第四話 演目 勇者達との遭遇
風月に対して異世界転生者は、歯をむき出しにして怒り狂っている。
余程自分の努力に自信があるようだが、怒り狂っているならば、さっさと風月に攻撃すればいい。
悠長に威嚇している暇があるならば動けばいい。
それをしない時点で殺し合いに慣れていないのが見てとれる。
この異世界転生者がどの様な人生かは分からない。
ただ少なくとも風月の敵ではない。
「お前は努力してきたと、だからそれだけ怒れるんだな?」
「当たり前だ! 俺は2兆年努力してきたんだ!」
「だったら私を殺してみろ、出来なかったらその時間は本当の無駄だったという事だ」
「てめぇ! 灼熱の――」
「……」
何やら炎の魔法か何かを使うのだっただろうが明らかに遅い。
先程のいたちごっこで風月の速さは知っているはず。
簡単な話、風月を超える速度で攻撃しなければならない。
相手が何かする前に風月は、右手で首を鷲掴みしていた。
「風月の代わりに喋ってやろう、まずな魔法使いとかなら別だが風月の素早さを見て、この距離で詠唱が間に合うと思うなよ? 『詠唱がカッコイイ』とかの理由は失笑するからやめろよ?」
「グッ! ガッ! 俺の――」
「次に『殺し合いの最中に長考するな』これは時と場合、チームワークで対策はありえるが、お前さん今一人だろ? まあ一番重要なのは『力量の差』をしっかりと見極めれるかだ、風月はまだまだ本気じゃないぞ?」
「ありがとう縁……最後は私から授業をしてやろう」
「ぐっ!」
風月は更に右手に力を入れて黙らせる。
もう首をもぎ取る勢いで握っていた。
暴れる事しか出来ない異世界転生者だった。
「私はな、20になるまで故郷で修行の毎日だった、殺し合いに近い方法でな……これを言うと笑われるんだがな?」
風月の目から全てを否定する様な目つきになる。
「お前、手合わせでおもらしした事あるか? あの時は色んな物を捨てさせられた……『何を犠牲にして何を得た?』『両親を本気で殺したいと思った事は?』『自分の――』」
「風――結びさん」
風月はゆっくり縁を見た、全てを否定する目をしている。
だが縁がその程度で臆する事はない、自分の知らない恋人の暗い過去。
聞いても理解は出来ない部分もあるだろう。
故に縁ができる事は一つだけだ。
「俺には君の辛さは完全には理解できないけど、何があっても一緒にいるからな」
「……ありがとう、ま、これに関して私も折り合いはつけたんだけど……やっぱりトラウマって残るよね~」
「だったら界牙流は俺達が変える必要があるな」
「そこら辺は三代目と二代目に啖呵を切ったよ」
「その辺の話は後だな」
「だね~んじゃ、異世界転生者君、さようなら~」
何時もの調子に戻った風月が、とどめをさそうとしたその時!
「爆裂! 急降下!」
その声と共に風月の右腕に対して、何者かが攻撃してきた。
風月と同じ位の速度、つまりはその声がしたと同時に攻撃は終わっていた。
スキンヘッドに軽装備、斬銀の様な大男が空から降ってきてた。
すかさずその大男は、異世界転生者の首根っこを掴んで風月から離れる。
「おお、私の右手にひび入れるとは、痛い痛い」
風月は左手で右腕をさすっている。
その顔はとても楽しそうで、満足そうな顔をしていた。
「この気配は『勇者』ってやつだね?」
「へっ、俺は勇者の仲間って奴だ」
いつの間にか大男の隣には、絵に描いた様な勇者。
そしてこれまた絵に描いた様な僧侶が立っていた。
「コウマ、ついに尻尾を出したか」
「は、はあ!?」
「いや、お前のクズさは知っている、説明はいらないぞ?」
「今まで『泳がされていた』のも理解出来ない馬鹿だから? うふふ……あはははは! アハハハハハハハハハハハハハハハ!」
清楚そうな僧侶が笑い狂い始めた。
その笑い声が辺りに響き渡り、しばらく笑うとスッと笑いを止める。
勇者が深い溜息をした。
「どうして異世界転生者は、力は強いのに理解力が無いんだ」
「細かい話は後にしようぜ」
「ああ」
コウマと呼ばれた異世界転生者は、勇者の剣であっけなく斬られる。
だが血は出ておらず、コウマは気絶しただけの様だ。
「縁、私初めて見たわ、あの人達は本物の『勇者達』だわ」
「伝説の剣を抜いたとか?」
「そうそう、それそれ」
風月と縁は、謎の勇者一行を前にしても普段通りにしている。
相手に敵意が無いのを感じ取っていたからだ。
勇者が申し訳なさそうに風月に話しかけてきた。
「失礼、仲間が怪我をさせてしまいましたね」
「いやいやいいよ、ここはお互いに名乗らず去りましょ? 下手な地雷踏みたくないでしょ」
「お気遣いありがとうございます」
「ただ、機会があればそこの戦士さんとはお手合わせしたいかな」
「ほう、かい……コホン、お前さん程の拳士に言われるとはな」
この山道にある集落に来た理由は、この勇者達にも縁達にもある。
お互い下手に干渉せずに別れた方がいい。
風月が言った様に、何が地雷になるかわからないからだ。
「行くか」
「うんうん、それじやあね、勇者御一行さん」
縁達は次の目的地へ向かうのだった。