第三話 演目 死神の音楽
「殺すつもりで来い、普段本気なんて出せないだろ?」
「お言葉に甘えるっすよ?」
ツレは身に付けている指輪やサングラスを外した。
そして、死神と言えばお馴染みの大きな鎌を何もない所から生成する。
「死神にしてはいい信仰心だ、いや信頼と言っておこうか」
どっちゃんは一本槍の方をチラッっと見る。
ツレはそれを見逃さず、鎌を振りかぶって首を切り落とそうとした!
「いいねぇ、問答無用で殺しに来る」
右手で簡単に鎌は掴まれた、ツレは鎌の柄を足場にどっちゃんから距離を取る。
鎌もほぼそれと同時に消えて、どっちゃんは楽しそうに拍手をした。
「いいぞいいぞ、黄泉比良坂之死魔? 久しぶりに死にそうな感じだ」
「その割に平然としてるじゃねーか! って本名知ってるのか」
「努力したからだ」
どっちゃんは当たり前の様にそう言った。
縁が常々言っている、神に常識は通じないのだろう。
「死神の俺が言うのも可笑しいが、神しぶっ飛び過ぎだ」
「何故効かないかわかるか?」
「技術だ、とんでもないな」
「お、よく分かったな」
「どっちゃんは努力の神様でしょ、それ位わかりますよ……でも、素手で死神の武器を弾きますか?」
「この技術は人間が作ったものだ、ま、それは置いといて、どうするよ?」
「……兎術!」
ドクロの仮面をして鎌を持った兎が、どっちゃんの背後に突然現れて首を狙っている!
だが素早く振り返られ、首根っこを掴まれてしまった。
ジタバタしている死神の兎、どっちゃんは縁の方を見る。
「おーい、これは縁のお得意の技だよな? 思念を具現化だったか?」
「一本槍君には教えたが、ツレ君には教えてないな」
「えに先生、比良坂黄泉って覚えてますか? 遠い俺の親戚なんですよ」
以前縁が兎術を教えた時に居た、現実的な考えを持った女子生徒の事だ。
「ああ、確か召喚術のクラスの! 比良坂さんから教えてもらったのか?」
「はい」
「ほれ、ご主人様の所に帰りな」
どっちゃんはジタバタしている死神兎を地面に置くと、ツレに向かって一直線に走り、肩に向かってジャンプして乗っかる。
「さてどうする? 死神君、ここで終わるか?」
「まさか、奥の手の一つを披露するよ」
ツレはヴァイオリンを召喚して、死神兎はハープを取り出した。
「楽器?」
「死者のお祭りの一つだ」
「ほう? 聞かせてもらおうか」
「では遠慮なく」
まず死神兎がハープで12回音を鳴らす。
それは深夜12時を指すような音色。
ゆっくりとツレはヴァイオリンを演奏しだした。
死神が夜に現れて、これから何かしようとしている音だ。
「いやいやこれは見事、努力が見える」
どっちゃんは特に邪魔をせずに聞いている。
音楽は続き、今度は地面から無数の骨の手が出で来る。
手には様々な楽器が握られていた。
そのガイコツ達は地面が出で来て音を奏で始める。
フルートの音はそのガイコツ達がワルツでも踊っているかの様に奏でている。
シロフォン、木製の打楽器が骨の擦れる音を表現していた。
死者達の舞踏会である、その舞踏会はずっと続きそうだ。
だが突然演奏が止み、木の管楽器であるオーボエの音が響く。
朝を告げる様な音で、鶏が鳴いていそうだ。
徐々に曲は小さくなっていき、ガイコツ達も地面へと帰っていく。
死神兎も消えて、ツレだけになった所で曲は終わった。
「感動していただけましたか?」
「いやいや、凄いよ!」
どっちゃんは気合いの入った拍手をした。
見ていた縁達も惜しみない拍手をする。
「いやいや参った、これは心を動かされた私の負けだな」
「殺したり魂を運んだりだけが死神じゃないんでね、死者の魂を癒すのも必要です」
やりきった顔をしているツレを、風月はとても満足そうに見ていた。
「うんうん、流石私の生徒」
「見事な演奏術だ……が、勝敗はこれでいいのか?」
「まあまあ縁、当事者達がそれでいいならいいじゃない」
「それもそうか」
「さてさて、お次は誰がいいかな?」
「なあ、お願いがあるんだが」
ダエワが手を挙げてどっちゃんに近寄っていく。
「あんたじゃなくて、縁先とやらせてくれねぇか?」
「ほう縁と? じゃ、後は任せたよ縁」
どっちゃんは縁に近づいて肩を叩いた。
縁は歩きながらウサミミカチューシャを外して、いつもの神様モードになった。
「全力で来てくれよ? 縁先」
「やるなら手を抜くつもりはない」
「じゃ、相手をしてもらうぜ!」
縁の溢れ出る白いオーラに武者震いしているダエワ。
この白いオーラの正体は、縁を愛する人の想いだ。
ダエワも気合いの入った声と共に赤紫色のオーラを放ち始めた!