第四話 幕開き 不死鳥の隊長
縁と風月は陣英に呼び出された、そこはタベリアの地下にある部屋。
以前、正蔵、ペリジーンと密会をしたあの部屋だ。
その部屋で陣英は待っていた。
「よく来てくれた、縁、風月さん」
「陣英どうした? やけにイラついて様に見えるけど」
「縁、コイツを見てくれ」
陣英は返り血が付いた懐中時計を机に置いた。
それを見て縁と風月は眉をひそめる。
「この懐中時計から……強い恨みを感じるが?」
「このご時世に生贄を捧げて、神を信仰している村があるらしい」
「まあそういう風習は無くならないよな、どこの村だ」
「イッケニ村って名前だ、みてくれは普通の村だが実態は違う」
「ははん? 他者を何かしらの理由で連れて来ては、生贄に捧げていると~?」
「ああそうだ、風月さん……そして縁、お前も無関係ではない」
「ほう」
「その村の者達はお前の被害にあった者達だ」
「被害?」
縁は陣英を睨む様に見て、陣英は直ぐにすまんと謝る。
陣英の言い放った『被害』という言葉が気に食わなかったからだ。
「……違うだろ? 昔絆を殺そうとした連中の生き残りだ」
「縁、もしかして女子供は逃がした?」
「ああ、甘かった」
「ダメだよ縁~敵は全て絶滅しないと、殺さないにしても手は打たないと」
「だな、自分の始末は付ける……俺を殺してくれと神頼みか、愚かな」
風月は何かに気付いた様に手をポンと叩いた。
「てか縁、生贄ってそんなに効率いいの?」
「人を生贄ってのは廃れていったよ、命というならば動物等の命はどうなんだ、というのは置いておく」
「ふむ、何で廃れたの?」
「神様は神様でブームみたいのがあってな?」
「ほうほう」
「昔は『俺はこれだけ生贄を貰った』ってのが自慢できたんだよ」
「人で言えば……一般社会に生きている奴が、殺人して自慢みたいな?」
「んな感じだ、んで効率も悪い、恐れも力になるが時代にあってない」
「楽しくお祭りでもしてる方が効率が良さそう?」
「ああ、俺が暴れていた時でも、既に時代遅れだ」
縁は自分を否定する様に吐き捨てた。
独り善がりに近いが、妹を守る為に人を幸せにした。
その結果、恐れられてそれ相応の信仰心を手にする。
しかし、縁に近寄ってくる者は居なかっただろう。
あの恩人以外は。
「で、陣英、俺達は何をしたらいい? その村を滅ぼせばいいか?」
「それはメインディッシュだ」
「ほう」
「他の同じような村があってな?」
「ほう? 分家って言い方は違うだろうがそんな感じか?」
「いや分家であっている、その狂った奴らのご家族がそれぞれの村の村長をしている」
「何だか御大層だねぇ~そこまでして縁や絆を殺したいか」
その時部屋の扉が開いた、全員の視線がそちらへと向く。
みすぼらしい少女が入ってきた。
布切れ1枚、過酷な奴隷制から逃げて来た様なそんな姿だ。
長い黒い髪もぼさぼさ、身体は栄養失調でガリガリ。
「おいーす! 久しぶりだな縁」
だが、その姿からは想像出来ない、とてもダンディな男性の声を発したのだ。
縁と陣英は特に驚かないが、風月がビクッと反応していた。
「お久しぶりです隊長、今日はまた珍しい姿で」
「ああ、仕込みに必要だからこの身体になっている」
「……えっと? 隊長さん? 一つツッコミしていい?」
「おう、どうしたお嬢さん」
「何で少女なのに声がおっさんなの?」
「ハッハッハ! 神に性別は無い」
そう隊長は豪快に笑った、笑ったと同時に風月は縁を目を見開いて見た。
その目は『お前は違うよな』と言いたげだった。
「安心しろ、俺はちゃんと男だ」
「いや~良かった良かった、私に特殊性癖は無いから」
「ま、そろそろ本題に入ろうか」
隊長はお行儀悪く、机にあぐらで座った。
そして懐中時計をひょいと持ち上げて縁を見る。
「難しくはねぇよ、そいつら全員殺せ」
「迷惑かけてすみません」
「んん? 依頼だからいいぜ? ま、詳細は教えんがな」
「おお、傭兵としてバッチリね~クライアントの契約ペチャクチャ喋る傭兵は信用ならないにゃ~」
「ついでに報酬も無いぞ?」
「縁は過去の後始末出来るし、私は自分の幸せを阻む可能性を殺せるし……オッケー!」
「噂通り殺意高いな、お前の嫁さん」
「俺と自分の幸せを常に願っているだけですよ、して、隊長の姿の少女が生贄にされてしまうと?」
「ああ、イッケニ村で三日後に生贄にされてしまう」
「ははん? つまり入れ替わると?」
「そうだぜ、そんなに神の加護が欲しいならくれてやろうかなとな?」
「あ、隊長さんは何の神様なの?」
「鳳凰……ま、不死鳥の類だよ」
そう言った瞬間、一瞬だけ隊長の背後に神々しい不死鳥が現れた。
伝承等で伝わっていそうな、見事な不死鳥だった。
「さて、パーティー会場は3日後のイッケニ村だ、それまでに2つの村を潰してきてくれ、陣英、詳細を縁のカミホンに送っておいてくれ」
「はい」
陣英はスマホを操作して、詳細を縁のカミホンに送る。
縁はカミホンに送られてきた詳細をざっと見る。
「んじゃ行こうか縁」
「さっきからやる気満々だな」
「そいつらを野放しにしていると、私が幸せじゃなくなるから」
「だな、行くか」
縁は自分の過去の始末、風月は自分の幸せを守る為に部屋を出ていった。