第二話 後説 三丁目のお知らせ
一区切りついた所で縁達はロビーへと帰ってきた。
「お疲れ様縁君」
「お疲れ様結びさん」
「いや~何か知らないけど色々と進んだね」
「うむ、昔考えた縁の最強形態を出すとは思わなかった」
「おお、蔵出しさせた」
「正直言ってホコリ被ってたけどな」
「最強形態考えた時はいつ?」
「うーん……高校の時だったかな」
「その時の製作想いは?」
「絶対に愛している人を守る」
「げっへっへっへっへ!」
何時も通りのイチャイチャをしていると――
「おーい縁」
「色鳥……久しぶりに会ったな」
縁が振り返ると数ヶ月ぶりに親友の姿を見た。
リアルでも色鳥は会っていない縁、何時も大切な彼女と一緒だ。
「うむ、正直言って声をかけづらいだろ」
「え?」
「初めて出来た彼女、しかも結婚を考えている相手との時間をさけんよ」
「いや、今しかないだろ」
「む?」
「結婚したら俺達は子供が欲しい、そしたらゲームやってる時間は絶対に少なくなる」
「……お前からそんな言葉が出て来るとは」
色鳥はゲーム内エフェクトを使って泣き始めた。
縁はそこまでして驚くのか、と内心少しだけショックだった。
まあ今までゲームだけの奴が、愛だの恋だのと言えばそうかと考える。
だが――
「お前は俺を何だと思っているんだ」
「人生レアスナタだけの奴」
「失礼な、最愛の人の為に少々自重する気持ちはある」
「自重なのか」
「ああ、ハッキリとレアスナタしてない君の価値は? と言われた事がある」
「……それはそれでどうなんだ?」
「お、待てい縁君! そこだけ切り取るな! 感情論ではなく何故選んだか弁論大会ひらいてやろうか!?」
「すまない結びさん俺の言い方が悪かった、いくら親友でも俺達の仲良しは全部は理解出来ないよな、これは俺も感情ではなく――」
「わかったわかった、勘違いしないから落ち着け」
色鳥はため息をしながら縁の肩に手を置いた。
親友だからそこ、友と彼女の相性はなんとなく理解は出来る。
類は友を呼ぶという事だろう、それに親友とは言え2人の間に入るのは間違いだろう。
「で、何の用だ?」
「加護持ちで久しぶりに集まろうと話があってな」
「ほう」
「なんと今度の土曜日は全員空いているらしい」
「マジかよ!」
「ほっほっほ、話はわかった」
結びはメニューを開いて、誰かと連絡をとっているようだ。
「楽しんで来なさいな」
「結びさんは?」
「今椰重ちゃんから連絡が来た、加護持ちで集まるようだから、こちらはこちらで集まろうと」
「おお」
「てな訳で今日は椰重ちゃんと飲みに行く」
「わかった、行ってらっしゃい」
「ログアウトじゃ~!」
結びはゲームからログアウトした。
「行動力が高いお嫁さんだ事」
「いや、お前の奥さんもだろ」
「あれ? お前に籍だけ入れたと伝えたっけ?」
「……どうだったっけ?」
2人の間に沈黙が流れた、たったの数ヶ月……たった数ヶ月交流が無いだけでお互いの事を忘れている。
無論、家族となる人とは最優先、だが親友や友達との関わり合いも大切だ。
「縁……俺は今悲しい、いや彼女さん第1なのはいいんだ」
「いやわかる、すまん……こうして友達は自然消滅していくんだなと……実感してしまった、いや俺が連絡すればよかったのか」
「それは俺も同じだな、いや……初めての彼女と連絡しなかった友達周りもか……」
「待て! 気付いたなら今から盛り返すぞ! 結婚したらもっと時間が無くなる、だが俺は結びさんを一番に考えたい……が、皆との時間も大切だ!」
「わかった! 後悔するより今だな!」
「よし、善は急げだ、お前この後は?」
「なんもないぞ? 飲みに行くか!」
「よし! お前の行きつけに行くか」
「ああ、それは良いんだが隣町だぞ?」
「構わないよ、結びさんには連絡する」
「っしゃ、駅で待ってるぜ」
「おけ」
ゲームをログアウトした長谷川は、電車で隣町へと向かった。
電車を降りて改札口へ向かうと――
「長谷川!」
「山野!」
色鳥のプレイヤー山野が待っていた。
黒髪でハンサムな雰囲気を漂わせている。
「お、お前……私服ジャージかよ」
「悪いか? オーダーメイドだ」
「あぁ……だから大人が着ても大人っぽいというか……」
長谷川は何時でもジャージ姿、だがどことなく大人っぽさもある。
基本的に長谷川はジャージをこよなく愛する、例え冬でも。
オーダーメイドで春夏秋冬に対応してジャージを持っている。
「なんつーか、荒野原さんはお前の服装をどうこう言わないのか?」
「ああ、冠婚葬祭はしっかりとしてもらえればいいとさ、んで冗談だとは思うのだが……」
「ん?」
「長谷川君を笑う奴は全力でぶっ潰すと言っていた」
「多分……それは本当だ」
「ふむ?」
「俺の妻が終ちゃんは合法的に、そしてやり過ぎない程度にボコボコしてきた過去がある……と話していたな」
「……逆に気にならないか?」
「ん? 何が?」
「いやこの場合……例えばジャージ姿を小馬鹿にされたらどう復讐するんだ?」
「うーむ……」
「いやいや待て待て、今俺達は友情を確かめに来たんだ」
「確かに」
久しぶりに親友と会った2人は男子高校生の様に熱い握手をかわした。
「それはさておき目的の店は?」
「ああ、貸切にしてもらった」
「え? 大丈夫なん?」
「俺の友達の店だからな」
「おお、遠いのか?」
「ま、タクシーならすぐだな、三丁目にあるんだよ」
「ふむふむ」
山野の案内でタクシーでついた場所は、飲食店が並ぶ観光地御用達の様な場所だった。
目の前にはこじんまりとした個人経営のバーが有る。
名前は『三丁目の一杯』と書いてあり、看板にはたい焼きに手足が生えたキャラクターが居た。
「ここだ、入るぞ」
「いらっしゃいませ」
店内はカウンターとテーブル席が2組の狭い空間だった。
だが流れる音楽や内装で高級感を感じる。
「悪いなマスター、いきなり貸切にしてもらって」の
「いいですよ、何時もお釣り受け取らないじゃないですか」
「お、塵も積もれば山となるか、マスター今日はこれで2人分よろしく、足りなかったら出すよ」
山野は財布から2万円をカウンターに置いた。
マスターは本当にいいのかと確認した後にお金を受け取とる。
「山野いいのか?」
「いいよ、久しぶりにあったんだしな……マスター、ミッドナイト・アンコスター頼む」
「え? アンコスター? そんなカクテルあるのか?」
「うむ、最近は生放送する人達が増えているからな、その人達のレシピだ」
「なるほど」
「そうそう、マスターに教えたら作ってくれるようになった」
「ふーん」
「ちなみにレシピはモーツアルト30ml、カルーア15ml、コアントロー5ml、牛乳15mlだ」
「ほー」
「プラスマスターの改良だ」
「ふむ、それは楽しみだ」
「お待たせしました、ミッドナイト・アンコスターです」
カクテルグラスにはミルクチョコレート色をしたお酒。
そしてミニたい焼きがぶっささっていた。
「……何でたい焼きをグラスにぶっ刺しているんだ?」
「そりゃアンコスターだからだ」
「意味がわからん」
「まあ今日は語ろうぜ」
「ああ」
2人の久しぶりの会話はここから始まる。