第二話 幕切れ 物事はあっさりと終わる
レナバントは余裕の笑みを見せて高らかに笑った!
「くははは! 神ならばこの国にも居る! 賭博の神! 『ヘルメイス』が!」
その時縁の隣に全身をローブで隠し、素顔に布を巻いている何者かが現れた。
何者かは膝を付いて縁に頭を下げている、縁にはその者を見下ろした。
「縁様」
「ヘルメイス様の領土を荒らす事をしてしまった、申し訳ない」
「いえ、ヘルメイス様は『迷惑ついでに任せていいか』と」
「ああ、とはいえ後日謝罪に行く」
「わかりました、そう伝えます」
「ま、待て! ヘルメイスは私達を! この国を見捨てるのか!?」
「……」
ヘルメイスの従者は何も言わずに消え去った。
神に限らず侵略すれば、された側とひと悶着あるものだ。
しかし相手は賭博の神、負けが見えている賭けにはのらない。
そして、レナバントは予想が外れたのか、悲劇のヒーローみたいな顔で呆然としている。
「最後にお前の縁を試してやろう」
「この野郎!」
しびれを切らした部下が縁に襲い掛かってきた。
カンタパールが切り殺そうとするが、縁がそれを止めて一言言い放つ。
「お前はそこの王子に大切な人を取られたな? 散々弄ばれて他国に売られた、違うか?」
「なっ!」
ズバリと言い当てられたのか、振りかぶった武器を落としながら一歩二歩と引いた。
「そこの弓を背負っている者は、自分の子供が亜人だな? 珍しいと見世物にされただろう?」
「……そうだ」
そこからその場に居る者達の素性を全て言い当てた。
その言い当てた言葉の数々は、部下が多種多様に搾取される話だった。
一通り話し終えた縁はため息をした後、深呼吸をする。
「今一度問う、この王国に忠誠を誓いカンタパールに斬られるか、見捨てて自分の幸せを見つけるか?」
カンタパールは切り捨てる気満々だ、部下達は縁の言葉に迷っている様だ。
「苦痛でもお前達は、自分の身の丈に合わない幸せを掴んだはずだ、納得はできなくてもその苦痛は幸せの対価だ、結局身の丈に合う幸せが一番だ、だが更なる幸せを望むならば、努力や人柄も欠かせん」
縁は神様らしく、人々を救う様な顔付きで言った。
「つまりは愚か者と一緒に死ぬか、生きて人生やり直すかだ」
「お、お前達!?」
縁の言葉が響いたのか、部下は次々と武器を納めてその場から去っていく。
レナバントは情けなくすがるが吹き飛ばされる。
「お前に死して守る価値が無いだけだ、死ね」
カンタパールはレナバントを一刀両断した。
「さ、国王様に会いに行こうか」
「御意」
縁達は王宮へと向かう、広場の方が騒がしいが気にせず目指した。
「ふむ、さっきの場に居た奴ら以外は腐った縁しか感じない」
「ではこれ以降は、問答無用で切り捨てられますな」
「ああ、そしてこの偉そうな王宮に居る全員が、お前の王を嘲笑った」
「……」
カンタパールの剣を握る力が強くなる。
「老いも若きも賢者も愚者も性別も関係ない、縁を汚す者は殺せ」
「御意」
そこからは文字通り、縁を汚し邪魔をする者達をカンタパールは切り捨てていった。
縁達は王座へとやって来た、だが王座は既に血の海だった。
王が血で滴る剣を持ち、周辺には死体の山。
「こ、これは!?」
「ふむ、どうやらこの国の王は現人神に身体を乗っ取られた様だ」
「くっくっく、その通りだ、全ては七星了司様の為、この身体に憑依したまでよ! 国の死を供物として! 我が主に!」
「またその名か、お前達の思想や理由はどうでもいい、お前は縁を汚した」
今の縁に理由はいらない、縁を汚した奴を殺しに来ただけだ。
この現人神はまだ状況を理解出来ていないのか、自分語りが続いている。
縁は必要な部分だけをカンタパールに伝えた。
「カンタパール、大した理由も無くお前の忠誠する王は恥ずかしめられたようだ」
カンタパールは縁から授かった剣を持ち、現人神が憑依した王に近寄っていく。
「はっはっは! 人間の攻撃など私に効かぬぞ!」
「……」
「は?」
いとも簡単にカンタパールは首を刎ねた。
「はっはっは、でも構わんよ、私もかのお方の供物になるまで」
「馬鹿か、なれると思ってるのか?」
縁が手を合わせると兎の魔法陣が地面に現れた。
それが国全体をおおう程デカくなる。
「これは……我が信仰心が! この――」
「お前の事情なぞ知らんと言ったはずだ」
縁が右手の指を鳴らすと現人神は砂のように消えていった。
「終わってみるとあっさりでしたな」
「敵に壮大な理由を夢見るのは、物語だけだ、現実のほとんどはちゃっちい……帰るぞ」
「御意」
縁達は広場へと戻ってくると、大量の死体の山が出迎えた。
王が捕らえられていたいた檻は破壊されている。
「縁様、この死体の山は?」
「彼女らしい、我慢出来なかったのだろうな」
「迷いの無い攻撃ですな」
「恐ろしいか?」
「いえ……縁様、この国はこのまま放置で?」
「いや、私達が去った後に運良くこの国は何かの現象で消滅する」
「うむむ……今更ながら、理解が追いつきませぬ」
「カンタパール、理解出来たら神ではない、理解出来ないから神なのだ」
「肝に銘じておきます」
「うむ」
転移魔法陣でリッツェラ王国へと向かう2人。
帰ってくるなり、カンタパールは自分の王の元へと向かう。
縁は依頼を受けた酒場の奥の部屋へと帰って来た。
スファーリアが先に帰ってきいている。
縁はウサミミカチューシャを付けて、何時ものジャージ姿になった。
「スファーリアさん、お疲れ様」
「お疲れ様、縁君が騒ぐ前に周囲を黙らせて王を持ち帰った」
「すまないね、どうしても相手をおちょくりたくなった」
「それは縁君が決める事、大丈夫、あの程度で苦戦する私ではない」
スファーリアはイラつく気持ちをぶつけれたからか、物凄くスッキリとした顔をしている。
部屋のドアが勢い良く開き、笑顔で泣いているカンタパールが入ってきた。
「縁様! ありがとうございました!」
「おっと、この姿の時は様は止めて下さい」
「失礼しました」
「王子は大丈夫ですか?」
「はい、色鳥さんが付いています」
「質問、王子と色鳥君はどんな関係?」
「ふとしたきっかけで友達になったとか」
「王子に変な事吹き込んでないだろうな、それが心配だ」
「縁さん、こちらをお返しします、剣の手入れはしておきました」
「手入れ? 速いですね」
「借り物ですから」
カンタパールは縁から借りた剣と腕輪2つを渡した。
腕輪を鞄に入れた後、縁は剣を抜いて見ると、新品同様の輝きを見せている。
王の元へは行かずに、もしかして手入れをしていたのかもしれない。
剣を鞘に納めて鞄へとしまった。
「……んじゃ長居は良くないから帰ろうか」
「そうね」
「縁さん、スファーリアさん、此度は誠にありがとうございました、今度遊びに来てください」
「ええ、その時は前もって連絡しますね」
「お待ちしております」
カンタパールは縁達が去った後も、しばらく頭を下げているのだった。