第七話 演目 言い方を変えれば戯れ
明らかに可笑しい状況である、誰から見ても相思相愛な2人。
相手の言った通りに、風月と縁が殺し合いを始めてしまったのだ。
だがその疑問を投げかける者は居ない。
そもそも本気で殺し合うなら、全力で絆が止めるはずだ。
「界牙流! ただのけり!」
風月が何時も通りの先制攻撃、縁はいとも簡単に吹き飛んだ。
いつだったか、風月がクラリアと手合わせした時と同じ様に。
木々をなぎ倒し、山に新しいトンネルを掘り、海を割った。
だがしばらくして、縁は風月の目の前に立っていた。
見るからに大怪我だが、縁は不敵な笑みを浮かべている。
そして、風が周りの木々や大地を使って、音を奏でていた。
「やるな」
「ん? 演奏術の移動方法? いつの間に」
「君とずっと一緒に居たんだ、これくらい出来る」
「あらあら、素敵な告白ね~」
風月が縁に向けて、殺意をむき出しにした顔をした。
絶対に愛する人にはしない。
しかし、よく見れば楽しそうに笑ってもみえる。
まるで『子供同士のごっこ遊び』をしているかの様に。
「縁、ここからはお喋り無しだ、本気で殺してやる」
「面白いな人間、いや仙人か? 神に勝てると本気で思っているのか?」
もうここからは、神話で語り継がれるような戦いだった。
お互いの技で、木々は吹き飛び大地は割れる。
縁も風月も周りは気にせずに、強力な技をガンガン使う。
焼け野原、いや、荒野になろうとも2人の戦いは終わらない。
それを呆れた目で見ている絆。
「……お兄様もお姉様も随分と楽しそうですね、というか気付いてますよわね? アレは」
そしてずっと苦しんでいる娯楽を再び見る絆。
その瞳は全てを見透かしているようだった。
「さて、娯楽さんに『憑依している』貴方も楽しんでいますか?」
「てめぇ……小賢しい……マネを!」
娯楽は先程とは違う声を発した、だが状況は何も変わらない。
憑依している何者かが苦しがっている、これだけだ。
その者は正体がバレたからか、怨み辛みを好き勝手言う。
絆はため息をして、首を横に振ったのだった。
「あら? 私は何もしていませんわよ? この状況自体が色鳥の手のひら、遊びの加護を甘く見すぎましたわね」
この状況自体が遊びの加護が引き起こしている。
おそらく憑依している何者か以外は、この状況を理解しているのだろう。
だからこそ、縁も風月も好き勝手殺し合い……いや、遊んでいるのだ。
ある意味でイチャイチャしている2人に、ついに絆が怒った。
「お兄様! お姉様! とっくの昔に気付いているなら『ごっこ遊び』は止めてくださいまし!」
「ありゃ、怒られちゃった」
「そろそろ止めるか」
「だね~未来の妹には嫌われたくないし」
縁と風月が手を止めた瞬間、辺りの景色が元に戻った。
まるで最初から何もなかったかのように。
この状況を見て、完全に理解い出来る人間は居ないだろう。
神の力は人間の人知を超えているからだ。
仮に人間に出来るとしても、解説と説明大好きないずみだけか。
「あ、縁、本気で殺すって言ってごめんよ」
「言葉遊びだろ? 俺もすまなかった」
「はいよ~」
「お帰りなさいませ、お兄様お姉様」
「いや~遊びの加護は凄いね、くぅ~いずみが居れば説明してくれるんだろうけども」
「説明……あ、まさか」
「ん?」
縁は病院で絆から渡されたメモを取り出した。
そして、振ったり息を吹きかけたり、太陽にかざしたりした。
すると、メモに魔法陣が浮かび上がり、半透明の小さいいずみが現れた。
ドヤ顔でメガネをクイクイしている、どうやら想定内らしい。
いや、全てを知っている彼女には朝飯前だ。
『流石は縁さん、私の隠したメッセージを見つけるとは! あ、リアルタイムで通信とかではありませんよ? 一方的なメッセージですよ? 今の私はベッドの上でおねんねですからね、ぴえん』
「……」
『もちろんわかってますとも! 縁さんが呆れているのも、絆さんが少々不機嫌なのも、風月さんが知りたがっているのも!』
「……」
『はいはい縁さん、お前随分と余裕だなって? そりゃそうですよ、何回死んだり蘇生したり、気絶したり重体したりしたと思ってるんです?』
「ふ~む、いずみも大変なんだね」
『そうなんですよ風月さん! 慣れって怖いですね、昔みたく痛い思いはしたくないって、大泣きしたいですよ』
「って、それよりもって言い方はいずみに悪いけど、解説してよ~」
『ふっふっふ……そうですね、ではこれから色々と解説しますよ』
風月以外解説をのぞんでいなくとも、おそらくは必要な事なのだろう。