第二話 幕切れ ゆっくりと進んで
三人は教会の目の前までやって来た、外観は絵に描いた様な教会だ。
「お、これが教会だね~近くで見ると、古風な外見だね」
「はっはっは、古いだけですがね」
「いやいや、この教会はね幸せとか、祝福に満ちているね~、ふんぞり返ってる神様には無理だね」
「ああ、良き縁を感じる」
「はっはっは、褒めても何も出ませんよ、さ、中へどうぞ」
フィルが扉を開けると……
「うおおおおおぉぉぉぉ!」
結びが歓喜の声を上げた、教会の内部は美しかったからだ。
まず目に入るのが真っ正面にあるステンドグラス。
木の枝の様に分かれている道が、中央で交わる様なデザイン。
神父が話をする時に使う台、そこへ続く真っ赤なじゅうたん。
木の椅子が均等に置かれている、神秘的な雰囲気抜群の教会の内部だった。
「あ、ごめんなさい」
「はっはっは、構いませんよ、感動して頂いて何よりです」
「よし縁君、式場はここにしよう」
「え? 即決でいいのか?」
「ここにはね、いい音があるし風も感じる、祝福されるならここだね」
「縁さん、いらぬ事を言いますが」
「ん? 何でしょう?」
「ご自分の神社ではなさらないのですか?」
縁も縁結びの神なのだから、フィルの質問ももっともだ。
だが今縁の神社はやっと工事が始まろうとしている段階だ。
「ああ……自作自演が何か嫌で、それにまだまだ時間がかかります」
「ふむ、将来的には式も受付るんですかな?」
「あー……建て直しを検討したはいいものの、人手が無い、基本無人だったからな……」
「これは失礼……では話を戻して、我が教会で式をいたしますかな?」
「ええ、お願いいたします」
「本格的な話は――」
その時、入口から少年が走ってきた!
「神父様! 大変!」
「クラベルッツィラ、そんなに慌ててどうしました?」
「ハカリーヌが泣いて学校から帰って来たんだ! 何か大事な手紙を破られたとか」
「……縁君」
「ああ、良き縁を守るのが我が務めだ」
縁はウサミミカチューシャを外して、何時もの神様モードへとなった。
「わっ! ……お兄さん神様なの?」
「少年、その子の所に案内してくれ」
「う、うん!」
クラベルッツィラの案内されると、大泣きしている女の子と、なだめている子供達が居た。
泣いている女の子がハカリーヌなのだろう、手には、メチャクチャに破られた手紙を持っている。
「あああぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁ!」
「ハカリーヌ、泣かないで」
「な、なあ何があったんだよ?」
「ハカリーヌは好きな子と手紙のやり取りをしてただけなのに! それを気に食わないと思った人に破られたらしいの!」
「酷いことする奴らだ! ぜってぇ許さねぇ!」」
男女問わず、子供達は破られた手紙に腹を立てていた。
そしてそれ以上に、はらわたが煮えくり返るのを我慢している神が居た。
「……天罰でもくだすか?」
「はいはい縁君、私じゃないんだから落ち着いて、神様がそんな簡単に天罰降らせちゃダメでしょ」
「だよな」
「それに……目の前で泣いている子を見捨てていく神様かい?」
「すまない、こういうのは一番許せなくてな」
「そりゃ私もさ、見てて気持ちいいもんじゃない」
「身丈」
縁の兎術である身丈が現れ、ハカリーヌの足元へと近寄った。
ハカリーヌは身丈と目が合った、その瞬間泣き止んだ。
目には涙が溜まっているが、ぱったりと泣き止んだのだ。
「……兎さんだ」
縁もゆっくりとハカリーヌに近寄り、目線を合わせた。
周りには子供達も居るはずなのだが、まるで縁とハカリーヌしか居ない様に会話を始めた。
「お嬢さん、大丈夫かい?」
「……大丈夫じゃない……てかだあれ?」
「俺は縁、たいした事は出来ないが……その手紙を直してあげよう」
「え? こんなになっちゃったのに?」
「大丈夫だ、こんな暴力で良き縁をどうこう出来ない」
手紙が一瞬だけ光った、するとハカリーヌの手には、しっかりと元の手紙を優しく持っていた。
「ふぇ!? な、治った!?」
「俺が出来るのはここまでだ」
2人だけの世界が終わる様に、子供達が声を上げ始めた。
縁は結びの元へと戻った、身丈は縁の肩に乗っている。
「ええ!? 魔法?」
「スゲー! 手紙が直ってる!」
「あ! みちゃダメ!」
子供達はハカリーヌの手紙を見たがっている。
見たいと言っても内容ではなく、どうやって治ったなのだが。
ハカリーヌはそれを見せないようにと、逃げ回っている。
「ありがとうございます、縁さん」
「フィル神父、余計な事をしましたか?」
「いえ、私では同じ事はしません」
「おや? どうしてなのさ、神父さんや?」
「子供達には厳しくしています、ああ一般的な厳しさですよ?」
「ああ……子供を持つ親みたいな感覚ね」
「ええ、あの子達は私の子供ですから」
これは難しい問題だろう、何でもかんでも手助けしていいのか?
身内だからこそ厳しく、他人だからそこ優しくこの逆もまたあるだろう。
「これ! ハカリーヌ、兎のお兄さんにお礼をしなさい」
「あ!」
ハカリーヌと子供達が、ニコニコしながら縁に近寄ってきた。
「おじちゃんありがとうございます!」
「ああ、どういたしまして」
「その兎はおじちゃんのペット?」
「うん、家族かな」
「ふっふっふ、おばちゃんも出せるよ~」
結びは血風を呼んだ、子供達に近寄ると愛嬌を振りまいた。
そこに身丈も混ざり、子供達は二羽を触ったり撫でたりしはじめた。
「わ、真っ赤な兎さんだ」
「可愛いー」
「真っ白兎さんも居る」
そんな微笑ましい光景を見て結びは頷いた。
「よし、縁、今日は子供達とのふれあいの時間だね~」
「下見はもういいのか?」
「ふっふっふ、これは将来の投資だよ、子供達とのふれあいはね」
「なるほど」
いつかは将来的に2人の子供が出来るだろう。
その前に、やらなきゃいけない事はたくさんある。
2人の幸せに向かって歩くのは、ゆっくりと進んでいるのだ。