第三話 演目 称賛と賞賛された男の話
過去に飛ばされたグリオードを救うため、白眩身麗華は、縁に相談をした。
縁は過去の妹と父を救った時に使った神器で過去へと向かうと告げた。
メンバーは縁、スファーリア、麗華、そして貧乏神の心闇天女だ。
神器を使い過去へと向かった縁達は、散歩でもする様に道を歩いていた。
「てか何で天女様が付いて来たんだ?」
「つれないな縁神、付いて来たのはわしも王国の民だからじゃ」
「勘?」
「うむ、わしらの時間では既に滅んでいる町がある」
「ほう」
「だがこの時間には存在する」
「なるほど、今回はその町が関わると?」
「まあ勘じゃかな、グリオードの場所はもうわかっとるのか?」
「ああ……で、何で何時ものボロボロの服じゃないんだ?」
「それを聞くか? お主のジャージ姿みたいなもんじゃ、必要な時以外正装はせん」
今の天女を一言で言えば、華道の先生をしていそうな見た目と服装になっている。
「天女様綺麗、普段からそうすればいいのに」
「本当はわしもそうしたいがな……ま、仕方がないのお」
「私服はいつも着物?」
「ああ、安物の着物じゃがな」
スファーリアと天女は着物談義を始め、麗華が縁に話しかけた。
「お手数をおかけします、申し訳ございません、縁様」
「いやいいよ、グリオードは何で過去に飛ばされたんです?」
「頭が可笑しい現人神が喧嘩をふっかけてきまして」
「ふむ」
「結果として、相手は捨て身でグリオード様を過去へ飛ばしました」
「うーむ、帰る手段が無いだけで、グリオードなら満喫してそうだ」
「はい、そうでしょうね」
容易に想像出来るのは、どんな状況だろうと『賞賛に値するだろ?』と笑っているグリオードだった。
「麗華さん、過去に飛んできたけれど、何年前かわかる? 心当たりとか」
「心当たりでございますか?」
「ええ、過去に飛ばすあの神器はちょっと特別でね、強い縁や出会いで過去に飛べるんです、ふわふわしてますが、神器はそんなもんです」
「……縁様、心当たりがありました、グリオード様が神から授かった賞賛の加護が切れ、王国から人々が居なくなり数ヶ月、未来の私が来ました」
「なるほど、その未来の麗華さんが今の麗華さんと」
「おそらくそうでしょう、そして昔、魔族の青年を頼むと未来の私にいわれました」
「なるほど、その出会いが今回からんでいると」
「時間を答えますと10年前くらいでしょうか」
「……絆絡みの戦争が表向きには終わって、納得出来ない俺が暴れている頃か」
「心中お察しいたします」
イキリ散らしていた過去を思い出して、縁は意気消沈をしている。
そんな縁を天女は、肩を叩いて労いの言葉を言う。
スファーリアは何かに気付いた様に、ハッとして麗華に話しかけた。
「麗華さん、質問」
「何でしょうスファーリア様」
「考えたら、グリオード君の加護って切れているのに、何で使えるの?」
「ご説明いたします、グリオード様は『称賛と賞賛』の加護です」
「ほほう……ああ、言葉で褒めるのと、物で褒める方ね」
「はい、言葉にするとややこしいので、物の方の賞賛で一括りにしています」
「ふむふむ」
「神から授かった加護で、グリオード様は『承認欲求』を見たしました」
「グリオード君って、そんなに褒められたかったの? ……いや、王国作るほどか」
「ええ、全盛期はドン引きするほどに」
「おお……」
これまた安易に想像が出来てしまう、褒められたいから王様やってます、と。
「神は『加護が切れる時が来る、その時お前は本当の意味で、私と同じ与える側になっているかな?』と言ったらしいです」
「なるほど、加護の力で承認欲求を満たすために、人様から褒められる事をしまくったのね?」
「はい、ちなみに縁様と絆様の戦争に手を貸したのも、褒められたいからです」
「ふむふむ……んで、加護が切れて正気に戻った人達が王国から去ったと」
「はい、その時は酷い落ち込みでした」
「……あ、なるほど」
スファーリアはポンと手を叩いた。
「『与えられる側から与える側』になる加護? 称賛も賞賛も他人からされる」
「今思えば神の試練だったのかもしれません」
「おーい縁君、この場合の試練てどんな感じ?」
「その前に、能力的に『称賛と賞賛の加護』は残っている、他人を褒められる様に仕向けたり、金品が送られたり」
「ふむふむ」
「試練の方は……一定期間私が称賛と賞賛してやるから、私の力無しでも褒められる人間に上り詰めてみな……かな? 天女様、どうだろう」
「そんなもんじゃろ、他の神の試練の意図は完全にはよめん」
「考えてみたら、試練ってよりは戯れくせぇな」
「ありうるの、承認欲求されなくなった人間の破滅を見たいとかの?」
「ったくこれだから神様は、グリオードから加護が無くなってないのがもやっとするぜ」
「まったくじゃ、わしらも気を付けんとな、狙われてしまうぞ」
「待って、君達も神様」
スファーリアは軽く縁と天女の肩をペシッと叩いた。
「ふふ……期限切れはしましたが、挫折を乗り越えて、グリオード様は立派なお方になられました」
「あ、麗華さんは何で残ったの? 当時のグリオード君に魅力は無いよね?」
「簡単です、幼少の頃に約束しまして」
「どんな?」
「結婚です」
「……麗華さんは悪魔だよね?」
「はい、氷の悪魔でございます」
「悪魔相手に契約した事になるのか」
一般的には悪魔は契約を守り、対価を貰う。
グリオードは麗華から逃げられないのは確かだ。
悪魔と契約は考えている以上に厳しい。
「契約したとはいえ、よく見捨てなかったね」
「契約ですので」
「その内容は?」
「契約は見せたり聞かせたり、自慢するものではありません」
「確かに」
そんな話をしながら縁達は歩いていた。