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VRゲームでも運と愛し合おう!  作者: 藤島白兎
第三章 桜野学園編
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第三話 幕切れ 赤鬼の一本槍

「力を貸してほしい理由は?」

「風月先生と手合わせしたいからです」


 一本槍の理由にいい顔をしないどっちゃん。

 あの時力に溺れるなと注意したのにとぶつぶつと独り言。


「あの時の風月先生の殺意は僕にも向いていました、いや殺意と言うよりも興味と言うべきでしょうか」

「いや~あんなの見たら興味も沸くよ~」

「しかしなぁ……うーん」

「あ、どっちゃん、渡し忘れていたけど」


 迷っているどっちゃんに、縁は袖の下を渡すように近づいた。

 鞄から一升瓶に入ったお酒を取り出し渡す。

 渋い顔しながら受け取ったどっちゃんは、ラベルを見て目を見開いた!


「ばっ! お前これ! どうやって手に入れたんだよ!」

「それはこの間のお礼だ」

「おいおい、お釣り出るぞ?」

「そのお釣りで一本槍君のお願いを頼むよ」

「……しかねぇなつまみも付けろ、対価無しでやってやる」


 縁は鞄からブルーシートを取り出して地面に敷いた。

 ついでにジュースとお菓子も出す。

 どっちゃんと生徒達はそこへ座った。


「そのお酒ってそんなに凄いの?」

「風月先生、それは『酒舞(さけまい)』と呼ばれる神様が作った一品です」

「お~久城流石に詳しいね」

「はい、その神様は普段だらけています、しかし作る酒は正に神の領域で、飲むと色々な味に変わるとか」

「ほ~……そんなに凄いの縁?」

「見た目は米のお酒、だが飲んだ者の思考で七変化だな」

「つまり?」

「ワインと思えばワイン、ウィスキーと思えばウィスキーさ」

「とりあえず凄いんだね」


 どっちゃんは豪快に一升瓶をラッパ飲みし始めた。

 一旦口から離すと満面の笑みをしている。

 その後両手で拍手するように叩く。

 

 一本槍は眩い光に包まれいき、大人になっていた。

 白い上下のジャージに、白い長いハチマキに指ぬきグローブ。

 ジャージの背中の部分には、トライアングルとその中に風が吹いている草原を走る兎のマークが描かれている。


「ほれ、やるなら早くしな」

「いや待ってくれ……風月、ここは一つお前も強化してみないか?」

「強化? どっちゃんに頼むの?」

「いや、俺の力だ」

「ほほう? 面白そうじゃん」

「んじゃ渡すぞ」


 縁は風月の肩に触れると白い光が移動する。

 そして風月の頭に白いウサミミが生えた。 


「おお、これが縁の力」

「少しだけだがな……使えるか?」

「運がいいから大丈夫~ま、詳しい話は後だね~」


 ご機嫌な風月と険しい顔をした一本槍が移動する。

 そしてお互いに向かい合った。

 風月は殺す気満々の顔付きにになる。


「殺し合おうか」


 風月がそう言い放った瞬間、一本槍の素早い不意打ちから始まった。

 一本槍は風月の背後から飛び蹴りをして、鈍い音が辺りに響き渡る。

 その攻撃も移動も尋常じゃない速さだった。


「なるほど、運がいいとはこういう感覚なのか」

「手応えがあるのに効いて無い!?」


 風月はゆっくりと振り返り、一本槍は距離をとった。

 攻撃が効いてない理由は縁の加護だろう、運がいいからだ。

 一本槍もその事は直に理解して、どう攻略するかを考えた。

 

 縁が口うるさく言っていた『神の弱点は気持ち』と。

 風月は『何故効かないを考えるよりも、殺せる方法を考えろ』と。

 自分の先生達が常々言ってきた事を踏まえて、これしかないと一本槍は走り出す構えをした。


「ほう? 未来のお前は――」

「界牙流……ただの蹴り」


 喋っている風月が吹き飛ばされた。

 一本槍は風月にも負けない速度で蹴ったのだ。

 最初の不意打ちは目でも追えた。

 しかし縁達が見たのは、蹴り終わった一本槍と吹き飛んで転がっている風月。


 界牙流ただの蹴り、二代目が考えた必殺技。

 純粋に己の気持ちを込めた足で蹴るだけの技だ。

 

 威力は風月に怪我させていたのだ、血を流したのだ!。


 その証拠に風月は立ち上がったと同時に、口から血をぺっと吐いた。

 ふっ飛ばされた時に口を切っただけかもしれない。

 事実はどうであれ、風月に血を流させてのだ。


 どっちゃんは1人で酒盛りしていて見ていない、生徒達はは啞然としている。

 縁とツレは啞然ではなく驚愕していた、あの風月を怪我させたのかと。 


「無駄なお喋りはしないと教わりましたよ?」

「二代目奥義をその程度の反動で済ませるか」

「……それでも代償はちょっと大きいです」


 よく見れば一本槍は血を流していた。

 少量だが目、鼻、口、耳と、そして身体を震わせている。

 縁が以前使った時は、口から血を流して死にそうだった。

 むしろ神じゃなかったら反動で死んでいた。

 それと比べると未来の一本槍の凄さがわかる。

 

「治せ、待つ」

「はい」


 一本槍はその場に座り深呼吸を始めた。

 風月の方は既に怪我が治っていた。

 この数十秒の間にとっとと治したのだろう。

 しばらく瞑想した後に一本槍は立ち上がる。

 血は止まり、震えもなくなっていた。


「見事だ、こい」

「絶滅演奏体術! 根ぜ――」

「界牙流・無音月(むおんづき)


 一瞬で夜になり、見事な満月が空に浮かんでいる。

 一本槍は技を出すのを止めた。

 確認するように声を出したり、手を叩いて音を出している。

 名前から察するに音に干渉する技なのだろう。

 

「演奏術も界牙流も私の技術だ」

「来い! 継続!」


 一本槍はそう叫んだ。

 鉢巻きを巻いた兎が現れ、背後から風月の首を狙っている!

 しかし。


「兎術は私の旦那の技術だ」


 先程地面に吐いた風月の血が兎の形になる。

 血で出来た兎は一本槍が呼んだ兎に襲い掛かった。

 結果として、2匹で取っ組み合いの喧嘩をしている。 


「私をがっかりさせるな」

「まだです!」


 一本槍は左手で右手を掴んだ。

 風月は特に止めもせずに見居てる。


「……」


 一本槍の右手はどんど赤くなっていく。

 槍でも構えるかの様に、右手を突き出した。

 風月が一瞬だけニヤリと笑い元の表情に戻る。


「面白い、来い」

「赤鬼の一本槍!」


 ただの蹴りと同様、一瞬で技は終わった。

 おそらくは右手で風月を突いたのだろう。

 風月の右手は切り傷だらけで、見てられないレベルだ。

 身体のあちらこちらにも、衣服が切れてそこから血が流れている。 

 見るからに重症だ、それでも風月は涼しい顔で立っていた。


 特に痛みがらずに風月は振り返るった。

 風月の少し離れた場所に一本槍は立っていた。

 技を出す前から見て、直線状に居る。


「ぐっ! ごふぁ!」


 風月と同じ身体の傷を受けて一本槍はその場に倒れた。 

 血を吐いて死んだように倒れている。

 どっちゃんは呆れた顔をしていて、生徒達がざわざわとしている。

 ここで取っ組み合いの喧嘩をしていた兎達も消え、空も元に戻った


「界牙流・恨み風……ここまでにしようか」


 風月の言葉を聞いた縁は鞄から白い宝玉を2つ出す。

 1つを風月に向けて投げた、それを左手で受け取る。

 あっという間に傷は無くなった。


「その力は斬銀か? となればお前はこれからその技術を学ぶのだろう」

「大丈夫か一本槍君、はしゃぎ過ぎだ」


 苦笑いしながら一本槍に宝玉を握らせると、あっという間に傷が治った。

 そして一本槍の姿も元に戻った。


「ありがとうございます縁先生」

「いや~この私を怪我させるとは凄いよ! これは負けてられないね!」


 風月はひょいと一本槍を立たせて、嬉しそうにペシペシと肩を叩く。


「風月先生、今の僕の力ではありません」

「戦い最中には関係ないね~ただ後先は考えときなよ」

「はい」

「えに先生ー! どっちゃん達が絶句してるっす」


 ツレは見慣れているからか何時も通り。

 サンディのクラスの生徒達が、なんやかんやと話している。


「なんつーか、風月先は最後の一撃で認めた感じだな、それが無かったら死んでたな」

「死神見習いが魂の運送はしたくないっすね~」

「なあツレ、お前んとこは何時もこうなのか?」

「そうっすねダエワ君、流石に毎度毎度こうじゃないっすけど」

「お前らのクラスが人数少ない理由が分かったぜ」

「いや、陸奥が可笑しいだけで他の皆はそれほどでもないっすよ」

「他の奴らは手加減してもらってるのか?」

「そりゃそうっすよ! 何かの試験なら分かるっすけど、授業で殺し合いはしないっすよ、普通は」

「……そりゃそうだよな」


 生徒達がそんな話をしていると、縁はどっちゃんの所へ行く。   


「どっちゃん、ありがとうな」

「縁、いや風月か、マジな殺し合いは勘弁してくれ」

「いや~ごめんよ~未来の努力した姿っていうから、知らない技に期待してさ~」

「どっちゃん、未来の記憶とかも一時的にあるのか?」

「いや、力だけだ」

「本人に聞けばいいのか、一本槍君どんな感じなの? 知らない技術を使うのは」

「僕の感覚で言わせてもらうと、使い方を知っていました」

「なるほど~? 物心が付いた時には、身体が動かせたり声が出せたりみたいな感覚?」

「はい、それに近いですね」

「んじゃ、そんな訳で本日の授業はここまでにしましょ~」

「そんなテキトーでいいかの?」

「わたしの体内時計は適当さね~」


 風月は自分のお腹を軽く叩いた。

 上手いこと言ったつもりなのか? と縁は苦笑いをしている。 


「あの風月先生、このまま残っても大丈夫でしょうか?」

「それは構わないけども、どっちゃんは?」

「いいよ、久城は見ていて退屈だったろ? もうちょっと神社を案内してやろう」

「ありがとうございます」

「他の奴らはどうするんだい?」

「私も残ります、この機会を逃すと次はいつになるか」

「俺も残る、地獄に帰っても説教と手伝いが待ってるからな、ツレ達はどーすんだ?」

「付いて行くっす」

「僕もお供します」

「んじゃ、まずは片付け開始~」


 皆でブルーシートやらお菓子をささっと片付けた。


「あたし達は帰ろうかね~デートなんで」

「お疲れ様です、縁先生、風月先生」


 一本槍の言葉で生徒達は次々に頭を下げていく。


「どっちゃん、生徒達をよろしく」

「ああ、お疲れさん」


 縁と風月はそよ風を残して消えた。

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