第四話 演目 これが間に合うという事
縁達は最初の目的地の村を目指す。
他の町へと続く道の途中に、巧みに隠された目印を進む。
それを辿ると迷いそうな森に到着した。
だが縁や風月には無意味な自然の迷宮だった。
「さてはて縁、そろそろ最初の村に着くね」
「ああ」
「気に入らない奴をぶっ殺す~」
「だな、人間がそうしてきたように好き勝手しよう」
「珍しく本気で怒ってるね~」
「昔の自分と、人にな」
昔の自分が甘く、敵対する者達を情けで逃した結果、自分以外の者が苦しんでいる。
その事実に縁は苛立ちを覚えていたようだ、そして二度目は無い、そう顔に書いてあった。
「人は……好き勝手に他人を笑い、勝手に他人を自分の物差しではかり、好き勝手言う、愚かしい」
「んじゃ、私達はそうならない様にしないとね~」
「……好き勝手しているお前らが言うな、と言われそうだな?」
「他人の発言気にしてたら――」
風月はへらへらとした雰囲気が消え、険しい顔になる。
「村から界牙流を知っている者の危機を感じる、一族ではないようだ」
「……助けるぞ、良き縁を感じた」
「ほいさ、お先!」
風月は突風の如き速さで走り出して、縁もそれには負けるが走り出しす。
2人が目指していた村、縁と絆に復讐を誓った名も無き村。
村の広場、異質な光景が広がっていた。
手枷足枷首枷で拘束された赤髪の少女、それを囲むのは村の大人達。
手には大きい斧を持っていて、その斧は血で錆びていた。
そして少女の身内なのか、おばあさんが村人達に取り押さえられ、暴れている。
その光景を当たり前の様に見下ろしている、返り血を浴び微笑んでいる女神の銅像が建っていた。
「はっはっはっはっは! わざわざ神の生贄になりに来るとはな!」
「娘は……娘はやらせん!」
「喜べ! 貴様の娘は我が神の生贄に! 血肉となって生きるのだ」
「お、お母さん!」
少女は動こうにも拘束されて動けず、泣き叫ぶだけしかできない。
おばあさんを村人は更に強い力で抑えて動けない。
「ハッハッハ! かつて暗殺で名を残した女も老いればこれか!」
「罪滅ぼしに孤児院とは笑わせる」
「お前の人殺しの罪は消えないぞ?」
大きな斧を持った男がおばあさんに近寄り、ゆっくりと斧を振り上げた。
少女の声にもならない叫び、おばあさんの震え。
今この場に2人を助ける者は居ない、ただ……風が吹いただけ。
「……そんなに神に許しを得たいなら、我々の神に直接会ってくると良い!」
「お、お母さん! 誰か! 誰か助けて!」
「むははは! 我々の神が救って――」
斧を振り上げた男は突然消えた、否、正しくは光を超える速さで蹴り飛ばされた。
普通の人間ならばまず生きてはいない、何故ならそれは風月の蹴りだからだ。
有無を言わさず風月は、少女とおばあさんの周りに居る村人達も空の星にする。
「あ! あれは界牙流!」
おばあさんが顔をあげて、風月を見て声を上げた!
風月は少女の拘束を解いた、少女はすぐさまおばあさんに駆け寄る。
おばあさんと少女は泣きながら抱き合った。
「間に合った、貴方は『内絶』の伝承者ですね? 初代様がお世話になりました」
「……やはりそうか界牙流……お主は何代目じゃ?」
「四代目です」
「そうか、そりゃワシもババアになるか」
「お、おか、お母さん、この人は?」
少女は怯えた目で風月を見た瞬間、優しい風が吹き抜けた。
その目は段々と閉じていき、少女は寝息を立て始める。
「失礼、娘さんには少し眠ってもらいました」
「配慮感謝するよ……ああ、四代目の名前を聞いていいかね?」
「風月です」
風月が自己紹介をするとほぼ同時に、血だらけの女神様は粉々に崩れ落ちた。
そこから現れる様に、神様モードの縁が立っている。
「邪魔な像だ……私に復讐したいと聞いてな、直々に来てやったぞ?」
「ま、まさか貴様は縁! 我が一族の敵!」
「ハッハッハ! わざわざ殺されに来るとは!」
風月の登場と行動で理解が追い付かなかった村人達。
だが縁を目の前にした時、目に怒りと生気が満ちる。
「無駄話はしない、死ね」
村全体が一瞬強い風に覆われた、その村で命と呼べる者は縁、風月、おばあさんと少女だになった。
何故なら風が駆け抜けると同時に、村達が死んだからである。
理由はとても簡単だ、縁が界牙流を使ったからだ。
そして縁と風月は何時も通りの雰囲気に変わった。
「これは私の技『界牙流・滅びの風』だね~何時の間に習得したのさ」
「俺は縁が強い者の力を使える」
「ああ、そうだったね~でも何で反動が無いの? この前斬銀にただの蹴り使った時さ、血を吐いてたのに」
「俺も日々鍛錬してるって事さ」
「おおう、何時の間に……っと惚気はここまでにしといて、この人達はどうしよう?」
「困った時のグリオードだ」
縁はカミホンを取り出したその時、目の前に光に包まれて現れた男に話しかけらた。
それはこの間、グリオードを助けに行った時に知り合った青年ゾーク。
昔会った時は青年のゾークだったが、10年も時間が経てば中年だ。
「その必要は無いぜ? 縁さん、ついでにお久しぶりです」
「おあ、ゾークさんじゃないですか、お久しぶりです、何でここに?」
「グリオードが先を見通して……と言えばいいですかね」
「アイツらしい、賞賛に値するな」
「まだやる事があるでしょ? ここは任せて下さい」
「恩に着る、行こうか風月」
「あいあいさ~」
ゾークに後始末を任せて、縁達は次の村へと向かうのだった。