第四話 演目 道徳が無い所に必ず現れる
今縁達は山道を登っていて、普段は人が通らない。
その山道の途中には小さな集落がある。
陣英がくれた情報では、立ち寄った旅人を厳選して生贄に捧げているらしい。
縁と風月にとって、その集落の成り立ちや生贄に捧げている理由は考える必要はない。
自分達の幸せを阻むであろう存在、それだけで滅ぼすに値する。
「いや~グリオードに感謝しないとね~」
「ああ」
「いつもタイミング良すぎない?」
「賞賛されたいからだろ」
「詳しくは知らないの?」
「いくら友人でも全ては理解出来ん」
「そりゃそうか、とりあえず感謝しておこうか」
「ああ……そいや助けたあの人達は何者?」
「私が知っている範囲だと、あのおばあさんは『内絶』って流派の伝承者なの」
「ふむふむ」
「本当は血生臭い世界が嫌で、止めたくてしょうがなくやってた」
「おいそれとは止めれないのか?」
「伝承者ってのは、後世に伝える役割があるからね~」
「ふむ、気持ちの板挟みと言う奴か」
縁は他人事の様な気がしなかった、自分は人にどれだけ恨まれようが自分は幸運の神様で崇められる事。
自分もなんだかんだあっても、幸運の神様という地位からは逃げられない。
そして望まぬともそれがついてまわるなら、望んだ方が楽だ。
「で、初代様と出会って内絶を受け継いだと、界牙流にアレンジされてるけどね」
「その内絶ってどんな流派なんだ?」
「体内の内部を破壊する暗殺拳、極めれば時間調整とかも出来る」
「すげーな」
「伝承者の任をこなした彼女は、孤児院を経営しはじめたとか」
「……ん? それっておばあさんは、あの場面をどうにか出来たって事じゃないか?」
「だからこそ、私は『間に合って良かった』と思うよ、拳をやっと捨てた人に……戦わせなくてさ」
おばあさんはあの時、自分の信念を捨てるか娘の命も自分の命も捨てるか、その選択をしていた。
そこに偶然でも風月が割って入った、究極の二択に第三の選択肢が表れたのだ。
「偶然とはいえ助けられて良かったな」
「いやいや、ある意味で必然だったかもね」
「ん?」
「縁が何時も言ってるでしょ? 良き行いをする者、縁を大切にする者は守るって」
「俺は特別何かしたわけじゃない」
「んじゃ、あの人達の良き縁が縁を呼んだって事で、良き縁にはご加護を~」
「……てか今思ったんだが、孤児院って事はその人の子供達は無事なのか?」
「ん~私が感じたのは、年老いてこれ以上は経営が無理と感じて、あの少女が最後の子供っぽいよ」
「良く分かるな」
「界牙流四代目ですから、これくらいは出来ないとね~」
「まあ細かい事はグリオード達が何とかしてくれるだろう」
「だね~で、次はどんなのがターゲットなのさ」
縁はカミホンを見ながら、簡単に風月に話した。
山道は普段誰も使わない、この道より安全で簡単山越え出来る交通機関がある。
山道の途中に小さい集落があり、時々訪れる旅人を厳選して生贄に捧げている。
「この山道で唯一の村、つまりはそこしか休憩場所が無いわけだ」
「うわ~せこい、そこで生贄抜粋してるわけね、ちょっと極端だけど天涯孤独の旅人~とか?」
「だな……だがそれもこれまでだ」
「女子供も逃がさない?」
「……もしかすると死より辛い事が待っているかもな」
「あ、何か察したかも」
集落はさびれているがいい所、と紹介されそうな雰囲気をだしている。
縁達が先客がいた。
その先客と集落の人々は言い争っているようだった。
「あ~……この気配は」
「やはりシンフォルトか」
「さあ! よくわからない神より、道徳の神を信じましょう! あなた達は現人神! つまりは人間に祈っているのです! それも道徳の無い者に!」
「うるせぇ! いきなり来てわけわかんねぇ事を言ってるんじゃねぇ!」
「そうだ! 説法ならほかの場所でやれ!」
「帰れ帰れ!」
一触即発の状態の様で、今にも集落の人々がシンフォルトに襲い掛かりそうだ。
「……なんで居るの?」
「彼女の事だ、独自で色々と調査してたどり着いたんだろうな」
「凄い執念だね……道徳か~私も持ち合わせてないかもね~」
「そうか?」
「私は基本身内以外どうでもいいし、私の幸せ邪魔するなら殺すし?」
「っても、突っかかってきた奴全員殺してる訳じゃないだろ?」
「そりゃね~面倒くさいし」
「そもそも『徳』や『道徳』ましてや『宗教』なんて考え方だ、色々とありすぎて何が正しいんだか」
「あら、神様にしてはふんわりしてるね~」
「俺がはっきりと言える言葉は少ないぞ?」
「それは今度ゆっくりと聞かせてもらおうかね~」
縁達がシンフォルトに近寄ると、気付いて振り返った。
「おやおや、縁さんと風月さんではありませんか? どうしてこの村に?」
「何、こいつらが俺に復讐する為に生贄を捧げてるらしくてな、昔の後始末だ」
「縁さん、無益な殺生は良くありません、ここはお任せください」
「ああ」
縁という単語を聞いて人々は、敵討ちを見つけた様な顔になっていく。
「縁……縁だと!? そのジャージとウサミミ! 間違いない!」
「お前のせいで俺達の生活が!」
「お前のせいで人殺しになったんだぞ!」
「だがお前を殺せばこの生活も終わりだ!」
「そうだ!」
縁に罵詈雑言の嵐だが、縁は特に気にもしないで言い放った。
「俺は神だ、人間の事情なんて知らん、そもそも……後先考えないで俺の妹を殺そうとしたのはお前達人間だ」
「……縁、こいつらに同情の余地は無いよ? まともな人達だったらここまでしないでしょ」
「同情するつもりはない……お前達は死んだ方がよかったかもしれないな」
「縁さん、お気持ちは分かりますが、そういう言葉はよくありません、自分の心を暗くしてしまいます」
「確かにそうだな、ならシンフォルトさっさとしてくれ」
「そうですね」
シンフォルトは神に祈りを捧げる様に跪く。
「さあ! あなた達に素晴らしき良心を!」
天からあたたかな光が降り注ぐと……
集落は阿鼻叫喚の地獄絵図に早変わり。
道徳と良心を刺激され、罪の重さに耐えかねて発狂している。
シンフォルトは満足そうに人々の悲鳴、もとい懺悔を聞いていた。
だが何かに気付いて近くの民家の物陰を見る。
「おやおやおや? 良心は良心でも偽りの方がいますね?」
「……ふっ、バレて――」
建物の影に隠れていた男が出て来た。
男の姿は俗にいうイケメンで小奇麗な服装に身を包んでいた。
だが姿を現したと同時に、風月に首根っこを掴まれて地面に叩きつけられた!
「お前、妙な能力持っているな……シンフォルト、こいつは殺してもいいよね?」
「ええ、私が救えるのは道徳がある方だけですので、ではこの方達は私が連れていきます」
「良かった良かった、酷くムカつく気配を感じたからね~」
「失礼します」
「またね~」
光に包まれてシンフォルトと救える人々は天へと消えていった。
風月に叩きつけられた男は、地面ではなくいつの間に彼女の背後に居る。
「おいおい――」
男が何か言おうとするも、風月は再び首根っこを掴んで地面に叩きつけた。
だがよく見ると地面には居なかった、縁が風月に話しかける。
「なるほど、風月、例えて言うならゲームの『セーブとロード』といった所か、細かくは違うだろうがな」
「ほほう」
「話くらい――」
風月が話を聞くわけがない、そもそも何を話すのだろうか?
この男は良心も道徳も無い男、風月が生かしておくわけがない。
理由は簡単だ、将来自分の幸せに繋がる要素が無いからだ。
「私を前に余裕があるな」
「んで風月……そいつは異世界転生者だ」
「またか、通りで常識を感じないし、ムカつく訳だ」
「……好き勝手――」
風月はほんの少しだけ攻撃速度を上げた、今度は首根っこを掴まずに蹴りを放つ。
まるで残像を蹴った様にすり抜け、またもや男は風月の背後に立っていた。
「お前なんな――」
「おい、私はお前を殺そうとしているんだぞ? 何を悠長にお話しようとしているんだ?」
この異世界転生者は危機感がまるでなかった。
自分の力に自信があるのは悪い事では無い。
だがそれも
「これだから努力も無しで力を貰った奴は……危機感をまるで持ってない」
「俺が努力しなかっただと!?」
今まで余裕をかましていた男だが、あからさまに怒りを露わにしている。
どうやら男の地雷を踏みぬいてしまったようだ、努力をしていないという部分を。
「遊んでやるからかかってこいよ」
「て、てめぇ!」
こうして危機感を持たない哀れな異世界転生者と、お遊びをする事になった。