第2章「盗まれし真名」
「出口、何処?
あの看板と言い、ここはまだ夢の中…?」
そうに違い無いと思い込ませながら歩いていく中、最深部の近くにやっと辿り着く中、途切れ途切れだが聞き覚えのある男性の声が聞こえた。
「……い!……げ……るぞ!」
何やら声を張り上げながらこっちに来いと言うように手招きをしている。
何か、逃げろと言うようにも聞こえたのだが、一体…何が起きようとしているのだろうか…。
荒々しい聞いた事の無い鳴き声に地ならしが響くような足音と共に大量の鳥が逃げていくのを聞こえ、後ろを振り返る。
な、なんと言う事だ…。
大型の恐竜並みの大きな狼が此方に近づいてきていた。
毛は黒く目は真っ赤になり、爪や牙は鋭く尖っている。
そして、獣とは思えない威圧感を感じた。
獣はもはや、人間では無く餌として見ているようだ…。
「グルルルル…」
目の前で唸り声を上げると同時に恐怖で瞳孔が開く。
腰が抜けてしまい逃げ出す事も出来なくなる中、大型の狼が口をがぱりと口が裂ける程開ければ襲いかかる脅威に怖くなり声を上げる。
「ヒッ!い、嫌…ッ、し、死にたくない!!嫌、嫌あああああ!!!!」
叫ぶと同時に目を咄嗟に瞑ると不思議な力に包まれ、時が止まったように感じた。
痛みは無く、どうやら頭部等も繋がっているようだ…。
そおっと目を開けるとドーム型のバリアを張り無事あの狼から体を守っているようだ。
突進したり囓ろうとするも効かずびくともしなかった。
「助かった、の……?」
怪我も無く無事だと分かりホッと一息つくと後ろからあの何処かで聞いた事のある声が聞こえた。
「おい、何をしてる⁈
そいつはブラックウルフEX3…この世界の中で一番危険な奴だ
バスタコール3も出ている程だ。
一般市民じゃねえな、お前…何者だ?」
何者と言われても普通の社会人で就職活動をしている。
何処にでもいる一般女性なのだがと内心そう呟く。
だが、このドーム状を見て何も言えない。
普通ではない…。
「私も自分が一体何者なのか分からないの
此処は何処なの?貴方は一体誰…?」
首を横に振り驚愕な表情を浮かべたまま自分の手の平を見つめる。
何も出ていない…がしかし、このドーム状のバリアを見て何も言えなかった。
青年に自分の抱えていた気持ちをはなしてしまった。
聞き覚えのある青年でも、分からない。
「俺は、コタロウ…と言っておくか、真名は訳有って話せないんだ。
目的はとある旅人探し、此処はお前の夢の中でも無い。
此処は…『幻界』またの名を…嫌、言わないでおこう。
お前が何者か分からない?じゃあ何故此処に来た。
その格好じゃ眠ってたら此処に何故か来てしまった、と言う感じだな」
青年はまじまじと無防備な姿の女性を見つめた。
質問していた事を答えていくと同時に心を見透かすかのように質問した。
「私は…コバトと呼んでね
真名、でしたっけ…それを言ってしまってはいけないのでしょう?
私は眠って、それから私は…あれ、何をしてたんだろう?」
自分が何者なのかと心の中で問いかける。
社会人で有るのと家族構成等は分かる。
だが、真名はどうだ。
「私の本当の…名前」
言えるはずが、突然彼女からガラスが割れるような音が聞こえた。
胸元から白く小さな鳥が鳥かごの中へと閉じ込められた、様々な記憶と共に…。