第七話 演目 歩き終えた終着点
ラクギアの街近くへと転移してきた3人。
街の中へと入り、ブルモンド・霊歌の工房へと向かった。
大きなハンマーを担ぎ、店先で掃除をしている。
「おやこれは縁じゃないかい、どうしたんだい?」
「単刀直入にいうと、またご迷惑をお掛けします」
「ああ、噂程度に聞いているよ? また一方的に因縁つけられたんだろ?」
「ええ、今度は容赦しません」
「ふむ……スファーリア、いや結びと一緒に乗り越えなさい」
「え? 知ってるんですか?」
「ああ、この間ビーダーを修理しただろ? 修復最中に気付いてね、ああ……受け渡しは魔法陣だったから雑談もしてなかったね」
「おばあちゃんとは長い付き合い」
「ふふふ……ドレミドに連れられて、演奏の旅に出た時から知っとるよ」
「そんな昔からですか」
「ああ、何を隠そう、絶滅演奏楽器を作ったのは私だ」
「なんと、そこまでは知りませんでした」
ブルモンド・霊歌はスファーリアを見た。
「スファーリアや、縁はいい男かい?」
「ビーダーを修理したならわかるでしょ」
「ああ、いい音だったよ」
「ふふん、当然」
スファーリアはえっへんと腰に手を当ててドヤ顔をする。
ブルモンド・霊歌はまるで孫を見るように微笑んでいた。
「よし……たまには工房から出ようかね、この街のお偉いさんには私が話をしておくよ」
「ありがとうございます」
「ああ、今度頭のウサミミを私に見せに来な、縁の信仰心をそろそろ抑えきれないかもね」
「え?」
「それは縁の信仰心を抑えて人間にしているんだ、これから増える一方だろうに」
ブルモンド・霊歌は縁とスファーリアを交互に見ると、ついつい縁達もお互いを見た。
「はは、落ち着いたらお土産を持ってきますよ」
「うむ、楽しみにしているよ」
工房から大通りに出る道を歩いていると。
「失礼、界牙流三代目、炎龍殿だな?」
「ふむ、私だけに向けられた殺気、何者だ、気付いてないと思ったか?」
突然背後から呼び止められ、振り返ると世捨て人の様な、ボロボロの服を着ている老人が立っていた。
「ご老人……いや、この気迫、何処かで」
「無謀にも昔貴方に挑み、返り討ちにあった少年ですよ」
「まさかあの時の!? しかしその身体は!?」
どうやら炎龍はこの老人を知っている様だ。
出会った時が少年ならば、炎龍はもっと歳をとっているはずだ。
「修行の成れの果てです」
「ど、どれだけ無茶をしたんですか!」
「界牙流に勝つため、ただそれだけをしてきた……愚か者ですよ」
「!?」
炎龍は老人の気迫に自然と一歩引いて、一筋の冷や汗を流す。
縁やスファーリアは動けずにいた、気迫に負けたのだろう。
「界牙流初代も子孫に心身の強さを伝え、この世を去った……だがその時の身体は見てはいられないものだったとか?」
「初代様はあらゆる分野を研究しました、一族がそれを引き継いできた」
「私も同じ事を……いや」
老人は首を振り、炎龍を睨んだ。
「話し合いをしたい訳では無い、この老いぼれのリベンジ、受けてもらいたい」
「……わかりました」
一行は街の外へと移動する。
炎龍と老人は向かい合いそしてお互いに構えた。
縁達は邪魔にならないように、少し離れている。
「界牙流三代目、炎龍」
「回歴流創始者、逍遥」
「なっ! マジか!」
縁が驚きの声が上がる、始まったかとおもえば、2人が速すぎて見えないのだ。
お互いに何かの技を出しているが、弾いてるのか受け止めてるのか避けているのか。
それも確認出来ないくらい速い、ただ間違いないのは。
「……格上だ、それも桁違いの」
「私でも音で把握するのがやっと、風月でも無理」
「え? 元の一人に戻っても?」
「無理、お父さんは私より強いし、逍遥さんも凄い」
顔は無表情だが、声は驚いているスファーリアは言葉を続ける。
「三代……いや四代続いている界牙流に、創始者が対等に戦っている」
「そうか、数十年続いている流派に一代で渡り合っていると」
「ええ」
「ふと思ったが、創始者ってある意味で我流なのか」
「そ、受け継ぐ人が居なかったら我流で終わる、世間の関心なんてそんなもの」
見えない戦いが続くと思ったが、逍遥が突然血を吐いて地面に倒れ込んだ。
「ぐっ! ゴホ!」
「逍遥殿!」
「やめなされ三代目、今は死合う最中」
炎龍は心配そうな顔をして駆け寄るが。
睨みを効かし炎龍を見ながら立ち上がる逍遥。
炎龍は悔しそうな顔をした後、意を決した様に距離をとった。
「奥義、回歴!」
「これは!?」
逍遥は意気揚々と歩き出した。
普通に歩いている様にも見える。
その歩きに炎龍は驚きと焦りが見えていた。
「炎龍脚!」
回し蹴りと共に足から炎の龍を出す。
攻撃というよりは何かを確認する様に。
炎の龍は逍遥には当たらず、明後日の方向に飛んで行った。
「凄い、あれはまさに『回歴』の言葉にふさわしい」
「どういった言葉なんだ?」
「『各地を巡り歩く事』」
「って事は炎龍さんが『目的地』になったって事か?」
「ええ、他の技と組み合わせ、相手の懐に入る技だと思う、そして相手の技にも使えると」
「さっきの炎の龍は目的地を変更されたって事か」
「ええ、これは面白い流派」
逍遥は散歩でもする様に歩いている。
炎龍は奥義の性質を見抜いたのか、防御の構えたでじっと待っている。
「くっ!」
「覚悟! 戒め最終奥義! 歩行禁止!」
逍遥は右手の鋭い突きを炎龍の心臓部分に突き刺した!
「ぐああぁ!」
「……届かなかったか、この身体がまとも……ならば」
炎龍は胸を抑えながらしりもちを着く。
技を放ち終えた逍遥は、無念の言葉と共にその場に倒れた。
「あれは凄い、例え心臓でなくとも当たった部分が死滅する」
「一撃必殺か、でも戒め?」
「回歴の言葉から見て、流派的な考えで、歩みを止める事はご法度って事かな? 殺すって事だし」
「なるほど……だが、炎龍さんが生きている所を見ると」
「完全には入ってないね、みねうちレベル」
縁とスファーリアは憶測で話をしつつ、見ているしかできなかった。
「しょ! 逍遥殿!」
炎龍は苦しい顔をしながら、逍遥を仰向けにした。
逍遥は最期を悟った顔をして笑っている。
「ワシのワガママに……付き合わせて……すまなかった、界牙流三代目……ぐっ!」
「たらればの話をしても仕方ないが! 貴殿の身体が健康であれば私は死んでいた! 貴殿は界牙流の技術に勝ったんだ! でも何故こんな無茶を!」
「界牙流に……心から勝ちたいと思ったからだ……だが……終わってみれば、後悔が……湧いてきた」
逍遥は弱々しい右手を天に向けた、そして右手はすぐに地に落ちた。
「ワシには……弟子が居ない、この技が消えていく……積み上げてきた……努力が……ゴホ! ゴホ! 死ぬよりも……この技が……死……ゴハァ!」
「逍遥殿!」
「縁君! どうにか出来る!?」
「ああ!」
後悔を述べている逍遥に、縁は鞄をあさりながら近寄り一本の巻物を見せた。
「逍遥さん、色々と制約がありますが、この巻物に貴方を封じる事が出来ます、技術や――」
「縁君、説得は一言」
スファーリアが縁の言葉を遮って言ったその言葉。
「貴方に推薦したい人物が居ます、きっと気に入ります」
「ほう……推薦したいとな? ゴホ!」
今にも死にそうな逍遥の目には、確かに生きる希望が宿っていた。
「流派を受け継ぐかは分かりませんが、素直でいい生徒です」
「……そうか……どちらにせよ……その子に合わせてもらえるかな?」
「ええ、こちらからお願いしたいです」
「兎さんや……これに……触ればいいのかい?」
「はい」
「ふふ、どんな制約が有ろうとも、ワシの技が伝えられる……頼んだよ」
逍遥は満足そうに光となって巻物へと吸い込まれていった。
巻物には『歩みの書』と名前が浮かび上がっていく。
縁は丁重に鞄にしまった。
「縁さん、ありがとうございます、彼の努力と技術、執念は素晴らしかった」
「……でも何でこの街に」
「おそらくですが、死期が近かったのが一番の要因かと」
「なるほど、この街を墓場にするつもりだったけど、お父さんの気配を感じたと」
「結果論になってしまうが良かった、彼の技が続く」
「この街に居た考察は後にして、一本槍の所に行こう」
「ああ、そう――」
縁のカミホンが鳴った、画面を見ると一本槍君と表情されている。
「おお一本槍君、丁度……は!? 紅水仙君が病院!? 君をかばって!?」
病院という単語に反応したスファーリアは眉をひそめた。
「何があったんだ!? アフロ先生の病院だな! すぐに行く!」
「何があったの?」
「確認しにアフロ先生の病院に行くぞ」
3人は病院へと向かったのだった。