第五話 幕切れ 手助け
グリオードが帰って来るまで、国を見せてもらう事にした。
縁達が宮殿から出で目に入った景色は、悪く言えば闇鍋、よく言えばおもちゃ箱をひっくり返しただ。
何故ならまず建物に統一性が無い、石造り、ワラの家、たて穴式住居、SFチックな近未来まで様々。
住んでいる人々も原始人から未来人ぽい人、天使や悪魔や……数えたらキリがない。
「よく見ると、世界観ごちゃごちゃだね~」
「そりゃ色々な人達が居るからな」
風月はドーナツの形をして、大きな石を転がしている原始人を見つけた。
「む? おお、アレは石のお金では? めっちゃ衣服原始人だけど」
「ああ、あの人は石金職人のゲンさんだ」
「おお、お金作ってる人……え? この国の通貨って何?」
「見るか? ちゃんとした硬貨と紙幣があるが」
「見たい~」
縁は鞄からお金を取り出して風月に見せた。
お札は宮殿が描かれた物や雪が描かれたものがある。
硬貨の方は砂漠に生息する植物等が描かれていた。
「おお~ちなみに名前は?」
「クルーカ」
「……まさか、グリオードが生まれた場所で賞賛って意味とか?」
「いや、ある程度人が集まった時に決めたらしい」
「なるほど、ん? 原始人さんの石はお金も使えるの?」
「この国でな」
「ふむ、じゃあ価値は?」
「プレゼンで決まる」
「ええ!?」
風月は驚きつつお金を縁に返した。
「例えば、この石の金をここまで運ぶのに、石金作りの師匠や仲間が死んでしまった、もうこの石金は作れない、とかな」
「おお~なるほどなるほど、でもそのゲンさん何で今も石金作ってるの?」
「美術品やお土産用だな、後は石金祭り」
「美術品て……税金対策かよ、てかお祭り?」
「ゲンさんが居た時代では、子供達に小さい石金を作らせたらしい」
「あ、なるほど、石金を作る技術とプレゼン力を高めるのか」
「そうそう、この国では石金祭りの時に、子供達はお祭りで使える通貨に交換する為に作る」
「おお、文化の保持だね~」
「あれ? あの時助けてくれた神様じゃねーか!」
宮殿の入り口に続く階段、下から上を向いて手を振る兵士が一人。
縁達は階段を下って兵士に歩み寄っていく。
「んん? どなた?」
「ジャスティスジャッジメントに脅されてた傭兵さん」
「ほほう」
グリオードの国の国境ギリギリに突然現れた関所。
それは違法な催し物や品が取引されている場所だった。
さらに長期滞在すればするほど、自分の存在が幻になってしまう。
縁、絆、色鳥と共にその関所を調査する、いや、突撃した。
とある少数精鋭の傭兵達が、ジャスティスジャッジメントの依頼でその関所の護衛をする。
隊長以外の存在が幻となってしまい、隊長は部下を助けるために仕方なく命令を聞く。
縁は隊長の強い縁を感知して、該当する部下を元の人間に戻した。
関所での出来事が終わった後、この国に保護されたようだ。
「あの時はありがとうよ! あ! ちゃんと自己紹介してなかったな! 俺はタルアン・グリッセル、今は隊長達とこの国の警備をしてるぜ!」
「あれ? この国の警備って麗華が一人でしてるんじゃ?」
「それは国防だ、俺達が担当しているのはちょっとした問題や事件さ」
「警察か」
「ああ、そう言えば良かったか!」
少々軽いタルアンは手を叩いて笑っている。
ふと風月は建物の物陰に隠れて、タルアンの背後を狙う少年を見つけた。
訓練用の殺傷能力が低い折り畳み式の槍を構えている。
「んん? あの少年タルアン狙ってるね~」
「ああ気付いてるよ」
タルアンは振り返る事無く笑っていた。
不意打ちを仕掛けようとする少年とは見知った関係らしい。
「熱意で隊長に弟子入りをした奴でな、真面目で俺とは正反対だ」
「ほほうほう、あの男の子は槍投げが得意とみた、でもしてこないのは私達に当たる可能性を考慮してるのか、偉いね~」
「そこまで見破れるとは、あんた何者さ?」
「界牙流四代目の風月、縁のお嫁さん」
「おおう、これは熱烈な自己紹介だ……って、界牙流四代目だと? マジで?」
「噓言ってもしょうがないじゃん~」
「それもそうか」
風月とタルアンはお互い笑う、そしてしびれをきらした少年は、タルアンへと特攻した!
まるで見えているかのように、タルアンは少年の槍での突き攻撃をかわした。
続けて払い、切り上げ、振り下ろし、また突きと少年は攻撃方法を変えても、タルアンには当たらない。
「はっはっは! まだまだだなボウズ? 隊の中では俺が一番身軽なんだぜ?」
振りえる事無く少年をおちょくってるタルアン。
むしろ避け方が人を小馬鹿にした様な動きだ。
「ぐおおおお! ちょこまかと!」
「ほれほれ、槍の特徴をちゃんと使えー?」
当たらなさ過ぎて少年は徐々に力任せに槍を振るう。
タルアンは軽くため息した後に、風月達に手を振った。
「んじゃなおふたりさん、このボウズの相手するからまた今度話そうぜー」
「逃げるのか!」
「いやいや、相手するっていってるじゃん? ああいや、避けるなってか? だったら当てればいいだけだ、さ! 出来るかなー?」
「ムキー! 当ててやるー!」
タルアンは少年のしっちゃかめっちゃかな攻撃を避けながら、人が居ない方向へと歩いて行った。
「あの子には悪いけど、微笑ましいね~」
「そうだな」
「あの……もしかして縁結びの神様の縁様でしょうか?」
「ん?」
話しかけられてその方向を見ると、天使の女性が居た。
絵に描いた様な天使のその女性は、絵の顔を見ると手を合わせて祈りを捧げる。
「はいそうですが? どなたですか?」
「申し訳ございません、私はエンジュエルと言います、ほんの少しだけ縁様のお力をお貸しください」
「神の手は借りない方がいいですよ?」
「まあまあ縁、聞くだけ聞いてみようよ」
「まあそうだな」
「ありがとうございます……私は天使で夫はゴブリン、2人の子供を授かりました、1人はゴブリンで天使の羽が生えた男の子、もう1人は緑色の翼が生えた天使でした」
「ほうほう~」
「私達一家は事実無根の誹謗中傷に耐えかねて……この国に来ました」
「何処でも好き勝手いう奴は居るよね~」
「だな」
夫がゴブリン、この情報だけで色々と想像出来てしまう。
そのゴブリンの性格や考え方ではなく、世間一般のイメージや常識で周囲が好き勝手を言う。
縁も少々ぶっきらぼうな態度をとったが、同じ様な境遇の者に少し手を貸そうと考え始めた。
「ですがこの国で、娘の緑色の翼を褒める男の子があらわれました」
「ふむふむ察した、お母さん的には娘の恋を応援したいと」
「はい、見てるこっちがもどかしくなりくらいに……はよしろと」
「だってさ縁、ちょっとはお手伝いしてもいいんじゃない?」
「いや必要無い」
「おやおや、なんでまた?」
「神の力なぞ無くとも、良き縁は巡るからだ」
縁が指を指す、その方向には一つ目のゴーレムの男の子と、緑色の天使の羽の女の子が何か話していた。
そしてその様子を、普通の住宅の二階建ての高さ位の背丈がある、サイクロプスの女性が建物の影からそれを見ている。
隠れているとは思えないが、子供達はその存在に気付いていないようだ。
「ストン君、お手紙読んでくれた?」
「読んだけど……オ、オイラ、何て言ったらいいか」
「……迷惑だった?」
「違う、オイラ……嬉しいけどなんといったらいいか」
「かぁー! まどろっこしいねぇ!」
「か! 母ちゃん!」
サイクロプスのお母さん、息子の漢を見せるシーンにどしどしと地面をゆらして堂々と乱入!
息子のストン君、これは恥ずかしいだろう、おそらくは自分の気持ちを伝えようとした瞬間に母親が来たのだから!
「ストン君のお母さんこんにちは」
「おうおう、エルメラルドちゃんこんにちは!」
「何で母ちゃんがここに!? 鍛冶屋は!?」
「馬鹿野郎! 毎度毎度大切な場面でな!? うろたえてるバカ息子に喝を入れに来たんだよ!」
「えぇー! ほっといてくれよ!」
「お子様がいっちょ前になーにがほっといてくれだよ、何カ月も前に手紙を貰っといて、返事が遅くないかい?」
「なっ!? オイラとエルメラルドは大切な話をしているんだ! あっちいっててくれ!」
サイクロプスのお母さん、茶々入れる顔ではなく急に親の顔になる。
「だったらストン、自分の気持ちは素直に言いな、言える時に言葉を言わないと後悔する事もある」
「いい言葉で騙されないぞ! 母ちゃんはおちょくってるだけだ!」
「はっはっは! お子様には早かったかね?」
「ぐぬぬぬ!……エルメラルド! あっちで話の続きをしよう!」
「え!? ……あ、うん!」
ストンはエルメラルドの手を引いて、その場から走り去った。
「はぁー本当に茶々入れないと進まないバカ息子だ……おや?」
サイクロプスのお母さんは縁達の方を向いて、どしどしと地面を揺らしてこちらに来た。
「おお、エンジュエルさんじゃないかい……私が息子達をかき乱しちまったね」
「いえいえサイクロさん、ありがとうございます、正直に言いますと……娘がほぼ毎日ため息と上の空で……その、ウザいなと」
「はっはっは! でも可愛いんだろ?」
「もちろんです、全て含めて愛おしい娘です」
「うちのバカ息子がすまないね」
「いえいえ、ストン君には娘を助けて頂きありがとうございます」
「いやいや私も――」
ふと縁達が目に入ったサイロクは瞬きをしてジッと見て驚いた。
「おお!? 誰かと思ったら縁じゃないか? ……もしかしてアンタの導きかい?」
「いや俺は何もしてません、ただ見ていただけです」
「そうかいそうかい、んじゃエンジュエルさん、恒例のお茶会としゃれこみましょうか」
「はい、縁様、失礼いたします」
「ええ」
エンジュエルとサイロクは奥様トークをしながらその場から居なくなった。
「縁、もう大丈夫だよ」
「……ゴフゥ!」
縁は突然いい笑顔をしながら、血吐く勢いで地面に倒れそうになった。
「あ、危なかった! あのまま尊い恋物語を見せられていたら、本格的に手助けをしたくなる! 純粋な縁は助けたくなるが! が、我慢せねば! 恐るべきラブコメの波動!」
純粋であればあるほど縁は手助けしたくなってしまうようだ。
神は助けないと言っていても、いい縁は助けると常日頃言っている縁。
今回の純粋さはかなりやばかったようだ。
風月には見えない縁の神だからこそ、子供達の積み上げてきた縁を感じ。
そして風月は、縁が手助けしたいのを我慢しているのを感じたようだ。
「最低限にとどめて偉いね~で、どの位手助けしたのさ」
「あの男の子が手をつないで去っていく所だ」
「いやいやそれ重要な場面じゃん、フラグ進行するじゃん」
「彼が手を差し伸べて、彼女も手を離さなかったのは、あの2人が積み上げてきた縁だ」
「確かにそうなんだろうけどさ、何て言うのかな~こう……神が操作しましたって部分がね~」
「だから最低限にした」
縁は2人の関係が進展する程度に止めた。
お互いに手をつなぐ事に嫌な感情を抱かない位には好きということだ。
縁はきっかけを与えたに過ぎない、そうは見えなくとも。
「あ、今更だけど、神としての縁の思想ってあまり聞いた事ないや」
「ああ……そう言えばちゃんと話してなかったな」
「ま、縁の知らない部分を見れて楽しいよ、何だかんだで縁は人助けする神様なんだね~」
「違う、清い縁や良き縁は手助けをしたい、だがあれもこれもは違うだろ?」
「尊死しそうになってる神様が何をいってるんだか」
「申し訳ない」
「競うものじゃないけど、あの子達に負けない様な恋愛しましょうか」
「ああ、んじゃ街を見て回ろう」
「お~」
街を色々と見て回って観光をした縁達。
グリオードはその日急用が入り帰って来なくて話は出来なかった。
しかし、縁達にはいい骨休みになる。