第八話 演目 無駄口
縁は倒れているヤマトの方を見た。
「風月、殺したんじゃないのか?」
「『普通に殺した』だけだ、どうせ生き返るのだろう?」
「なるほど、だから教材か」
「お前達の中でアイツを殺したい奴は居るか?」
「……風月先生、僕にやらせてください!」
「出来るか? 一本槍」
「今の僕では勝てません、そこで縁先生にお願いがあります」
「俺?」
「はい、僕に先生の加護を一瞬下さい!」
「理由を聞いていいかな?」
「風月先生に『力を持つ事の心構え』を教えてもらいました、それを相手から感じなかったからです」
「ほう」
「一本槍、一言で相手の心を動かせ? 戦闘中に長く喋るな」
「僕の大事な友達を傷つけた奴をぶっ殺したいんです」
一本槍は憎しみ溢れる顔で縁を見た。
縁は内心ビックリしていた、一本槍の口からぶっ殺したいと出たからだ。
その言葉から信念を感じた縁は、納得したように笑う。
「いいねその信念、俺より適任者に力を借りよう」
「適任者ですか?」
「加護にも相性があってね」
縁は何時も使っている長方形型の通信媒体を取り出した。
それを操作して耳に当てる。
「ああ、どっちゃん? 久しぶり、風呂上がり? すまんね急用さ、努力を小馬鹿にこいたような奴が現れてね、ああ、直にき――」
話している縁の後ろに突如魔法陣が現れる。
そこからTシャツとハーフパンツ、頭に努力と書かれたハチマキ。
燃えるような赤い髪に、美しい肉体美の女性だ。
「おい縁! 何処のどいつだ! 努力を小馬鹿にした野郎は!」
「速いなどっちゃん」
「んなこたぁいい!」
「そこの一本槍君に力を貸してやってはくれないか?」
「あぁ!?」
ブチギレながら縁の指さした一本槍を見る。
その迫力に一本槍は少し動じてしまう。
どっちゃんは肩を怒らせて近寄ってくる!
「……ん? お前さん……その歳でいい努力をしてるじゃねーか!」
一本槍をまじまじと見たどっちゃんは、ニコニコ笑顔になった。
「え、あ、ありがとうございます」
「ちょっと握手してくれ、状況を知りたい」
「は、はい」
どっちゃんと一本槍は握手をする。
「なるほど理解した、縁、つまりそこのぶっ倒れてる奴が努力を小馬鹿にした奴でいいか?」
「ああ、異世界転生者って奴だ、振る舞いは聞いたことがあるだろ?」
「神のいい傀儡にされてる哀れな奴か」
「そうだ」
「ふーむ、この青年も異世界から来たようだが大丈夫なのか?」
「話してみるといい」
「ううむ」
どっちゃんは乗り気ではない顔をしている。
「青年よ、俺は努力の神だ、どっちゃんと気軽に呼んでくれ、君の努力は素晴らしい、しかしだ、俺の力で君が慢心しないかが心配だ」
「その力とは?」
「『確定した未来の努力した姿』に一時的に変身って言った方がわかりやすいか」
「なるほど、確定しているという事は、僕がどんな事をしてもそれに行きつくと」
「ああ、理解がいいな」
「大丈夫です、僕には超えたい先生達が居ます、その未来の姿を知っても僕は努力を続けます!」
「根拠は?」
「先生達も努力をし続けていくからです! 立ち止まっていてはもっと差が開いてしまう!」
「若いってだけで力だな……いいぜ力を貸そう!」
「ありがとうございます!」
一本槍は綺麗なお辞儀をした。
「話がまとまった所で、奴はそろそろ生き返るぞ」
「すげーな風月、まさか時間調整したのか?」
「ああ」
風月の言った通り、倒れていたヤマトは立ち上がった。
「やりやがったなこん畜生! だがこの程度で俺を止め――」
恨みつらみを吐いているヤマトの目に縁が映った。
「やっと! やっと見つけたぞ! 俺をここまで堕とし入れた張本人!」
「一本槍、一撃で消せ、出来なければ私が横取りする」
「はい、風月先生、どっちゃん、お願いいたします」
「うむ」
どっちゃんが一本槍の肩に触れた。
眩い光に包まれいき、その光が大きくなり光は直に消えた。
一本槍は大人になっていた。
白い上下のジャージ、白い長いハチマキに指ぬきグローブ。
ジャージの背中の部分には、トライアングルとその中に風が吹いている草原を走る兎のマークが描かれている。
「これが……未来の僕!」
「ああん!? なんだ!?」
嬉しそうに自分の体を見る一本槍に、ヤマトが突っかかる。
「縁先生の前に僕が相手をしますよ」
「はっ! 笑わせるなよ? 神に力を借りようが俺にはき――」
悠長に語り出すヤマトに、一本槍はその隙を見逃さない。
「絶滅!」
一本槍は左足を高く上げ、それを下ろしし地面をえぐり音を出す。
「演奏!」
そして、右手で壁を裏拳で叩く様な動作をして音を出す。
「体術!」
その右手と左手を逆さまで合わせて音を出す!
「消滅!」
両手をヤマトに向けると凄まじい音が出る!
その音が消えると共に、ヤマトは消えていった。
「無意味な言葉は発しない方がいいですよ」
「一本槍君、ここに寝てくれ」
縁は白いシーツを指差した、手には黒い宝玉を持っている。
「わかりました」
「素直で助かるよ」
一本槍がそのシーツに横になると、元の姿に戻った。
縁は黒い宝玉を一本槍に握らせる。
「体への負荷が尋常ではないのでしょう?」
「ああ、身の丈に合わない力を使うには、何かしらの対価が要る」
「っても今回俺は、特に対価は要求しないがな? 身体的ダメージはあるが」
「すまんなどっちゃん」
「いやいいよ、いいもん見れたしな」
どっちゃんは満足そうな顔をしていると、一本槍が彼女を見る。
「縁先生、どっちゃんに神社は有るんですか?」
「ああ、俺達より立派なのが有るぞ?」
「それなら今度、何かお礼に奉納したいです」
「おいおい、いいんだぜ青年、お礼なんて」
「まあまあどっちゃん、貰える物は貰っておこうぜ、俺も何か持ってくよ」
「青年、名前は?」
「僕は一本槍陸奥といいます」
「よし覚えた、俺の名前は神社に来た時に教えよう、その時を楽しみにしてるぜ」
それだけ言うと、どっちゃんは魔法陣で帰っていった。
「縁、一本槍はどの位のダメージなんだ?」
「詳細はわからん、アフロ先生を呼ぼう」
縁は再び長方形の通信媒体を操作する。
「アフロ先生? ちと急用、生徒が神の力を使いまして、いや、対価はありません、見てもらえますか? お願いいたします、はい、待ってますね」
しばらく待っていると、ヘリコプターでアフロ先生と看護師数名が来た。
「縁、何があったんだ?」
「詳しくは生徒達から聞いてくれ、俺も風月もやる事があってさ」
「……わかった、ここは生徒達は病院で預かる、後で来い」
「行くか、風月」
「ああ」
縁と風月は突風を残してその場から居なくなった。