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VRゲームでも運と愛し合おう!  作者: 藤島白兎
第三章 桜野学園編
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第二話 演目 黒から白

 縁を排除しようと襲撃? してきた賊はいとも簡単に返り討ちにあった。

 例え一般人だろうが容赦無い2人。

 殺し合いの世界で生きていたからこそ、容赦も油断もしない。

 そんな2人は、店に戻ろうと来た道を帰っていた途中。


「そうそう、何を呆けていたの?」

「それは、スファーリアさんの音が綺麗だと思いまして」

「は、はぁ!?」


 スファーリアは立ち止まり、振り返って縁を見る。

 その顔は本当に驚いていて、ちょっと恥ずかしがっている様にも見えた。


「え? そんなビックリします?」

「それを言われてのは初めて」

「そうなんですか、なんて言うか……心に響きました」


 縁は自分の素直に話しているだけだろうが、スファーリアは疑いの眼差しで見ている。


「……ナンパ?」

「なんでそうなるんですか、俺は貴女の音が綺麗と言っただけですよ」

「私、音人」

「おんじん?」

「身体と心は音で出来ている」

「つまり、音を褒めると貴女を褒める事になると?」

「そういう事」

「では……どういえばいいのか」


 口説いているつもりは本当に無いようだ。

 スファーリアは真剣に悩んでいる縁を見てため息をする。


「でも貴方が本心で言ってるのはわかる」

「わかるんですか?」

「声も音だから」

「なるほど」

「それで、綺麗と思って?」

「いや、ちゃんとした演奏を聴いてみたいなと」


 縁の言葉に更に驚いた顔をするスファーリア。

 彼女が感じ取った縁の声、つまり音は噓偽りが無かったからだ。

 驚きっぱなしの彼女に縁は首を傾げている。


「初めてだわ、私の演奏を聞きたいなんて言った人間は」

「半分は人間ですね、もう半分は神です」

「なるほど納得した、数多の負の音に潰されないのは神の力か」

「恨まれて当然の事をしてきましたから」

「でも私が聴く限り少々的外れの音ね」

「わかるんですか?」

「ええ、貴方は妹さんを守っただけでしょ?」


 縁は言い当てられて驚いた顔をする。

 その顔は『何で知っているんだ?』と言わんばかりだ。。


「ごめんなさい、詮索してしまった」

「ああいえ……よくわかりましたね」

「音は本質を表す」

「つまり隠し事は出来ないと」

「いえ強い音だけよ、お母さんなら容易いかも」

「……最近は人を殺すのに疲れました」


 酷く疲れた様に言い放つ縁、スファーリアはそれに対しては特に顔色を変えなかった。


「どうして?」

「妹を守ってる時はよかったんですよ、向かってくる奴らを葬ればよかった」

「ふむ」

「妹絡みのいざこざは……世間的に終わったんですよ」


 本当は許せないだろうと感じるスファーリア。

 だが縁の声は、それから開放されたがっていた。

 許せないがもう対処するのが嫌だ、矛盾しているが彼はもう疲れたのだろう。


「簡単に説明してくれる? 何があったの?」

「……妹は不幸の神だというだけで、誹謗中傷に合いました」

「なるほど」

「それがドンドン大きくなっていって、戦争まで発展して、取り返しが付かない頃には……最初に騒いでいち奴らは居なくなってた」


 それを語る縁の声は『つらい過去』が有った声色をしていた。

 スファーリアは縁の声を聞いて全てを悟り、怒りをあらわにする。

 音を感じ取れるからこそ、縁の様々な『強い思い』を感じとったのだろう。


「絶滅しましょう」

「え?」


 スファーリア表情は無表情だった。

 しかしその声色は同情と言うより、自分が気に食わないから。

 絶滅という言葉の中に込められていそうだった。

 縁も様々な経験をしてきたからこそ、その言葉を感じて驚いた。

 彼女が本気で怒っている事に。


「真っ当な指摘ではないんでしょう? 下手に残すからまた沸く」

「ええ……でも俺も疲れたんです」

「あら」

「少し前に説教されましてね、色々と痛い所を突かれまして」


 少し照れくさそうに縁は笑い、言葉と表情からスファーリアも少しだけほほが緩む。


「そのお説教が効いたのね?」

「はい、妹の幸せは願ったけど……自分の幸せは考えた事無かったなと」

「なるほど、つまり貴方は変わりたいのね?」

「ええ、難しいでしょうけど」

「それじゃあ先ずは形から入りましょう」

「形から?」

「安易だけど白い服装にしてみたら?」

「白ですか」


 縁は自分の着ている黒いジャージを見た。

 自分が白色を着る、想像がつかないのか苦笑いをしている。

 そんな事は気にせずにスファーリアは言葉を続けた。


「汚れが目立つでしょ?」

「ああ、この血塗れは人の怨念みたいなものです、実際に血塗れではありません」

「……なるほど、なら私も貴方を信じてみようかしら」

「え?」

「私の音が好きと言ったお礼、負の音より正の音を大きくすればいい」

「確かに俺を信じてくれる人達が多ければ、元の身体になるかも」

「なら拝んでみよう」

「いや簡単に……ん?」


 唐突に拝み始めたスファーリアに、どう対応すれば困る縁。

 いやいやと右手を振った、その時視線に入ったのだ。


「お互いに便利ね? 恨みが身体に現れるなら、信頼も現れるのかしら?」


 そう、右手だけ汚れの無い手をしている。

 スファーリアの仮説が正しければ、縁を信頼している人達が居るという事だ。

 縁は慌てて右手のジャージをめくった。

 手首までだったが普通の手をしている。

 縁は信じられなさそうに、ジャージを元に戻した。


「何で右手だけ? 気付かなかった」

「貴方を大切にする音は強く多く聞こえる、信じてる人達は沢山居る、というか」


 スファーリアは縁の瞳をじっと見た。

 縁は見つめられて戸惑う、彼女の瞳に吸い込まれそうな輝を感じたからだ。

 ついつい縁は目を逸らしてしまった。


「お説教してくれる人が居るなら、貴方は大事にされてる」

「そ……そうですね、元から右手だけこうだったのか?」

「なら気付けてよかったじゃない」

「はい、おりがとうございます」


 縁は左手で大事そうに右手をおおい、それを見てスファーリアは笑うのだった。


「そういえば、名乗ってませんでしたね」

「私はスファーリア」

「俺は縁と言います」

「よろしく、縁君」


 スファーリアは右手を縁に差し出した。

 縁は戸惑う、自分に握手を求める人物が居なかったからだ。

 だが直に意を決して握手に応じる。


「はい、よろしくお願いいたします、スファーリアさん」


 縁はスファーリアと握手をした。

 この握手は2人の人生の分岐点になるだろう。

 この出会いが互いの始まりなのだ。


 握手を終えた2人、縁はウサミミカチューシャを付けて元の黒いジャージ姿に。

 2人はあまり会話も無く店に向かう、店内は相変わらず賑わっていた。

 縁達に気付いたドレミドが、凄く嬉しそうにニヤニヤとしている。

 ドレミドの実力ならば、2人に何が起きたかお見通しだろう。

 スファーリアが小走りでドレミド近寄っていく。


「あらあら、お帰りなさい~」

「お母さん、何か知ってるわね? 後で洗いざらい吐いてもらいます」

「知らないわよ~」


 ワザとらしく口笛を吹いているドレミド。

 縁はカウンター席の内側に戻ってくると、ルルに首根っこを軽く捕まれた。


「縁ちゃん、今日はもうあがっていいわよ」

「え?」


 ルルは縁の耳に口を少しだけ近づけて、こっそりと話し出した。


「スファーリアちゃんに一目惚れしたんでしょ? 今の内に交流しときなさい」

「何を言ってるんですか」

「あら、サキュバスなめんじゃないわよ?」

「いや、ルルさんはインキュ――いえ、何でもありません、そうします」


 一瞬マジな首絞めになったが、縁はルルに従う事にした。

 ドレミド達から少し離れた席。

 そこで少し緊張しながらも、楽しそうに会話をしている縁とスファーリアだった。

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