第七話 幕開き 不釣り合い娯楽
縁と風月は、アフロ先生が運営する病院へとやって来た。
絆からの連絡で、色鳥といずみが襲撃されたらしい。
病院の入り口で絆と合流した。
「お兄様、お姉様、お久しぶりです」
「絆、何があった」
「色鳥といずみの『加護』が盗られました」
「色鳥はいいとして、いずみはまずいな」
「そりゃどうしてさ、縁」
「例えでいうなら、色鳥は装備品を取られた程度、いずみは魂を取られたといっていい」
「いやいや、それやばいじゃん」
「お兄様、いずみからメモを預かっています」
「あいつらしい」
縁は渡されたメモを見た。
こんにちは縁さんに風月さん!
私は今昏睡状態でしょう!
しかし、心配はご無用ですよ?
縁さんの事でしょうから、私を先に救いたいでしょう?
ですが色鳥さんからお願いいたします。
ちなみに、色鳥さん今身体のだるさで病室に居ます。
私の言葉を推してくれるのならば、敵と『遊んで』あげてください。
アフロさんの病院にいる限り、私達は大丈夫ですので。
メガネをクイッっとしてもこれを書いてますよ。
では、よろしくお願いいたします。
メモを見終わると、縁は呆れた顔をしながら鞄にしまう。
「……ふぅ、本当にあいつらしい」
「どゆこと?」
「俺の親友に手を出したんだ、なぶり殺しにしてやる」
「なるほど、いずみは縁の気持ちを組み取ったと」
「ではまいりましょう、お兄様、お姉様」
「ああ、場所はもう感知した、付いてて来てくれ」
「ほいよ~」
病院から移動して、縁達がたどり着いたのは山だった。
どこの国で誰の所有かは関係ない、ここに色鳥の力を奪った輩が居る。
縁を先頭に山道を進んで行くと、ボロ小屋が見えてきた。
切り株を椅子にして、薄汚い山賊風の男がニヤニヤとしている。
「ほう、俺の根城がわかったか、ま、神様なんだから隠し事は出来ねぇか、俺の名前は『娯楽』だ、まさに遊びの加護はを持つにふさわしいだろう?」
血の滴っている分厚い刃物を、縁達に見せびらかした。
「この遊びの加護は素晴らしいな、試しに人里を襲撃したら大成功よ、これで好き勝手出来るぜ」
「……ふむ」
「お前達の目的はわかっている、奪われた能力を取り返しにきたんだろ?」
「そうだが――」
「縁と風月だったか? お前ら殺しあえ、生き残った方が俺と戦う権利をくれてやろう」
「なるほど……いいぞ」
「はっはっは! 面白い返答――」
縁と風月は娯楽に向かって蹴りを放った。
道楽に左右の同時攻撃、縁は右足で道楽の左ほほを、風月は左足で反対側。
鈍い音が辺りに響いたが、娯楽は相変わらずニヤリとしていた。
「あら、死なないんだ、どうして縁?」
「遊びの加護はだからだな、終わってから説明するよ」
「……はっはーん、ピンときた! ま、後で答え合わせよろぴく」
「俺も全部知ってる訳じゃないが……絆、そいつにどう不釣り合いか説明してやってくれ」
「お兄様、承りましたわ」
縁と風月は意気揚々と絆から離れて、お互いに向き合った。
そして、今までニヤニヤしていた娯楽が苦しみだした。
両手で喉を押さえて、のたうち回り、絆は無表情で見下ろしていた。
「では、一気に説明いたしますわね? 私も全て把握はしていませんが、遊びの加護は『ちゃんと相手にルールを最初に言っておくこと』ですわ、ギャンブル系の創作物でよくありますわよね? 長ったらしいルールを聞いて、抜け穴を見つける、貴方が提示した情報は『互いに殺しあえ、生き残った方と戦う』でしたわね?」
「ぐっ! ぎっ! しゃべ……れ……な!」
「お兄様とお姉様が最初に貴方を攻撃したのは、それ以上喋らせないためです、では何故そうしたのか? 『それ以上の誓約をさせないため』ですわ」
「き! さ!」
「最初に『最後まで聞け』と文言を入れておけばよかったのです、まあ、どんな制約でも貴方はここで死にますわ」
「ぐっ! がっ! ぎっ!」
「遊びの加護は詳しくは知りませんが、私が確実に言える事を言いますわね?」
喉の苦しさから地面をジタバタしている娯楽。
絆はそれはそれは楽しそうな顔で道楽を見下した。
「不釣り合いな力を持つから、早死にするんですのよ?」
絆から離れた場所で、縁と風月はお互いやる気満々で向き合っている。
縁はウサミミカチューシャを外して、何時もの神様モードになった。
「縁、手加減しちゃだめだよ? ってその姿なら本気か」
「殺し合いだから全力だ、またとない機会だからな」
「あらあら、凄い殺意だこと」
「お互い様だろ」
風月は自身の素早さを活かして先制攻撃をした。
シンプルなハイキックで縁の頭を狙う。
しかし縁は無傷で、よく見ればほんのりと縁の肌が赤みがかっていた。
それに気付いた風月は、直ぐに縁から距離をとる。
「この防御力は!? 斬銀の赤鬼か!」
「俺は親しい人達の力を使える、知ってるだろ?」
「うむむむ! 何故私じゃないんだ」
「現状、斬銀さんが一番の仲良しだからな」
「私じゃないんかい」
「人の縁はじっくりと育っていくものだ、特に愛は」
「だったら縁の神様に見せつける時だね?」
風月から優しい白い色の光が溢れ、そよ風がそれと交わりふわふわと周りに浮いている。
「私がどれだけ縁を愛しているか、君の言葉を借りるなら……身の丈にあった恋愛の上限を上げる、つまりは縁と結婚してやる!」
「俺に勝っても婚期は早まらないぞ?」
「思い出の積み重ねが近道だよね~?」
「確かにそうだな」
こうしてお互い殺し合い、もとい殺し愛が始まったのだが。
この2人が無意味に殺し合うなんて事はしない。
遊びの加護に隠された秘密が、2人の行動の理由なのだろうか。