第五話 演目 敵の正体
縁達はグリオードと神社の話をする為に、名前が変わる砂漠の国にやって来た。
宮殿に行くと執事のジンが縁達を出迎えた、今グリオード達は居ないらしい。
応接室へと案内されその後、ジンは手際よく茶菓子をキッチンワゴンで運んできた。
ジンは2段のケーキスタンドをテーブルに置き、ティーポットからカップへ紅茶を注ぐ。
それを縁達の目の前に置いた、紅茶の香りと共に色とりどりのケーキが目の前にある。
「申し訳ございません縁様、グリオード様と麗華は野暮用がございまして」
「いえ、いきなり押しかけてすみません」
「こちらで少々お待ちください」
「ありがとうございます」
ジンは一礼して応接室を出ていった、早速茶菓子を楽しむ縁達。
よく見るとキッチンワゴンにティーカップが一つ多かったが、気にするほどの事では無い。
早速茶菓子にありつく二人だった。
「グリオードって王様なんだから、そりゃ忙しいよね~」
「だな」
「あれ? ふと思ったんだけど、この宮殿の防衛って誰がしてるの? ジンさん?」
「いや、そもそもこの国の立地条件は最悪なんだよ」
「どゆこと?」
「それは私が説明するよ?」
いつの間にか小奇麗な黒いローブに全身を包み、素顔も黒い布で隠している女性が風月の隣に座っていた。
以前暗黒街信用で出会った、縁と面識のある情報屋のルティ・スティツァだ。
何時の間にか、キッチンワゴンのティーカップがルティの前へにる。
自分で淹れたのだろう、風月はビックリして縁は静かに紅茶を楽しんでいた。
「うお!? ルティじゃん!? いやはや私が気付かないって凄いね」
「隠れ蓑が得意なだけだよ、ついでにあんた達とお喋りしたくなった」
「ああ、前に会った時お茶するって言ったね~」
「覚えてくれてありがとうよ……んでこの国の立地条件が最悪ってのは自然の要塞なのさ」
「ほう?」
「一晩中砂嵐が吹く、砂漠だから寒暖差も激しい」
「何でこんな所に国を作ったの?」
「過酷な場所に安定した国を作れば賞賛されるだろ?」
「んな馬鹿な……いや、グリオードらしいのか? てか賞賛と違う様な……まあいいか」
「この国の周りが砂嵐も無く、気候も安定しているのは国民の力だ」
「ほうほう」
「オーパーツだ数千年後の超技術だ、過去の遺産だの……色々とな」
「ルティ……疲れてる?」
「……ああ、理解を超える情報はゆっくりと出してほしいね」
顔は見えずともその声はとても疲れていた。
縁は小難しい顔をしながら、真剣な声でルティに問いをする。
「ルティ、俺達に話があったんだろ?」
「ああ、七星了司についてだ」
その名前に風月も真剣な表情になった。
「縁にちょっかいかけてるけど何者さ」
「うむ、そいつは昔縁に幸運にされた女だ」
「あら女なんだ、そいつの居場所は?」
「すまない、トカゲのしっぽが続いている」
「おおう、ルティでもつかめないとは」
「話を続けると、そいつは縁の幸運で破滅しなかったのさ」
「つまり欲におぼれなかったのね?」
「うむ、七星は縁の幸運で縁と戦う準備をした」
「縁から更なる幸運を手に入れる為に?」
「そうだ」
「他にも幸運の神なんて居るのに何で縁」
「単純明快でいいじゃないか風月、そして敵の理由なんて考えても無駄だ」
「だね縁、まあ敵の目的は『縁の幸運』が欲しいって事でいい? ルティ」
「ああ」
風月は今にも世界を破壊しかねない顔をしながらルティを見た。
「ルティ? そいつは『この私と戦える力を持っている』と思っていいんだね?」
「いや持ってない、私の調べだと『縁に憑依してなり替わろう』としているらしい」
「界牙流相手に『憑依』とは笑わせるね」
「風げ――結びさん、もしもの時は俺の身体を殺してくれ」
「ええ、そうしましょ」
「いやいやおいおい、界牙流には初代が残した奥義があるんだろ?」
「ルティ、そういう敵は必ずやってくると思うんだよ」
「何を?」
「『私を攻撃出来るか』とか『貴様の最愛の人は痛がってるぞ』とかね」
「まあやってくるじゃろうな」
「だが私の愛で縁は復活出来る」
「随分な自信だね、」
「神の力が信仰心、つまりは想いや気持ちならば私が一番だよ」
「……ふーむ」
「どうした?」
「余計なお世話だろうがあんた達さ、心のリフレッシュはしているかい?」
風月と縁は図星だった、頼まれ事や過去精算だったりしても戦い続きだった。
そして今も敵の情報を聞いて直ぐに殺気立った、何時もの二人ならば軽く流していただろう。
二人は気持ちを吐き出すように深いため息をした。
「……最近心が疲れる事ばかりだ」
「だね~」
「あんた達の言葉からも感情は分かるよ? 『縁とハネムーンしたいのに』とか『俺は結びさんとイチャイチャしたいだけなのに』とかな?」
「待て風月、俺達はまだ結婚していない」
「ツッコミそこ? ルティの分析力じゃなくて?」
「そのくらいで驚いてたら情報屋と会話出来ない」
「なるほど? そりゃそうかもね~」
「ツッコミついでだけど、あんた達が自分から心を疲弊させてるんじゃないのいか?」
「ああ~頼み事だったり色々ね~」
「俺の過去を突っつかれると弱い」
「自分から楽しい事をしないと楽しい事はやってこないよ?」
「それ言われると、ぐうの音も出ないね~」
「ルティの言う通りだな、ならグリオードが来るまで国を見せてもらおうか」
「風月、ここは広い国ではないがいい場所だよ」
「じゃあ見学にレッツゴ~んじゃルティまたね~」
「ああまたな」
風月達は沈んだ気持ちを切り替える為に、応接室を出ていった。