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VRゲームでも運と愛し合おう!  作者: 藤島白兎
第三章 桜野学園編
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第六話 幕開き 嘘と夢の力

 交流会の主催者、虚言坂道也(きょげんざかみちなり)の私有地。

 そこに交流会の会場があった、格闘技大会でも開催出来そうな施設。

 メインホールの中心を見下ろす形で二階から観戦する形だ。


 中央には虚言坂がマイクの前に立っている。

 縁達引率組は、中央から少し離れた場所で椅子に座って観戦。

 目の前のテーブルに、飲み物と名前が書いてある三角形の紙が置いてあった。

 

 参加者達は会場の隅の方で談笑している。

 見る限り和気あいあいとしているようだ。


「えー本日は私、虚言坂道也が主催した交流会に、参加して頂きありがとうございます」


 虚言坂は腕時計を確認した後で話し始めた。

 会場が徐々に静かになっていき、中央に視線が一気に集中した。


「万が一には備えてますが、重傷や致命傷には気をつけてください、むしろやめてください、また、組み合わせは既に決まっております、私の挨拶はここまでにして、早速交流会を始めましょう、会場設営に少し時間を頂きます」


 虚言坂が挨拶を済ませると会場から拍手が起こる。

 一礼した後に引率者がいる場所へ移動した。


「おう、虚言坂挨拶お疲れ様」

「斬銀、ギャグの一つでも披露すれば良かったか?」

「やめろ、お前ほとんど力を使えないんだろ?」

「ああん? 余興くらいいいだろ」

「無駄に力を使わないでくれ」

「あ、そうだ忘れていた」


 虚言坂は縁達の前までやって来た。


「縁先生、風月先生、本日はお越しいただきありがとうございます」


 深々と頭を下げ、縁達も立ち上がり頭を下げる。


「いえ、こちらこそありがとうございます」

「招待ありがとうございます、パッと見る限り、将来見込みがある若者がそろっているね」


 風月は参加者達期待の眼差しでチラッと見た。


「私が見る限り、皆面白い力を持っているね~」


 その時、会場設営していた係りの人が虚言坂の所へやって来た。


「虚言坂様、準備が出来ました」

「お、そうか、ありがとうな」


 虚言坂は自分の席に戻り、マイクを握った。


「それでは一回戦目は、一本槍陸奥対虚言坂メーナ、両者中央へ……後、俺や先生方の判断で横槍入れるから、あまりはしゃぐなよ?」


 呼ばれた2人は中央へと歩いてくる、一本槍は何時ものジャージ。

 虚言坂メーナは緑色をベースにした、遊牧民を思わせる服装でスカートだ、ドロワーズがチラッと見えている。

 そして黒い癖っ気な髪に羊の角、羊飼いの持つ杖のシェパーズクルークを持っていた。


 中央に来た2人は向かい合った。

 

「よろしくお願いいたします、メーナさん」

「よろしくお願いいたします、一本槍さん」


 2人は深々と礼をする。



「嘘と夢の力、挑ませていただきます」

「嘘は父上、夢は母上から……さて一本槍さん、私の父を見てどう思いますか?」


 メーナは自分の父親を見ると、虚言坂はふざけた様にポーズをとった。

 一見お茶目な初老の男性、だが一本槍は少々言いづらそうに口を開く。


「……知った風に言いますと、家族を守る為に強力な噓を付いたのでは?」

「そうです、父上は私と母上を守る為に噓を使い、その結果老化が進んでしまいました」


 一本槍をメーナは見定める様にジッと見た。


「さて……準備はできました?」

「すみません、この技は付け焼き刃で」


 一本槍の姿は一見何も変わっていない。

 ただよく見れば血色が良く見え、風が微風吹き髪が揺ていた。

 そして、うっすらと鉢巻きを巻いているように見え、身体でリズムを取っている。


「名前はあるのかしら?」

「『継続意思』と名前は付けました」

「素敵です、夢に向かう努力をする貴方に、最高の噓と夢で答えます……後先を考えて1分、いえ2分」

「それまでにメーナさんを降参させればいいと」

「出来るならね」


 シェパーズクルークを地面に突き刺すように貫いた。

 それは地面に刺さってはおらず、真っ直ぐ立っている。

 次の瞬間大小様々な大きさの泡と、白や黒にねずみ色の羊達が現れた。


 会場は羊の可愛さに所々黄色い声が響く。

 一本槍は一瞬だけメーナから視線をそらして、周りを気にかけた。

 メーナはその隙を見逃さない。


「界牙流、ただの蹴り」

「なっ!?」


 風月の様な速度で界牙流ただの蹴りをくらった一本槍。

 防御はしたものの会場の壁まで吹っ飛んだ!

 めり込みはしなかったが、一本槍の顔は驚いていた、風月レベルの界牙流を放てる事に。


 だが、一本槍は何かに気付いて、驚いた顔から納得した顔になった。 

 落ち着いて相手を見て構え、メーナは特に構えも無しで棒立ちしていた。


「これが私の『噓』よ、そして貴方の『夢』」

「おおおお!? いいねぇ! 私の手加減レベルの蹴りだよ!」


 風月が興奮して縁の肩をペシペシと叩き、縁も面白そうにメーナを見ていた。


「ふむ……『界牙流を使えるという噓』に『界牙流をもっと学びたい、という一本槍君の夢』か」

「こりゃ一本槍は勝つのは無理だね」

「2分逃げ切るなら可能性があるが、降参させるとなるとな」

「おいおいお前ら、ちったぁ一本槍も褒めてやれよ、先生だろ?」


 斬銀が少々呆れてため息をすると、縁達はそちらを見た。


「あの一本槍の技、継続意思は俺の赤鬼、縁の兎術、界牙流と演奏術の技術だぜ?」

「うんうん、複合技なのは知ってるよ? 自分の教え子は褒める機会があるけど、人様の教え子って褒める機会そんな無いでしょ?」

「あー……なるほどな?」

「いやでも嬉しいよ? 『自分の技』を考え始めたのは大きい」

「縁はどうよ」

「応用力に正直びっくりだ、今は微々たるものだけど、極めればヤバいな」

「なら今度、流派を名乗ってみろって言うか?」

「それは流石に早いね~」


 どことなく嬉しそうな風月はニヤリと笑い、戦っている2人に目線を戻した。 


「これは私の力、嘘と夢の空間『事実無根(じじつむこん)南柯之夢(なんかのゆめ)』」


 メーナはシェパーズクルークを見る。

 それはまるで時間制限があるように、真っ直ぐな状態から傾いていた。

 一本槍はその隙を逃さなかったが、メーナの方が速い。


「界牙流、暴風!」


 それは純粋な打撃の嵐だった。

 徐々に速さが上がっていき、メーナが何人にも見えてしまうほどだ!

 一本槍は防戦一方で、手出しできなかった。 

 防御はしていても、対応出来ない打撃はくらってしまっている。


「あらあらあら、暴風じゃん」

「風月、あれはどんな技なんだ?」

「ふっふっふ、縁よ、あれは私の素早さを活かした、ただの打撃……にしても見事だね~噓や夢の反動に対する身体作り」

「うむ、精神面もいいし、なにより自分の力をちゃんと理解している」

「だね~……噓は徐々に身を滅ぼし、夢だけでは絵空事、見事だね」

「娘を褒めてくれんのは嬉しいが」


 砕けた喋り方で虚言坂は2人に話しかけた。


「実践経験の差が出ているな、あの一本槍は人を殺した事は?」

「まだ無いよ? ただ私が本気で殺しにかかってるだけ」

「いざって時は相手を殺す覚悟がしっかりと出来ている」

「戦いに次は無いと思わないと~今は手合わせだから次はあるけど」

「ふぅむ、界牙流四代目さんから教えを貰っているんだ、一本槍はただじゃやられんだろ」

「ま、結果は見てのお楽しみだね」


 それ以上は何も言わずに、一本槍とメーナの次の一手に集中した。 

 一本槍はメーナの猛攻により膝を付く。

 メーナはチラッとシェパーズクルークを確認する。

 もう地面に完全に倒れそうだ、メーナはトドメにはいった。


「これで終わり……界牙流だだの――」


 メーナは界牙流二代目奥義で綺麗に締めようと思う。

 しかし、一本槍の姿を見て寸前で止めてしまった。 


「界牙流、恨み風」


 界牙流恨み風は以前、一本槍がどっちゃんの力で未来の姿になった時、風月からくらったカウンター技だ。

 恨み風は自分が受けたダメージをそのまま返す技。

 だがメーナはそれで攻撃を止めた訳では無い。


「そ、その姿は!?」

「僕の噓と夢です、将来の自分という噓とそうなりたい夢です……ぐっ!」


 メーナの『事実無根・南柯之夢』は簡単に言えば噓と夢を叶える空間。

 将来の自分の力が今使えるという嘘と、将来のそうなるという夢。

 まさに条件にはピッタリだ、しかし、一本槍は苦しそうにしている、強力な力には負荷があるものだからだ。


 だが一本槍の姿はまさにどっちゃんが力を貸した時の、未来の姿になっている。

 胸を抑えニヤリと笑うと、シェパーズクルークがカランと音を立てて地面に落ちた。

 泡や羊達が無くなり一本槍の姿も元に戻った、それを見た虚言坂が声を上げて中央に向かう。


「そこまでだ! 2分たった、それ以上はお互いに身体の負担が酷くなるぞ」

「私の空間の力を使われた? 以前に同じ様な能力を相手にしたとか……」


 自分の空間を利用された事に対して、冷静に独り言をブツブツ言いながら動揺しているメーナ。


「おう娘、一本槍の継続意思をただの身体強化とみたか?」

「ええ、それ以外に何が?」

「一本槍は馬鹿みてぇに適応やら順応がたけぇ、初見で利用されるとはな」

「……初見!? 一本槍さんはこの短時間で私の空間を使ったと!? 初見で!?」

「俺もびっくりだ……が、使われないと思って対策しなかったのも悪い」

「反省します」

「メーナさん、お手合わせありがとうございました」

「一本槍さん、試合に勝ち勝負に負けました、手合わせありがとうございます」

 

 一本槍は呼吸を整えてた立ち上がった、そして姿勢を正して深々と頭を下げる。

 メーナも深々と頭を下げた後に、顔を上げてジッと相手の目を見た。


「一本槍さん、ご提案が」

「提案ですか?」

「ええ、私がサポートすれば一本槍さんは先程の姿を保てると思います」

「なるほど」

「協力技でカッコイイです!」

「え、ええ!?」


 急に目をキラキラとさせるメーナに、一本槍はテンションが付いていけていない。 


「さあさあ、ちょっとあちらでお話しましょう!」

「え、あ、いいですけど……」


 2人は他の出場者が居る場所へと向かい、呆れてながら元の席に戻る虚言坂。


「娘の悪い癖が出た」

「研究熱心でいい事じゃんさ~」

「いいわ……素晴らしいわ」

「くっ……ふっ……」


 なんとルルと竹山奥輝夜(たけやまおくかぐや)は泣いていた、2人はハンカチで涙を拭いている。

 風月は少々ビックリしながら話しかける。


「ど、どうしたのさルルちゃんと輝夜様、ああ……ついつい様って付けちゃった」

「いえ、すみません……2人は心の美しさについ」

「もう私は汚れちゃったから、あんなにキラキラした2人を見ていると浄化されそう」 

「はぁ……ルルはともかく、輝夜は美しい物をみるといつもこうなんだよ」

「ああだから2人共喋らなかったのか」

「ま、ちょっと休憩してから2回戦目だな」


 こうして一回戦目の手合わせは終了した。


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