第三話 演目 最初の国民
縁達は街と街にある中継地点、旅人の休憩の場。
縁が言うには、そこにある宿屋にグリオードはいるらしい。
宿屋の受付に話を通して、縁はグリオードの居る部屋へと向かった。
「やあ縁、心配かけたね」
「過去に飛ばされたのに、元気そうだなグリオードさん」
「無論だ、この程度で慌てていたら賞賛に値しない」
「そこで寝ている青年は?」
青年は紺色の様な肌の色てせ、短い黒髪に牛の様な角。
包帯がほぼ全身に巻かれていて、重症の様だ。
「とある町で酷使され、父も殺され、その町に復讐を誓った青年……しかし、返り討ちにあった、私の国の最初の国民、ゾーク・トルゴメク君だよ」
「グリオード君、その子の復讐を手伝うの?」
「いえ今はまだ」
「何で? 怪我する前に手助けしてあげればよかったのに」
「今の彼は国民ではありませんので」
「スファーリア様、馬鹿は直ぐに死にます、痛い目を見るべきです、自分が何と戦っているか、勝算はあるのか、誰を標的にするのか、準備をしてきたのでしょうが、足らなかった証拠です」
「あんた……随分言ってくれるじゃねーか」
ゾークはゆっくりと身体を起こして、麗華を睨む。
麗華は冷たい目でゾークを見下ろしていた。
「助けてくれと言ったら助けてくれるのかよ」
「はい」
「……馬鹿はどっちだ、あんたの言う通り、一人で町一つどうこうできねーよ」
「貴方と一緒にしないでください、私には力がありますから」
「俺を助けるメリットが無いだろ」
「あります、個人的にですが」
「ハッ! どんなのだよ!」
「貴方の依頼の形をとり、人を殺せます、私は悪魔ですので少々血に飢えています、冷静に私の実力を感じてみなさい」
「……なっ!?」
ゾークは麗華を見て驚き、続いて縁達を見る。
自分より段違いで無茶苦茶な力がこの場に居たのだ。
「何事も考える事です、おそらくグリオード様は貴方に話はしているでしょう」
「ああ、彼には言える事はもう話している」
「ではゾーク、貴方が現状どうするべきか考えるのです」
「……どうするって言われても、復讐は失敗したし、もう準備する力も俺には――」
ゾークは何かに気付いて、期待の眼差しでグリオードを見た。
「……いや待てよ、なあグリオード、あんたの国民になりゃ俺を無償で……いや、俺が王国に何が出来るかわからないが、俺が王国民になれば助けてくれるのか?」
「ふっ、何も出来ない、何の技術も無い貴方が王国へ?」
「麗華、笑うんじゃない」
「ま、そんな美味い話があるわけ無いか、俺はこのまま腐って死んでいくんだよ」
「……ですが、貴方は運がいいですよ?」
「え?」
「この時間軸の王国に人は居ません、私とグリオード様です」
「ふふふ、その後位だったかの? わしが王国へ行ったのは」
「そうですね、天女様」
「……ちょっと待ってくれ、整理する」
「どうぞ」
ぶつぶつとゾークは、独り言を言いながらしばらく考えた。
「……グリオードから聞いているけど、本当に未来から来たってんなら、俺が王国に行くのは確定しているのか? ……いや、今しか行けるタイミングが無いのか!」
「何故でしょうか?」
「今王国は人手不足なんだろ? この時間軸ではあんたと王様しか居ないんだ、もし仮に人手が増えていき、国が豊かになれば俺みたいなのは、見向きもされないだろうさ」
「このタイミングを逃せば、貴方は腐った心を持って惨めに生きていくしかありません」
「……なあグリオード、お前の参謀酷くないか? いや、事実なんだけどさ」
「すみません、私が甘い分厳しいのですよ」
「……俺もグリオード様と呼んだ方がいいですか?」
「それは好きにしてください……王国へようこそ」
グリオードとゾークは握手をした。
「あ、国の名前は?」
「名前はありません、砂漠にポツンとある国ですよ」
「……ええ?」
「グリオード様、私はこの時間軸の私達に話を付けてまいります」
「ああ、私は看病を続けるよ、彼はまだ万全じゃないからね」
「はい」
「さてと、ではわしらも一旦部屋を出るか」
麗華と共に縁達は部屋を出た。
外に出て、過去の自国へと向かう麗華を見送る。
「俺達はどうするか」
「ふむ、ちと彼が復讐の対象にしている町に行ってみたいの」
「相変わらずだな、天女様は」
「貧しき心は私の力なのでな、さぞ美味かろう」
「やる事も無いし付き合うよ、天女様」
「暇つぶし」
「して縁、場所はどこかの?」
「縁を辿ってわかっている」
「流石じゃの、では歩いて行こうか」
「まあ歩ける距離ですけど」
縁達は歩いて目的地の町まで歩く事にした。