第三話 演目 過去のスファーリア
縁達は意気揚々と、グリオード達が居る宿へと帰って来た。
グリオードは宿の受付近くの椅子に座っている。
「お帰り縁、スファーリアさん、天女様」
「ああ、中々有意義な時間じゃったの」
「うん、縁君はトラブル発生したけど」
「……縁、あまり暴れないでくれよ」
「まさか神器を盗まれるとは、いやはや」
悪びれる様子もなく縁は笑っていた。
グリオードは何をしてきたか、解っている様にため息をする。
「それは置いといて、グリオードさんこれからどうします?」
「ああ、ゾークの薬を作ろうかなと」
「作る? 俺が用意しますよ?」
「待て待て縁、王国に医者が……ああ、ここは過去じゃったな」
「久しぶりに王国の激務から逃れられたんだ、羽を伸ばしたい」
天女はグリオードの発言に険しい顔をした。
「のうグリオード、お前ワザと過去に飛ばされたのか?」
「ええ、合法的に建前が出来ます、麗華は気付いているでしょうが」
「あのなぁ……お前が居なくなって子供達が心配しとるんじゃ」
「申し訳ないとは思っています、自分が始めた王国ですが……このままだと間違いなく、周囲の人間に当たり散らしてしまう」
「考えたくないが、やっぱり王様って大変なんだな」
「立場は違うけど縁、君も神として色々とあるだろう?」
「まあな」
「なら2人で気晴らしに行ったらどう? 薬の材料を探しに行けばいい、縁君なら運良く探せるでしょ?」
「いやまあそうだけど」
「羽を伸ばすなら思いっきりしないと、薬も急を要する物ではないんでしょ?」
「はい、そうですスファーリアさん、しかし、縁とぶらり旅か……あの時は斬銀さんも居たな」
「あまり思い出したくない過去だ」
この過去の時代、縁は正にイキリチラシていた全盛期の時間軸なのだ。
「それはともかく、お使いもとい冒険に行こうか? グリオード」
「さんじゃいのも懐かしいな」
「王様接していると、かしこまるからな」
「それを言ったら君は神様じゃないか」
「冒険気分なら、明日の朝に帰ってくれば?」
「……麗華にどやされそうだ」
「事故じゃなく故意で過去に来たなら、今更では?」
「だの、説教の時間が増えるだけじゃ、ゾークはワシらが見ておこう」
「よし」
「行くか縁!」
「ああ」
縁とグリオードはノリノリでハイタッチをした。
2人はテンション高めで宿屋を飛び出す。
「こうして走るのも懐かしいな!」
「お前が王様になったからだろ!」
「自分で選んだ道とはいえ、疲れるからな!」
「それ言っていいのか? 賞賛に値しねーぞ?」
「いいじゃないか、普段滅茶苦茶出来ない分、楽しませてもらう!」
「んじゃテキトーな森でキャンプでもするか、まあ薬の素材もあるだろ」
「いいね」
縁達はその辺にある森に入って、野宿に適した場所を探した。
大きい川がある場所を見つけて、そこで野営の準備をする。
テントや焚き火、川には魚を捕まえる仕掛け。
それらを終えた後に、薬の材料を求めて東西南北。
色々と冒険を楽しんで、薬の材料も見つける。
日が暮れた頃に野営地に戻ってきた。
「縁、川の仕掛けを見に行くか」
「ああ」
「んん? 縁、焚き火に誰か居るぞ?」
「おお?」
スファーリアと同じ黒い帽子に黒いローブの女性。
隣には同じ衣服に身を包んだ少女が居た。
縁達はその2人に近寄っていく。
「あら、ここはあなた達の焚き火だったかしら? って兎君じゃない」
「ああ、ドレミドさん……え? 何で貴女がここに?」
「旅の途中よ、森を突きっ切ってたら、焚き火を見つけてね」
「なるほど」
このドレミドとは、過去の父親を助ける時に出会っている。
だがその隣には、何やらぶつぶつと独り言を言っている少女が居た。
「スファーリア、ほら挨拶しなさい」
「ん? スファーリア?」
縁はスファーリアを見た。
もちろん過去のスファーリアだ。
物凄い殺意に満ちた目で縁を見上げていた。
「お母さん、この人から私の音を感じる、それも未来の」
「……なるほど、おそらくスラム街で俺と出会う前の彼女か……あ」
「……」
不用意な発言をした縁はかたまってしまった。
スファーリアは軽蔑する目で縁を見ている。
「こらこらスファーリア、音を聴いちゃダメよ」
「……お母さん、この人は何者? 隠さないでね、無駄だから」
「あら? 無駄なら貴女が感じた音が正解じゃないかしら」
「えぇ……ジャージ姿のウサミミカチューシャ……」
スファーリアはあからさまに落胆していた。
おそらく縁が自分の未来の彼氏と感じ取ったのだろう。
その男がジャージ姿にウサミミカチューシャだったら、嫌な顔にもなる。
「兎君、悪いけど一晩ご一緒いいかしら? もう暗くなるし」
「ええ、どうぞ、グリオードもいいよな?」
「ああ」
魚、野草、キノコ等をふんだんに使ったスープが晩御飯だった。
軽く談笑した後に就寝する、縁は一人川の近くに居た。
「いや、びっくりした、まさか過去の彼女と遭遇するとは」
「……やはり貴方は私の恋人になる人なのね」
「うお!?」
縁はビックリしながら振り返る、寝ていたと思ったスファーリアが居たからだ。
「……まじかぁ……確かに私は出会い欲しさに『結び』から別れたけども」
「え……あ、いや……なんかごめん」
結びがスファーリアと風月に別れた理由、それは界牙流の『伴侶の為』という掟。
伴侶どころか恋人も居ないのに、幼少の時からそんな掟に縛られていたら気が滅入る。
「謝らないで、今の私が貴方の魅力を理解できないだけ、音でわかる、未来の私は幸せ」
「ああ、それだけは自信を持てる」
「そう」
スファーリアは興味なさそうに言った。
「そして貴方とは小さい頃にあった、私がまだ結びだった時に」
「ああ」
「なるほど……ふむふむ、お父さん同士が知り合いと」
「……音を感知されたら止めようがないんだが、未来を知っていいのか?」
「構わない、未来が決まってようが、貴方が私の心をどう響かせるか興味がある」
「それは聴かないのか?」
「当たり前、心を響かせる……つまりは告白、知ってたらつまらない」
「なるほど」
「私は戻る、貴方から聞こえる幸せの音は心地よすぎる」
「それは何より」
「縁さん、未来の私によろしく言っておいて下さい」
「……ああ」
スファーリアは寝ている母親の元へと戻った。
「あれ? って事は初めて……いや、正確には再会か? あのスラム街であった時には、スファーリアさんは全て知っていたって事か?」
お互いに忘れた状態で、スラム街で再会したあの時を思い出す縁。
自分達の時系列を考えたが、そんな小難しい事はいいかと、夜空の星を見て思うのだった。