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VRゲームでも運と愛し合おう!  作者: 藤島白兎
第三章 桜野学園編
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第六話 幕切れ 努力の美しいさと美しい努力

 一本槍と紅水仙は、お互いに向かい合っている。

 今までの手合わせとは違う雰囲気が漂っていた。

 2人共メーナの仮眠のおかげか、スッキリとした表情だ。


「さて、始める前にいいかい?」

「何でしょうか」

「名前で呼んでいいだろうか?」

「構いません、僕も名前で呼ばせてもらいます」

「ありがとう、君には私と同じものを感じている」

「僕もです成樹(なるき)君、主観ですが、美しさを求める姿勢と僕の努力が近しいからでしょう」

「なるほど、努力は美しいし、美しさを求める努力……か」


 紅水仙は納得した顔をしながら頷き、一本槍は真剣な表情で風月を見る。


「風月先生、お願いがあります」

「お、珍しいね」

「切り札を使うので、先生の判断で止めてください」

「ほお? 私に頼むほど危険なのかね?」

「恥ずかしながら、制御出来る自信がありません」

「珍しいね」

「成樹君ほどの相手、手合わせ出来る機会はそうそうありません」

「それ心が踊ってるだけじゃん」

「すみません」

「いやいいよ~? 手合わせだから無茶できるんだよ、縁、万が一に備えておいて」

「ああ、わかった」


 縁は鞄を確認した、そして紅水仙も一本槍と同様に、真剣な表情で竹山奥をみる。


「師匠、私も無茶をしていいでしょうか?」

「いいでしょう」

「ありがとうございます」

「んじゃんじゃ、私が茶々入れるまでさ~好き勝手を――」


 風月はふざけた口調で言葉を発していた。

 一本槍と紅水仙は、先手を狙っているかのように静かに相手を見ている。


「始めなさい」

「界牙流! ただの蹴り!」


 一本槍は速攻で背後に回り、顔を目掛けて右足で蹴り上げた。


「フッ……界牙流二代目の奥義、自分の気持ちを足に込める技だね」

「全然効いて無い!?」


 紅水仙は振り返る事も無く平然としている。

 一本槍は距離を取り、ゆっくりと紅水仙は振り返った。


「師匠から教わった尽善尽美(じんぜんじんび)は、自信の美しさと善以下の攻撃を無効にする」

「ならば早速切り札を出します、この戦いが手合わせで助かりました」

「見せてもらおうか」


 一本槍はまず両手を胸の前に合わせた。

 そして右手を握りしめながら右上に上げ、左手は手の平を上にする。


「む……これは」


 縁は何かを感じ取り怪訝(けげん)そうな顔をした。


芯努貫徹耕励磨しんどかんてつこうれいま静観(せいかん)!」


 まるでポンと閃いたように、右手を勢い良く左手の手の平に置いた!

 するとうっすらとだが、一本槍の背後にどっちゃんが現れる!


「なっ! 一本槍君はどっちゃんと契約したのか!?」

「ん? 驚く事?」

「風月! 神との契約は強大で! おいそれとはしてはならない!」

「あ~なるほど? 縁が心配なのはわかる、けどさ」


 珍しく……いや、おそらくは初めて本気で風月は縁を睨んだ。

 恋人の本気の怒りに縁は驚いた顔をする。


「私達の生徒は考えられない馬鹿か?」


 その言葉に縁はハッとして一本槍を直ぐに見た。

 冷静に一本槍はどういう生徒かを考える。

 戦いにおいて彼は素直で約束を必ず守り、ちゃんと考える生徒だ。

 縁は自分の不甲斐なさにため息をした。


「あ、ああ……そうか、すまない、生徒を信用しないとな」

「言い方がきつくなってごめん」

「いや、ちゃんと話も聞かずに慌てた……俺はまだまだだね」

「逆を言えば、縁が慌てる程の事なんだね」

「……ああ」

「縁先生、風月先生、どっちゃんと約束した事は『努力の為に使うならいいぞ』でした」

「それ聞く限り実戦では使っちゃいけないね~? 技の練習の補助に使えるくらいかね~」

「なるほど、とりあえず後でどっちゃんに何か奉納しとくか」

「神との契約、制約があるとはいえ面白い切り札だ」

 

 紅水仙はこれから起こる事に目を輝かせていた。

 期待に応えるかの様に一本槍は軽く笑う。

 どっちゃんがニヤリと笑い手を合わせると、一本槍の身体は光出した!


「これが完成した継続意思……『継続意思百戦錬磨の陣』です!」


 直ぐに光が収まり表れた一本槍の姿。

 それは赤鬼をモチーフにしたような戦国武将が着る様な鎧に、継続と書かれた鉢巻き。

 クラスの紋章でもある、草原を走っていてる兎にトライアングルのマークが家紋の様に所々にある。

 そよ風でも吹いているうのように、髪や鉢巻きがなびいていた。


「戦国武将の様に美しい……では私の美しさを見せよう! 紅水仙成樹のファッションショー!」


 次の瞬間、言葉通りのファッションショー会場になってしまった!

 軽快な音楽に色とりどりの照明、ファッションモデルが歩く場所であるランウェイも完備。

 

「こ、これは!? 成樹君の美しさが上がっている!?」

「さあ、始めようか……紅水仙成樹式、モデルウォーク!」


 紅水仙は優雅に美しさを見せながらランウェイを歩き出す。

 行ったり来たりを繰り返し、振り返る時にポーズを取っていた。


「モデルウォーク、つまりは美しさを見せる行為! そして、ファッションショーと言うならば、服を変える事で何かあるはずです!」

「陸奥、見事な洞察力だ……先生方」


 一本槍の言葉を肯定して紅水仙は歩きながら縁達を見る。

 一見シュールだが、一本槍は今の内にどう攻略するか考えているようだ。


「急で申し訳ありませんが、私に衣装(ちから)を貸してもらえませんか?」

「ほう~? 面白そうじゃん、どうすればいいのさ?」

「力を貸すと言っていただければ」

「なるほどなるほど、いいよ、どうなるか見物だね~」

「では、陸奥が一番馴染みのある服からだ」


 紅水仙がモデルポーズをすると衣装が変わった。

 風月の服装になったが、色合いや装飾がアレンジされた中華風の服装だった。


「界牙流……ノーマルキック!」

「この重さは!?」


 発言と同時に紅水仙は一本槍に向かって蹴りを入れていた。

 瞬きより速いその攻撃を何とか反応して防御する。 

 一本槍は会場の壁まで吹き飛ばされてしまった。

 紅水仙は攻撃が終わると、ランウェイでモデルウォークを再開する。


「こ! これは!? 風月先生レベル!?」

「私のファッションショーは、借りた人物の美しさをそのまま反映される」

「くっ……どう攻略すれば」


 一本槍が次の手を考えている時、斬銀は難しそうな顔をしていた。


「うむむむ」

「どったのさ、斬銀」

「俺も色んな能力を見てきたが、珍しいと思ってな」

「どの部分?」

「あいつが美しさを武器に戦うのは解った、借りた者の美しさってのがな」

「あ~確かに聞かないかも」

「ううぅ……素晴らしい」

「あらあら、また輝夜様が泣いてるよ、どうしたの?」

「いえ、成樹が身にまとっている衣装を通じて、風月先生の心構えと美しさが……くぅ……うう」

「もしかして、衣装の色合いやデザインで借りた人物の美しさがわかるのかも」

「は、はい……その通りです、あの衣装からは……何があっても縁先生だけは守り、私も生き残る……そんな美しさを感じます」

「だってさ斬銀」

「なるほどなぁ」


 斬銀が納得していると、一本槍もその話は聞こえていたようだ。


「つまり、僕は本当に風月先生と戦ってると言っても過言ではない!」

「強い力はそう長くは持たない……だが」


 紅水仙が着ていた衣装が今度はジャージになる。

 白いジャージに背中にはデカデカと黒色で、結びの文字が書かれている。


「今度は縁先生……ここは耐え続けるしかない」

「兎術、カースラビット!」


 地面かせ黒い兎が沸き始め、黒い毛並みに白い文字で額に呪と書いてあった。

 しかし可愛らしいつぶらな瞳の兎が、大群で一本槍に襲い掛かろうとしている。


「ならば……浄化の一本締め! いよー!」


 一本槍は素早く両手を開いて息を大きく吸った。

 手を叩くと一本槍を中心にして、優しい光が辺りに溢れ出す。


「あれは東洋さんの技、何時の間に交流したんだか」


 縁は自分の生徒の友好関係の広さに少し驚く。

 そして改めて自分の知らない所でも成長をしていると感じていた。


「今後の課題だ、強力な衣装はすぐに効果が切れてしまう」

「同じ衣装は使えないと考えると……後2回耐えれば」


 一本槍は確認するようにチラッと斬銀とルルを見る。 

 紅水仙はニヤリと笑って話しかけた。


「陸奥、衣装とは組み合わせもできるんだぞ? 当たり前だが」

「なっ!?」


 衣装の組み合わせ、当たり前の言葉で、ファッションセンスが有れば誰でもやる行為。

 紅水仙は下半身は鉄の鎧、上半身は露出が高い服に一瞬で衣装が変わる。

 一本槍は焦っていた、ルルと斬銀の実力を測れるからこそだ。

 

 紅水仙がやろうとしている事は、ルルと斬銀の合体技をくらうのと意味が同じという事だ!

 

「魔性の笑顔! 成樹スマーイル!」


 紅水仙は笑った、歯を光らせて笑った、傍から見たらそれだけだ。

 今更だがこの戦いは常識など通じない。

 間違いなくどういった原理で、などと考えているとまず相手の攻撃を許すだろう。


 まず斬銀スマイルは笑顔で周囲を攻撃する技、吹き飛んだり精神攻撃だったりと効果は様々だ。

 次にルルの能力は知られていない、だがインキュバス……もといサキュバス。

 淫魔という事は人を誘惑する力があるという事。


 誘惑というのは、何かしらの美しさが有るから心を動かされる。

 笑顔、これも美しさとは切っても切れない。

 そして紅水仙が美しさで戦ってる、つまり尋常じゃない威力になる。


「うああああぁあぁぁぁぁぁ! くっそぉぉぉぉ! 負けるかあぁぁぁ!」


 一本槍は足腰を踏ん張り、歯を食いしばり、両腕で顔を覆う。

 紅水仙の笑顔は強力で、一瞬で一本槍の鎧は落ち武者の様に損傷した。

 数秒で紅水仙の衣装は元に戻った、それほど強大に力だったのだろう。

 

 技を受けきった一本槍だったが、鎧の破片が自分の服にくっついてるだけ。

 もはや防御力などは無いだろう、鉢巻きも無くなっている。 

 強烈な攻撃に膝をついた一本槍だった。


「陸奥、君は自分自身の美しさを見せているかい?」

「……はぁ……はぁ」

「一瞬とはいえ、私が先生方の衣装(ちから)を使えるのは、私が美しさを磨いて来たからだ」

「……つまりは……借り物ではくな……土台の部分を見せろと言う事ですね」


 説得や説教をするように語り掛ける紅水仙、調子を整えるを待っている様だ。

 よろよろと立ち上がる一本槍は、しばらく深呼吸をして心身ともに落ち着かせる。

 

 気合を入れ直し、満身創痍に近くとも猛々しく叫んだ!


「行きますよ! これは! 僕が一人で歩み、他人と歩んできた僕の美しさだ!」

「来い! 君の努力を受けて見よう!」


 紅水仙は油断せず、防御の体制をして警戒している。

 対して一本槍は相手に向かって走り始めた。


「僕の足は! 努力の結晶だあああぁぁぁ!」


 放ったのはただの変哲もない飛び蹴り、だが界牙流ではない。

 悩み、教えを貰い、積み上げて歩いて来た足。

 まさに自分の証明する攻撃! 一本槍の人生で積み上げてきた努力の結果!


 彼の努力が名も無い必殺技を完成させたのだ!


「なっ!?」


 紅水仙はいとも簡単に吹き飛ぶ、壁に衝突して少しめり込んだ様だ。

 技を放ち終わった一本槍は倒れ、技を受けた紅水仙も倒れた。


 会場からはどよめきの声、縁達も思わず声を上げた。

 その中で斬銀は大きく拍手をしている。 


「素晴らしい! あいつやるじゃねぇか!? 他人の技術の詰め合わせではない、一本槍自身の『技』だ!」

「基礎は界牙流だけど……もうアレは別物だね~あの歳でやっちゃったね~」

「本当に流派を名乗る日も近いか?」

「それは私から卒業してからにしてはしいね~」


 風月は満足そうに生徒の成長を見喜んでいた。

 そして2人はよろよろとゆっくりと立ち上がる。


「どうですか!? 僕の美しさは!?」

「み、見事! 誰のものでもない努力の結晶! 自分自身の魂! だが私は立っている! 私の本来の技は防御系! 生半可に防御を考えていてはこれ以上のダメージは与えられないぞ!」

「攻撃に全振りしろと……面白い!」


 お互いに楽しくてしょうがない、そんな顔をしながら相手を見ている。

 周りが見えてない2人に、風月が申し訳なさそうな顔をして輝夜に話しかけた。


「もう少し見ていたいけど、輝夜様」

「風月先生、よろしくお願いいたします」

「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!」


 一本槍が気合を入れて走り出したその時。


「界牙流、絶滅演奏の風」


 2人の間に高音低音様々な音を奏でる風が通り過ぎた。

 

「ぐああああぁぁぁぁ!」

「ぐううぅぅぅぅぅ!」


 その場に倒れ込んだ2人は苦し悶え、会場は元の状態に戻り一本槍も元の姿に戻る。

 風月は気持ちはわかるけど、と言った顔をしていた。


「水差して悪いけど、それ以上したら重症だよ?」

「こ、これが君が話していた絶滅演奏……か」

「成樹君、僕はまだ動けますよ?」

「フッ……私も右腕だけなら」


 お互いに苦痛の表情をしながら、右手だけを使ってお互いに寄っていく。


「おお? 本気でやったのに腕一本動かせるとは、2人共凄いね~」

「用意しとくか」


 縁は鞄から色々と取り出して、何時でも駆け付ける準備をする。

 少々時間が経ち、お互いに右手が届く所までやったきた。


「フッ……どうやらここまでだね」

「成樹君、どんな決着方法でも付けたいと思います」

「それは私も同感だ……考えてる事は同じか」


 2人は唐突に指相撲を始めた、会場からはどよめきが生まれる。

 それは決着せずに、お互いの親指はサムズアップをして気絶した。

 縁はすぐに駆け寄り、会場のスタッフ達と共に治療を開始。

 会場からは結末に賛否両論の声が響いている。

 斬銀は軽く納得したように頷いていた。


「風月、ちょいとマイク貸せ」

「ほいよ」

「あー……傭兵やっている斬銀だ」


 観客の視線が斬銀に向いてた。


「観客の中には『そんな勝負方法、決着方法ありかよ』と思う奴も居るだろう、特に傭兵とか戦って金稼ごうとしてる奴らよく聞け」


 斬銀はゆっくりと説得する様に話していたが……


「当事者じゃない奴が声を上げるな」


 その声はとても冷たかった、スポーツ観戦感覚の観戦者感覚の人達にではない。

 斬銀と同じ様に傭兵の世界、つまりは血みどろの世界に居る又は入ろうとしている人物達に対してだ。


「経験で語るとだ、オセロ勝負でしか倒せない悪人が居た、無論、オセロで戦った、依頼者もオセロが強い奴を探した、だが周りがうるさかった、何故だかわかるか?」


 会場のほとんどが斬銀の言葉に耳を貸していた。

 自分は関係ない、そんな風に話を聞かない人達も居る。


「悪人と戦う方法が一般的な勝負方法じゃなかったからだ、俺からは以上だ後は自分達で考えろ」


 会場からはざわざわと議論する声が大きくなった。

 現役の傭兵からの言葉、それは非常に価値のある物。

 斬銀の言葉の意味を理解しようと考えているようだ。 


「ん~その通りな事を……ええ!? ルルちゃん!? 輝夜様!? そこまで泣く!? いや、これは一本槍達に対してか」


 ルルと竹山奥はハンカチ目に当てて大泣きしている。

 一本槍と紅水仙は気絶から回復して、治療されながら熱い握手を交わしていた。

 周りにはメーナとリリアールが何時の間に居て、4人で話し合っている。


「弟子と一本槍君の美しい友情、彼らはいいライバルになります」

「素晴らしいわ……」

「ふぁ~……ああ終わった?」

「虚言坂は吞気に寝起きだし、もう終わったから挨拶して」

「ああ……わかった」


 それから閉会の挨拶を簡単に済ませて、交流会は終わった。

 会場の片付けを手伝った縁達は、虚言坂の寝具工場をついでに見学させてもらうのだった。

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