生存?
別世界に紛れ込んだ2人が帰るため、生きるための話です
「「ねぇ…起きてる?」
………………………………
長い沈黙の後上体を起こし声を掛けて来た男を見る。
「……ああ、多分起きてる」
「それならさ、そこからどいてこっち来なよ。そんな所に居るともしかすると危ないよ」
周りを見渡すと横断歩道の真ん中で寝ていたようだ。静かで車一台通って無いがこれは確かに危ない。
立ち上がり道路を渡りきる。眠気を堪えながらどこか見覚えのある目の前の男に聞く。
「で、オレは何をしていたんだ?」
「知らないよ。こっちが聞きたいよ。寝てたのか意識を失ってたのかどっちなの?」
男はこちらの質問に呆れながら返す。仕方がないので別の質問を投げかける
「そもそもここはどこだ?」
「ボクも知らないよ。気がついたら君が倒れていたから起こしただけさ」
「気がついたら?」
「ボクも君みたいにそこら辺で倒れてたから」
男はなんてことの無いようにさらっと言うのだった。
「つまり…お前もここがどこでなぜ倒れてたか知らないと?」
「そうだよ。ついでに言うと君以外の生き物を見かけてないかな」
「……つまり良くある「閉じ込められた」って事か?」
「そうだろうね、目的も理由も犯人も分からず閉じ込められるって結構辛いね。地味に記憶が飛んでいるのも痛いよ。」
まったく辛そうに思えない笑い方をしながら男は語る。
「記憶が飛んでる?」
小さく呟き思考する。確かに…名前とかそういった記憶が飛んでいるようだった。
最後の記憶は…恋人と喧嘩別れして怒りながら家に帰っている途中だった。そして恋人の名前も顔も…それ以外の人も思い出せない。最後の記憶から判断するならここにつれて来られたのは帰宅途中に起きたことなのだろうか?そして予想以上に混乱が無かった。まるで記憶が無いのが当然だとでも言うように。
「別にこの2人で殺し合いをしろとかそういうわけじゃないしさ。人が少ないのは難点だけど…見た限りだと食料も豊富にあるし餓死の心配もないね」
からから笑いながら話続ける男から目線をずらし、空を見上げる。太陽は見えず、しかし雲ひとつ無く明るい晴天が広がっていた。知っている常識ではありえない光景だった。
「ここはどこなんだろーな…」
周りを見渡すとどこかの都市部にいるようだった。男の言うように動くモノが一切見当たらないかった。
ぐるぐる周りを見つつ体のこわばりを取っていく。ふと男を見るとこちらを見ていた。
「ん、なんだよ」
「いや、ここで1人になるって寂しいから君と一緒に居たいけど…そろそろ場所を移さないかい?」
「ここだとなにかあるのか?」
「うん、ボクは君より1日くらいかな?早くこっちに来たから知ってるけど。18時過ぎるとなにか出るんだよね」
「なにかってなんだよ」
「良く分からない生き物さ。少なくともボクの知らない生き物だよ」
手を前に垂らして…お化けの表現のつもりだろうか?
ただ、出会ってはいけない雰囲気を感じたので男の提案通りにその場を離れ、近くのホテルに避難した。
1階がロビーで売店エリアと客室エリア、あとはホテル側の設備エリアで構成されているようだ。
そもそも今は何時だろう…その辺の時計を覗き見る。どう見ても外は昼の明るさだが、既に18時になろうとしていた。中は薄暗いのでその明るさの差が妙な恐怖心を誘う
「……」
売店エリアにおいてあった安物の腕時計を身につける。無論お金は払わない。
いかにもな感じのするご当地キャラクターだろうか?良く分からないアニメ絵の腕時計だ。
他にも水筒とかナイフとかサバイバルで重要そうな物を貰っていく。
ただ、地図だけはどこを探しても無かった。そんな風に売店で持ち物を調達していると男が話しかけてきた。
「えっと…君は料理できるかな?ボクはできるわけじゃないから君も無理ならインスタントになるけど」
「ああ、出来るぞ…多分出来ると思う。そんな感じがする」
「それじゃぁ悪いけどボクの分も作ってくれないかな?手伝える事なら手伝うし」
「そもそも材料があるのか?」
「そこらへんは抜かりないよ。君が売店に夢中になっている間に厨房を確認してきたから」
男に先導され厨房に入る。玄関から離れた所にあったようだ。設備エリアと客室エリアの境にあった。
自分が男の分まで作る必要は無いが、今日はいろいろ合ったし、助けてもらったお礼も兼ねて作ることにしよう。厨房は巨大な冷蔵庫が1台と流し場とコンロが複数点在し、料理人用の机と椅子が数脚埃を被っているありきたりな厨房だった。冷蔵庫にはぎっしりと食材が詰まっていて、新鮮なようだった。
一応パッケージを探すが賞味期限表示はどこにも無い。匂いみ見た目も問題なさそうだしこのまま使うことにする。もし駄目でも焼けば大抵のモノはどうにかなるだろう。
特に考えずに目についた食材を集め、その材料で作れそうなモノを作っていく。
「随分手際がいいね…これならボクはいらないかな。部屋でも整えてておくよ。少し埃っぽいしね」
「オレは男相手に相部屋で眠る気は無いから部屋はきちんと2つ用意してくれよ」
「ははっ、こんな状況でも見ず知らずの男は警戒して当然さ。そこは安心して欲しいな。それと出来終わったら面倒かもしれないけど呼びに来てくれないかな?一応1階だけにいるからさ。
野菜を切りながら男と会話をする。次に顔を上げたときにはもう厨房にはいなかった。
「ふぅ…」
どうも見られるのは緊張するな、と思いつつ調理を続ける。
「あとはタイマーを掛けてと…焼き上がるまでに呼んでくるか」
2人分を作るのは材料的に多かったがどうもここに来る前に出来るようになっていたようだ。
ちょっと自己嫌悪しつつ男を呼びに行く。
「お~い、飯できるぞ~」
客室のほうに向かって呼びかける。しばらくすると部屋の1つの扉が開き男が出てきた。
「ああ、丁度良かった。こっちもそろそろ終わるところさ」
「飯はどこで食べるんだ?部屋に持っていこうか?」
「いや、厨房で食べよう。部屋で食べるなら何のために2部屋用意したのか分からないしさ」
言いながら男がこちらへ歩いてくる。
こちらは厨房に引っ込み机と椅子を引っ張りだして食べられる場所を用意する。
ジリジリジリジリ
タイマーが鳴り調理の完成を告げる。用意しておいた皿に盛ると机に並べていく。
「ああ、ありがとう」
「別にこれくらい気にすんなって、オレも助けて貰ったから簡単なお礼だよ」
「じゃぁお言葉に甘えて頂こうか」
「味はそこまで保障できるわけじゃねぇけどな」
2人で顔を見合せて声を出して笑う。そしてそのまま食べ始める。
「聞いておきたいけどお前も名前とか覚えてないのか?」
「そうだよ、そしてそれを聞くって事は君もかな?ちなみに聞かれる前に答えるとここに来る前に最後の記憶は彼女と喧嘩別れした帰りが最後だよ。そして彼女の名前、顔も思い出せない。彼女以外の人も勿論ね」
「へぇ…そこもオレと同じなんだな。って事は無作為に選ばれたわけじゃないって事か」
「君もそうならそういう事だろうね。問題はなぜどうやって集められたのか。帰るためにはどうすればいいのか。かな?」
「だろうな、ノーヒントは厳しすぎる。明日はこの辺を見て回るか」
「ああ、ボクは1日早くここに来たけど、今日発見できた異状は君さ」
「ケッ、そりゃ悪かったなと、明日もここを拠点にする。でいいのか?」
「まぁそれでいいだろうね。でここらを探し終わったら場所をかえる感じで」
そこで話はおしまいだった。あとはひたすら食べた。
食べ終わってから男の用意したという部屋に入った。他の部屋とは違い窓から外の景色が見えない位置のようだ。売店で調達していた荷物をベッドに放るとお風呂に入る用意をする。
地べたで寝ていたから少し汚れているようだ。明日は換えの服も手に入れておかなければ。
湯船につかりシャワーを浴びて服を着ていると部屋のチャイムが鳴った。
《もしもし、今大丈夫かな?ちょっと伝え忘れてた事があるんだけど》
タオルを髪に巻いてからドアを開ける。
「んだよ…今風呂入ってたんだが」
「って事は出たんだよね?なら良いじゃないか」
「よくねぇよ…見ての通りオレは髪が長いからよ水気を取るのに時間が掛かるんだわ」
男も一風呂浴びてきたのか肌が少し上気して髪が湿気っていた。だがこちらとは条件が違うので出直すように告げようと息を吸い、
「18時以降に出る良く分からないモノを見て貰おうと思ったんだけど。今なら上の階で安全に確認できるしさ」
「先にそれを言え。なんだよ、良く分からないモノって」
綺麗に手のひらを返してよく分からないモノを見に行く。部屋の窓から外が見れないように配慮されているのが信憑性を増し、好奇心を刺激したのだ。
「ごめん、ごめん。百聞は一見に若かずって言うでしょ?言い忘れてたの思い出したし早めに見て貰おうと思って」
言い訳を続ける男を置き去りに階段を使って上の階に行く。
男が言うように良く分からないモノなら安全面を考えて上の階から見よう。
あとはまだ腹を出したくないのでダイエット代わりに歩いた。
5階まで移動すれば大丈夫だろう。地上を見下ろせる場所を探す。
直ぐに男が追いつき階段付近の部屋のドアを開ける。少し明るさに目が眩みながらも、
中に入り込み窓に近づき、下を…見て……
そして悲鳴を上げた。醜く高く盛大に。確かにあれは良く分からないモノだ。
良く分からないモノとしかいえない姿形だった。そしてあんなモノの前に姿を晒せば一瞬の内に食べられてしまうだろうと簡単に予測できた。そういう良く分からないモノが見える範囲に数十は居て、あっちの道路からこっちの道路へ来たり、逆にこっちの道路からあっちの道路へ移動していた。
まるで、そう。元居た世界の人間達の動きのように動いて、同じ程度の数が居た。
ともすればオレ達の姿こそがおかしいと主張しているかのように。
そしてオレは逃げ出した。ひたすら上へ上へと登る。下に居たら駄目だ。
奴らが入って来たら…駄目だ。ただ無心に走り続ける。
「はぁ…はぁ…」
息が切れるまで走り続けた。今何階に居るのか分からないまま力尽きて止まる。
荒れた息を整えながら壁に背中を預ける。少し頭を冷やそう…
暫くボーっとした後、恐怖心を殺し階段を降りて行く。
とても怖いが…建物に入っている良く分からないモノはいなかったからだ。
それはつまり建物の中なら安全だと言えるのではないだろうか?
恐る恐る降りて行き、無事5階まで戻って来れた。
男は既におらず、ただエレベーターを使って最上階まで行きそこから順に探してくる。とだけ書き置きが有った。戻るまで待つつもりで、もう一度窓から下を覗く。
……確かにあれらは地上だけに居た。どこの建物の中にも侵入しようとはしない。
では…一体昼の間はどこに居たのだろうか?男に後で聞いてみよう。
「それはボクも知らないんだ。昨日ここに来たばかりだしね。ただ6時になると急に居なくなって18時になるとどこからか出て来るんだ」
帰って来た男に迷惑を掛けた事を謝罪しつつ一階に降りながら聞いてみたが、男も良く分かって居ないようだった。ただ…行動時間が絞れたのは重要だろう。車でもあれば別だが無いなら歩いて18時までにここへ帰って来なくては行けないからだ。
1階に付くと明日4時起きの約束をして部屋に戻る。まだ時刻は20時前だが…こんな場所ではする事も無い。そのまま大人しく寝てしまおう。ベッドに倒れ込み壁一枚向こう側から聞こえるなにかの物音に怯え失神するかの様に眠りに落ちた。
朝、久し振りに夢を見ないで眠っていた。売店で手に入れた時計に起こされて、早朝から動き出す。
まずは簡単な食事をとり、外の良く分からないモノが居なくなるまで待つ。
少しずつ姿が減っていき6時丁度には完全に姿が消えていた。
様子を見ながら外へ出ていき完全に見えなくなったと確信出来たあと探索を始める。昨日売店で得た持ち物も水筒など必須な物だけを持って行く。
探索ではまずは重要な物資から探した。主に着替えの服など売店で手に入らない物を集める。
カバンも用意してホテルから持って来た水筒なども収納し動きやすくする。
そのあとは車やバイクなど移動用の物と地図やコンパスなどの情報が得られる物となにかこの世界のヒントになる物を探した。
オレがここに来ておそらく1週間が経った。これまでの成果は電気自動車なら動かせる事、地図やコンパスなどで場所を調べる事は出来ないと言う事。
シャンプーやリンスなど日々の生活を満たす物は少ないということ。
これは男と重要かそうでないかで揉めた。
最終的にオレの髪の長さと手入れの難しさを主張することで押し切った。
良く分からないモノは6時~18時に居て、その前の時間から少しずつ姿を現しその時間をめどに完全に消えるか、街に溢れるかである。そして、方角は分からないが一定の場所から出入りしている事。ホテルも3度ほど移動し、良く分からないモノがどこから出て来ているのかを調べる事を優先している。そして1週間目の今日、ようやく新しい手掛かりが一つ手に入った。
良く分からないモノが出入りしていると思われる巨大な穴とそこに掛けられた看板である。
この穴を抜ければ元の世界
たった一文のその言葉がオレ達の救いに見えた。問題は穴の奥に、こちらからぎりぎり見える範囲に良く分からないモノが居る。ということだった。
一瞬で望みが絶たれたかのように感じたが、結局のところ良く分からないモノが人を襲うかどうか分からない点(ただの希望的観測で実際は間違いなく襲うだろう)と、18時以降にあの穴から出るなら、オレ達が出入りするチャンスはあるだろう。ということで近くのホテルに潜伏することにした。
いつもと同じように住めるように簡単な整備を終えると、18時に上の階から観測をする。観測用の双眼鏡はお値段1万跳んで云々というとても高価な物だ。男は拾ったと言うが、どう見てもその辺のお店の物である。別に文句は言わないが。
「ようやく、ここまで来れたんだからさ…2人揃って脱出出来れば良いよね」
「こういう終わりが近い状態でそれを言われると…フラグに聞こえるからやめてくれ」
「はは、そう?それならごめんよ」
男の不吉な言葉を掻き消すように言い切り安心感を得る。……言いようの無い不安を抱えながら観測を続ける。
18時丁度、穴から良く分からないモノが湧き出して来る。ワサワサといくらでも湧き出ているように思えるが…果たしてオレ達はあそこを通れるのか?
「向かいのホテルを見て!人影が!」
「え?」
男に言われ穴から視線をずらし向かいのホテルに注目する。
男が片手で女性の首を絞めつつ、ホテルから出て来ていた。
「ッ!!!」
男のやろうとしている事に検討が付き息を飲む。自分達以外の生存者が居た事にも驚くが、それは凡そ予想出来ていた事だ。
大して向かいのホテルから出てきた男の動きは…想像出来ても実行しようとは思えなかった。
そして…予想通りに、男は女を道に投げ捨て…良く分からないモノ達が一斉に動きを止め、穴からも一度に大量に湧き出て女に襲い掛かる。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
女の叫び声が聞こえる。生きたまま…食べられていた。そして男はその間に走り出し、穴の中へと身を躍らせた。
今見た映像に恐怖が隠せない。なるほど、確かに片方を犠牲にすれば確実に出られる。
しかし同時に、片方を犠牲にしないと絶対に出られない。昨日までは頼りになる男が急に恐ろしく感じた。いつ裏切るのか、それおも裏切らないで居てくれるのか…
まるで予想が付かない。それは男も同じようだった。互いに顔を見合わせると無言のまま別れ、自分の部屋に入った。
後ろ手で鍵を掛ける。さらに置いて合った観葉植物を入り口に置く。無理やり鍵を抉じ開けられても部屋に侵入できないようにする。そして、万が一進入されても大きな音が出るのでその間に身構える事は出来るだろう。それでも怖いので今日はバスの中で眠った。ベッドには自分の持ち物を人型になるように設置して布団を掛ける。
また大体1週間が過ぎた。男とはもう顔も合わせてはいない。食事は別々に取る。調理してやっても毒が入っているのかと疑われたのだろうか、一口も手をつけられていなかった。日々の探索もしていない。ここがゴールであり目的だったからだ。決して2人で帰る事は出来ないが…あれ以降も同じようにして穴に入っていく人を見かけた。どこも男女の組み合わせで、大抵は男が女を犠牲にしていた。1組だけ女が男の死体を投げて穴を潜っていたが…。
…また朝が来た。明るい夜は去り、良く分からないモノも居なくなる。ここ数日は怯えて部屋に篭ったままだった。
食事も用意はせずインスタントを持ち込むことで済ませた。自慢だった長髪もぼさぼさになっている。ストレスが溜まってきていた。
「たまには外へ出てみるか…」
ふとそんな事を思い部屋のドアを開ける。
そして、男と遭遇した。男は手に、包丁と布を持ち…こちらをじっと見つめていた。
「」
そして、無言のまま襲い掛かって…来て意識が消えた。
「ああ、起きた?」
次に目を覚ますと男に抱きかかえられていた。
「は、離せてめぇ!」
腕時計は18時を指している。この状況でされる事なんて…たった一つだけだろう。
「ボクはさ…考えたんだよ。どうすれば2人とも生き残れるか。そもそもなぜ2人組みなのか、どうしてここに来たのか、選ばれたのか」
男はぶつぶつと独り言を続ける。
「組み合わせは絶対に男女、互いに消えた記憶、見覚えが合って無い相方、脱出方法、他の人たちから聞くことは出来なかったが何人かの手記は見つけられた。そこから確信は得られた」
「な、なんの話をしてるんだよ…良いから離せ!オレは死にたくないんだ!」
「だから、先に謝るよ。ごめんね。それと…
さようなら」
そして男は手に持った包丁を振りかざし、自分の腹を刺した。
「えっ?…なにをしてるんだよ」
「良いから行きなよ、ここは君が居るのに相応しくない世界だ、君は君らしく…ボクはボクが好きだった君の為にここで死のう」
男はオレを抱えて走り出す。穴から湧き出る良く分からないモノ達。そしてオレは…私は穴に投げ込まれる。その時初めて気が付いた。恋人と男の顔が同じだと言う事に。
「ははははははは!!」
男は、私の恋人は…笑いながら食われていく。私はそれを止める事は出来ない。ただ音を聞くだけ。自分が好きだった男の声を、自分を好きだと言った恋人の声を。
まもなく世界は暗転し、私の意識も再び飛んで、元の世界へと帰る。帰ってしまった。
既に好きな人の居ない世界へと…
目を覚ますとそこは病院だった。3日間程度意識不明だったらしい。
彼と私は同じトラックに跳ね飛ばされ、そして生存は絶望だと思われていた中、私だけが奇跡的な生存をしたのだと医者は言う。
好きな恋人を犠牲に生き残った私は、それでも生きなくてはならない。でなければ恋人の死を無駄にしてしまうからだ。でも…本当に私が生きる事は正しいのだろうか?そもそもなぜ私だけなのだろうか?
私だけが生き残るのは不合理では無いだろうか?
彼に会うための手段とはなんなんだろうか…、彼には伝えたい言葉が山ほどあるのだ。
もう一度彼に会うためには…いったいどうすれば良いんだろう?それとも生き残ったからには生きる努力をしなくてはいけないのだろうか?彼が居ないこの世界で生きる努力?そんな価値が世界にあるのだろうか?
そんな事を高い病院の屋上から下を見ながら考える。
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