第八話 演目 不釣合いな夢
縁達は大きな街へとやって来た。
だが人の気配が無く、不自然に静まり返っていた。
「先客が居るようだ」
「この信仰心の力は絆だな」
「ふむ」
街に入ると中は死屍累々だった、老若男女問わず死んでいる。
しかし、よく見てみると身体透けているのだった。
「よくできた幻だ」
「縁、この間私が吹き飛ばした街は本物だったが、何故この街は幻なんだ?」
「ここに居る奴は、それが一番神にとって手駒にしやすかったんだろ、多分な」
「そうか」
幻の街を歩き、目立つ大きな城へと向かった。
謁見の間にボロボロな姿で疲れ切っているヤマト。
そして黒い和服に舞傘を持ち、黒いオーラを放っている絆が居た。
「この気配は……縁に結び、ごきげんよう、この者は何にようですか?」
「分身使って私達の生徒に大怪我させた」
「貴方は不釣合いが好きなのね?」
「くそ! 何なんだ! 何故俺がこんな目に!」
「先程から私は言ってましてよ? 不釣合いな行動をしたからだと」
絆は自棄になっているヤマトを鼻で笑う。
「縁、あれが『神』としての絆なのか?」
「ああ」
「この姿で自己紹介してませんでしたね?」
振り向いた絆の顔は黒い笑みに包まれていた。
風月はその笑みを見て、自然と身構えそうになる。
目の前に立っているのは絆だが、風月にも襲い掛からんとしている様にも見えた。
風月の動作を見て笑う絆だった。
「私は『不吉不釣合黒兎神絆』といいます」
「……名前の意味は?」
「不幸になる事を警告する不幸の神です」
「名前だけじゃ判断できないね」
「物事の上辺だけを見て判断すると、目の前の愚か者の様になってしまいますわ」
「ああ、改めて肝に銘じる」
「いい心掛けです、して……結びがこの者を殺しますか?」
「いや、神様の獲物を横取りは出来ないよ」
「では遠慮なく」
絆は楽しそうな笑顔でヤマトの方を見る。
もはやヤマトは、駄々をこねる事しかできないのかもしれない。
今の今まで、絆や縁達神の前でイキリ散らせたのは、神の本当の怖さを知らなかったからだ。
絶体絶命の時、今この瞬間でもヤマトは何処かで勝てると思っている。
何故ならば、人間ならば持っているモノを知らずに捨てて、自分をこの世界に連れて来た神に能力を貰ったから。
「くそ神が! サッサと殺しやがれ!」
「嫌です、何故敵の意見を聞かなければならないのですか?」
「ちっ!」
「罰を下す前に、隷属の神に連れてこられた貴方達が、どれだけ不釣合いか一応警告しておこうと」
「うるせ――」
「意見は聞かないと言いましたよ? 少し黙れ」
ヤマトは死んだかの様に虚空を見始める。
操り人形の糸が切れたように、神の傀儡になった男は動きを止めた。
「……そんなに不釣合いな夢に居たいなら、死ぬまで見なさい」
絆が指を鳴らすと、街全体がガラスを壊す様な音と共に、崩れ始めた!
幻は崩れ去り、荒野が広がっている。
一瞬だけその光景になると、あっという間に幻の街は元通りに。
再び指を鳴らすと、また荒野だけが広がる景色になった。
「やった! 忌まわしき神を殺したぞ! 褒めろ! 俺を称えろ!」
突如立ち上がり、歓喜の声を上げるヤマト。
目の前の絆は見えていない様だ。
「縁、結び、少しここから離れましょう? 楽しい夢を邪魔になりますし」
「ああ」
「だな」
「そうだろう! 俺を認めろ! アハハハハ!」
幸せそうに笑うヤマトの声、彼は死ぬまで夢幻を見る。
神の甘い誘惑に何の疑問も持たず、好き勝手をし。
神のいいように扱われた男の最後は、絆が用意した『不釣合いな夢』を見続ける。
「うーむ」
荒野を歩いていた風月はジッと絆を見ていた。
「どうしました? お姉様」
「あ、呼び方戻った」
「当たり前です、業務は終わりましてよ、それでどうしました?」
「ああいや、和服の絆ちゃんもいいと思って」
「私本来の姿ではありますが、私はこちらの方がいいですわ」
黒いウサミミカチューシャを頭に付けると、黒い光に包まれて何時ものゴスロリ姿へと変わった。
「してお姉様、私のご学友になる方達は大丈夫でして?」
「アフロ先生に見てもらってる、これから様子を見に行く」
「てか絆、なんでここに居たんだ?」
「ジャスティスジャッジメントに対して、大規模な作戦が予定されているそうですわ」
「ほう」
「その作戦前に、私達の神社をぶっ壊した不埒者を成敗しようかなと」
「ん? ジャスティスジャッジメント関係あるのか?」
「あら? お兄様に言ってなかったかしら、隷属の神はジャスティスジャッジメントが生み出した神です」
「聞いたような、聞いて無いような」
「ははーん」
風月がニヤリとしながら指パッチンをした。
「さっき言った作戦には多分非公式の物もある、って事は一緒に処理されるかもと」
「そうですわ、そろそろお別れして、花の学生生活を送りたいですから」
「目星は?」
「これから確認してまいります」
「んじゃ縁、私達は生徒達の様子を見に行こうか」
「ああ」
「では、失礼いたしますわ」
「またねー」
3人はその場から消えた。




