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VRゲームでも運と愛し合おう!  作者: 藤島白兎
第三章 桜野学園編
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第六話 演目 夢の美しさ

 メーナと紅水仙が中央で向かい合っている。

 虚言坂は開始の挨拶はしていない、欠伸をしていて眠そうだ。

 好き勝手初めてくれと言わんばかりの態度である。


「さて、メーナさん、次は私達の番ですね」

「そうね、私もウォーミングアップに付き合った方がいいかしら?」

「ええ、それは有り難いですが、彼が不公平では?」

「それは大丈夫……兎術」


 シェパーズクルークの先で地面を軽く突いた、白い羊に乗る羊飼いの姿をした兎が現れる。

 会場からはちょっとだけ黄色い声が響き、縁は興味深そうに羊飼いの兎を見ていた。


「さて、美しさを求める貴方には回避できない攻撃……いえ、誘惑があります」

「……睡眠かい?」

「お、流石ですね」

「上質な睡眠は健康と美容に不可欠」

「抗えるかしら」

「否、抗う必要は無い、少々時間をくれ」


 紅水仙はそそくさと会場から出ていった、しばらくしてパジャマにナイトキャップの完全武装で帰って来た。


「待たせた」

「完璧装備」

「さ、快眠を提供してもらおう」

「わかった」


 再びシェパーズクルールを突くと、ふわっふわな寝具一式が表れる。  

 シンプルな白い色のカバーやシーツに包まれていた。

 紅水仙は少し目を輝かせて近寄っていく。


「これは私のお母さん……いえ『夢羊一族』の最高の寝具」

「試させてもらおう」

「待って、この子も一緒にいいかしら? 夢のお供よ」


 メーナは誰かを呼ぶように他を叩いた。

 角に赤いリボンを付けた黒い毛の羊が現れ、紅水仙に近寄っていく。


「ほう……夢の案内を頼むよ」

「めぇ~」


 黒い羊は自信満々に鳴き声を上げた、そして紅水仙と一緒に布団に入って寝た。

 同様に、少し離れた場所に居る一本槍もいつの間にか布団に入っている。


「さあさあ皆様お立会い、ここに取り出したのは試供品の枕です」


 メーナの言葉に合わせて、羊飼いの兎はどこからともなく枕を取り出して掲げた。


「今皆様に座っているのは、我社が試作、開発した『仮眠君』です、座席の右にあるレバーを引くと後ろに少し倒れます、倒すと魔法により簡易仕切りを展開、同時にタッチパネルも出現します、また座っている椅子も三段階に硬さを調整出来ます、そして――」


 ゆっくりとしっかりとした声で営業トークをしている。


「おいおい虚言坂、お前の娘は営業始めたぞ?」

「隙あらば妻の仕事の手伝いをするからな、昔からそうだ」

「もしかして、私が座っているパイプ椅子もそう?」


 風月は自分が座っている椅子を見た、レバーが付いている。


「うむ、これはそこそこいい物だな」

「縁はこのシリーズ? てかパイプ椅子を知ってるの?」

「ああ、型式てか、商品は違うが『惑星災害用緊急お休みセット』を持っている」

「どんなレベルの災害用グッスだよ」


 トコトコと試供品枕を運んできた羊達がやって来た。


「んじゃせっかくだから、私達も仮眠を楽しみましょう」


 縁達を含めて会場の居る者達は仮眠しようとしている。

 笑いながらリリアールがメーナに近寄って来た。


「はっはっは、みんな寝ちまったな」

「リリアールさんは寝ないのですか?」

「えー? 寝るなら彼氏とだろ」

「寝具にはダブルサイズもあります」

「営業熱心だねぇ」

「母は赤子の私を育てる為に、身を削ってくれましたから」

「あー夢羊って十分に寝ないと体調悪くなったり、肌ボロボロになったりだっけ?」

「はい、当時の写真を見ると……母には申し訳なくて、周りの人達の支援はありましたが」


 メーナは一枚の写真を取り出した。

 そこに写っていたのは、赤ん坊を抱いて肌も髪もボロボロな羊の女性と少し若い虚言坂。

 その写真に写っている全員楽しそうに笑っていた。


「……あんたのお父さん、いい男だね」

「当然です、その時の母を支えて私達を守ってくれました」

「詳しく聞いて無かったけどさ、何があったんだ?」

「夢羊一族は、時々強く現実に干渉出来る夢を持つ者が居ます」

「それがお母さんだったとか?」

「はい、お父さんは当時、詐欺師だったんで祖父母とは仲が悪かったんですが」

「いやいや、あんたのお父さん詐欺師かいな」

「はい、元ですが」

「話を戻して……これまたふわっとしか聞いて無いけど、お父さんが何とかしたんでしょ?」


 リリアールの質問にメーナは真剣な表情で頷いた。


「父は1人で母の力を狙う者達の『存在』を全て消しました」

「……ん? 噓で消したって事? 『最初から存在しなかった』とか?」

「はい、母を狙う者達を痕跡残らず消しました」

「んな事して大丈夫かよ」

「いえ、父は反動で自分の存在すら消えかけていました」

「だろうな、1人でやる技じゃねぇ……誰にも頼らなかったのか?」

「母と会って落ち着いたようですが、元とはいえ詐欺師、父は恨まれてました」

「そりゃそうか……一族は?」

「正直対処が遅かったですね、祖父母は色々と働きかけていたようですが」

「待ってたら自分の妻があぶねーもんな、そりゃ無茶するか」

「はい、母は自分の力で父を助け、その時にも祖父母とは仲良くなってます」

「現実にする夢で助けたって事か、どうやったんだ?」

「『数十年力が衰え、寿命は縮むけど死なない』です」

「落としどころとしてはいいのかもな」

「全部都合の良い風には出来ません」

「そりゃそうだな」


 メーナの熱い家族愛の話に号泣している人物が居た。

 

「くっ……ううぅ」

「縁がまた泣いてるよ」

「虚言坂さん!」

「お、おう、ど、どうした」


 縁は上半身を起こして虚言坂の方を見た。

 涙でぐしゃぐしゃになっているが真剣な表情である。

 慌てて虚言坂も上半身を起こした。


「良き縁を作った貴方に、縁起身丈白兎神縁えんぎみのたけしろうさぎのかみえにしは……感動しました、何かあった時は相談してください」

「お、おお……まあ……覚えておくぜ」

「本当に縁はいい縁を持ってる人には甘いね」

「当たり前だ風月、良き縁はその人の努力、人間性が出る」

「あの娘さん見てれば慕われてるのはわかるよね~」


 縁は鞄からハンカチを取り出して涙を拭いている。


「メーナ、そろそろ起こしたらどうだ?」

「そうですね」


 メーナがシェパーズクルールを突くと、紅水仙はバッと上半身を起こして、安らいだ顔で胸に手を当てている。


「……ふむ、心が暖かい、いい夢だった」

「おはようございます」

「これは納得の仮眠だった、数十分も寝てないのに数時間寝た気分です」

「それは良かった」

「さて着替えてきます」

「いってらっしゃい」


 紅水仙は着替えにいって、メーナとリリアールは一本槍が居た場所へ。

 入れ替わる様に、仮眠から目覚めた一本槍は中央に移動する、しばらくして紅水仙が帰って来た。

 スッキリとした顔をしてお互いにやる気満々な様だ。


「あらあら、こりゃ激戦になるね~てか一区切りさせないの? 虚言坂さん」

「ああすまん風月さん、ちと代わってくれ、眠い」

「あーらら、じゃあ私が引き継ぎますか」


 そう言って虚言坂は寝始めた、風月は虚言坂が使っていたマイクを自分の目の前に置く。


「正直、君との戦いが楽しみだ」

「それは僕も同じです」


 軽くストレッチをしている2人、激戦を予想させるのだった。

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