甘酒飲んでた不良だろ?」
「……今考えると……法律違反じゃないんだよなぁ」
「当たり前だ、親に迷惑かけれるかよ」
「今仕事何してんの?」
「ああ、保育士」
「何……だと……?」
見た目と職業が合ってない、喉元まで発言がこみ上げたが、何とか耐えた長谷川。
「っても家業みたいなもんだ」
「ああ実家がそうなのか」
「そうそう、あ、安心してくれ髪型と色は何も言われないが……子供達に同じにしたいと言われるのが困る」
「ふむ……つまりはいい先生と……え? 親御さんから髪の色とか言われないの?」
「私の事知ってる人達多いからな、それに子供達の人気が高いしな」
「子供味方にしてるのは強いなぁ」
「子供はいいぞ、私みたいな不良にならない事を祈る」
「いや……お前不良じゃないだろ、覚えてるぞ? 修学旅行の時に甘酒で先生達が困惑してたの」
「酒だろ? 怒られると思ったんだがなぁ」
「分類的に清涼飲料水だったか、それで怒れる訳ないだろ」
「そうか」
横山はフッと笑った、長谷川はそれを見て何を言ってもダメだなと感じる。
だがそれは長谷川も同じことだ、類は友を呼ぶと言葉があるように、親友達もちょっとおかしいかもしれない。
そんな事を長谷川は考えていた。
「で? お前はリアルではいつ結婚するのよ?」
「ゲームの様にホイホイ決めれないが……出来るだけ早くしたいな、ただ準備はしたい」
「ほう?」
「子供をどうするかとか、家をどうするかとかね……考える事がたくさんだ」
「……やっぱりお前が惚気るとなぁ」
「親友達は俺をどう思っているんだ」
「レアスナタと結婚した奴」
「……ふむ、もっと惚気た方がいいか?」
「止めてくれ、何が悲しくて聞かなゃならんのだ」
「それでは思い出話にするか」
「そうしようぜ」
長谷川と横山は昔話に花咲かせるのだった。