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VRゲームでも運と愛し合おう!  作者: 藤島白兎
第四章 縁と結びで縁結び
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第二話 演目 余興

 3人は夜にメレセスカ王国の入口付近までやって来た。

 高い建物や派手な照明、煌びやかな花火が打ちあがったり音楽が聞こえてくる。

 正に眠らない賭博の国の姿であった。 


「カンタパール」

「何でしょうか」

「王国に入る前にこれを渡しておく」


 縁は鞄をあさる、剣とフード付きローブをカンタパールに渡した。

 カンタパールはささっとローブに身を包み、全身と目元を隠す。

 そして剣を少しだけ抜いて見た、見た目はそこら辺に売っていそうな両刃の剣だ。


「変装のローブは分かりますが、この剣は? 特別な力を感じますが」

「名も無い剣だが、使う者の縁がそのまま威力になる」

「縁がですか?」

「ああ」

「しかし縁様、武器の持ち込みは出来ませぬが……門で検査されてしまいます」

「安心しろ、運が良いから大丈夫だ」

「わかりました」


 カンタパールは、剣をゆっくりと抜き空に掲げる。

 夜空をバックにほのかに光り輝いていた。

 剣を鞘に納め、決意した目で縁を見る。


「王を救い終わったなら、この剣はお返しいたします」

「そのまま使ってもいいぞ?」

「いえ、人に過ぎたる力は災いが起きます」

「ふむ」

「私の死後、この剣を巡り争いが起きましょう」

「なるほど」

「ですが今は……人に過ぎたる力を振るう時かと」

「見事だ」


 縁は鞄から兎が彫られた銀色の腕輪を、カンタパールとスファーリアに渡した。


「私の幸運を分けた腕輪だ、貴方と王は必ず無事に国へ返す」

「ありがとうございます」

「スファーリア、王に渡してくれ」

「わかった、王は私が国へ連れてく」

「俺がひと暴れするから、タイミング王を見て連れ出してくれ」

「ですが縁様、王の居場所がわかりませぬ」

「既に分かっている、カンタパールの縁をたどれば簡単だ」

「なんと」

「姿を戻しておくか」


 縁はウサミミカチューシャを付けて、何時ものジャージ姿になった。


「さ、行こうか……この国の最後の夜になる」


 縁が言った通り、何か上機嫌な門番はろくに身体検査もせずに、あっさりと縁達を国へ入れた。

 3人は国の中心にある広場へと行くと、人だかりが出来ていて中央には布がかかった檻があった。


「さあさあ! 我が国の名物! 勇敢にも我が国の王に挑んだ勇者の愚かな姿だ」


 高らかに声を上げている男は布を勢い良くはぎ取った!

 檻の中には雑に女装させられ、やつれた男性が居た。

 その頭には、シンプルで高価そうなティアラがあった。


「あははははは! アチャルリラ・バーリバルも落ちたものだ!」

「俺が女装した方がまだ綺麗だな!」

「がははははは! 借金返済の為に頑張れよ!」


 見物客は一斉に王を小馬鹿にし始めた。

 スファーリアは、無表情でトライアングル一式を取り出して奏でようとした。

 縁はスファーリアを止めた、その目は『俺の獲物だ』と言っている様に。


「気分が悪い」

「路地裏に入るか」


 3人は一応警戒しながら人の気配が無い裏路地へと入る。

 だが頭上の建物にその様子を見ている人物が居た。


「どうするの? 絶滅演奏術する? むしろしよう絶滅しよう」

「普段なら任せるが、俺の好きにさせてくれ」

「わかった、縁君がお願いされたからね、それでどうするの?」

「相手の得意分野で王を返してもらう」

「結果荒事になりそうね」

「ああ、騒ぎの隙に頼んだ」

「任された」

「行くぞ、カンタパールさん」

「御意」


 スファーリアをその場に残して歩き出した2人。

 しばらくしてカンタパールが、悟られない様に縁に話しかけた。


「縁様」

「わかってます、あ、この姿の時は敬語は使わなくていいですよ」

「敬語は性分でして、すみません縁さん」

「なら……話を戻して、おそらくは賭博の神の使いでしょう」

「使いですと? 私達の存在がバレましたか」

「気にする事はありません、賭博の神はこの国を見捨てます」

「むむ? 何故です?」

「縁の神には大義名分があります、良き縁を守る為に」

「では賭博の神にも賭場を守る大義名分があるのでは?」

「賭博の大義名分なんて一部の者達だけ、縁と比べたら天と地の差」

「……なるほど、一般的に考えるならば、罪を犯しても誰かの為なら情状酌量も有りますが、賭場となると……首を傾げますな」


 お腹をすかせた子供の為に盗みをしました。

 お腹をすかせた子供の為に賭博をしました。

 どちらが一般的に情状酌量があるか一目瞭然だ。

 仮に賭博に大義名分が有っても、縁の神には関係の無い話。

 今ここに居る理由は、悪しき縁を滅ぼす為にいるのだから。


「さ、話はここまでにしましょう」

「はい」


 縁がスタスタと歩き、カンタパールがそれに付いて行く。

 大きく派手な店に入ろうとした時、店員数名がクラッカーを鳴らした!


「おめでとうございます! 当店のお客様百万人目でございます!」


 店員かせわらわらと縁達を囲んだ、まるで逃がさない様に。


「お客様は運が良い! この国の王族と勝負する事が出来るのです!」

「失礼な話をするが、何かメリットがあるのか?」

「もちろんです! 限度は有りますがほぼ何でも叶いますよ!」

「面白そうだ、案内してください」


 店員達は悪い笑みをしながら店の中へ案内する。

 だが、縁の笑みには到底勝てない笑みだった。

 

 長い階段を上ると、豪華な装飾が施された大きな扉があった。

 店員達がそれを開けると、これまた豪華な部屋。

 中央のソファーに偉そうに座っている人物が居た。

 縁達が中へ入ると店員達はドアを閉めた。


「メレセスカ王国第3王子、グリアラス・メレセスカ様だ、早速だが望みを言いたまえ」

「あの広場で晒し者になっている者が望みです」

「ほう? これまた大きく出たな」

「そうなのですか? 物を知らずにすみません」

「いや何、父も兄上姉上も飽きていた頃だった、別に構わないさ……だだ」


 グリアラスは品定めする様に縁達を見ている。

 だがそれは人間を品定めする様な目だった。

 縁は一瞬だけ呆れた顔をする。


「あやつは借金があり、返済で見世物になっているのさ、借金をそなたが返せば譲ろう」

「なるほど」

「さて、ご希望の勝負方法はあるかな?」

「シンプルな勝負でいいですか? テーブルに並べたトランプを引いて、数が多い方が勝ち」

「確かにシンプルだ」

「2が最弱、Aが最強」

「いいだろう、してお前は何を賭ける?」

「ここまで話しておいてなんですが、手持ちが無くて」

「いいだろう、貸そう」

「ありがとうございます」


 縁が椅子に座り勝負が始まった、シンプルな勝負。

 だが縁は負け続けた、倍プッシュに倍プッシュを重ねた。

 相手の口車に乗り、縁の借金はあれよあれよ膨大な額になる。

 一時間が経ったくらいに、グリアラスは勝ち誇った顔をした。


「随分と負けたが……大丈夫かな?」

「ええ」

「お前の借金はこの国の国家予算を既に超えている」

「おお……そうですか」

「お前のその身を捧げるだけでは済まないぞ? 家族や一族も私が好き勝手しても文句は言えん」


 縁は頷きながら何かを考えている顔をする。

 そしてグリアラスは、縁に言ってはならない一言を言ってしまった。

 この後の展開は手に取る様に分かる、縁が許すはずがない……元より許す予定も無い。


「んん? 聞き間違いじゃなければ、俺の親族を好き勝手すると聞こえたんだが?」

「二度も言わせるな、お前は負け続けたんだ!」

「そうか……安心しろ、この国の国家予算なぞ簡単に払える」

「何!? 何をバカな事を!」


 グリアラスはテーブルを叩き怒りをぶつけた。

 対して縁は涼しい顔をして手を叩く。


「返済しよう、釣りはそのまま香典だ」


 グリアラスが何か言う前に天井に何かが当たる音がする。

 その音は直ぐに轟音となり、何かが天井を突き破って来た。

 それは金銀財宝の宝の山だった、それがグリアラスの頭上に降ってくる。


「う、うわぁぁぁぁぁ!」

「お、王子!?」


 あっという間に金銀財宝に押しつぶされた王子は、右手だけ天に付き出していた。

 隠れていた王子の部下と、店員達が武器を持ち縁達を囲う。

 縁とカンタパールは焦る様子を見せていない。


「何事だ!」


 奥からこれまた偉そうな人物が威勢よく現れた。

 グリアラスにほぼそっくりな顔だ、兄弟だろう。


「レナバント様! あの者がグリアラス様を!」

「何!? よくも我が弟を!」


 金銀財宝に埋もれた弟を見た後に、縁を激しく睨むレナバント。


「貴様! ただで帰れると思うな!」

「そこの王子は、俺の家族を好き勝手すると言ったから……支払いをしたまでだ」

「そいつを切り捨てろ!」

「ハッ!」


 部下が一斉に切りかかって来る、それに対して縁はただ一言叫んだ!



「カンタパール!」

「御意!」


 カンタパールはフードを素早く脱ぎ捨てた。

 そしてあっという間に襲い掛かって来る者達を切り捨てた。

 一振りに見える程の斬撃を放ったのだ、斬られなかった者達は一歩引く。


「カンタパールだと!? 王を取り戻しに来たのか!?」

「その通り! そしてこの方こそ! 我が国に慈悲を聞いて下さった! 縁起身丈白兎神えんぎみのたけしろうさぎのかみ……縁様!」


 縁はウサミミカチューシャを鞄にしまった。

 ゆっくりと縁の頭に白い兎の耳が生えて、白く長いロングヘアーに。

 足元からは白い霧のような物が出て、縁の身体にまとわりついている。

 それが足元から上半身に向かって、その白い霧は上がっていく。

 ジャージだったのが、神様が着るような白く神々しい着物へと変わる。

 そして着物は、所々に返り血を浴びたような模様が生まれた。


「え、縁の神だと!? 何故この国に!?」

「余興はここまでだ……お前達薄汚れた縁を断つためだ」


 神の余興はここで終わりを告げる。

 この国の終わりの時間の始まりだ。

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