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お客様サービス課(新サービス開始のお知らせ)

 出勤して、上着を椅子に掛ける。今日も一日の業務が始まる。

 缶コーヒーのプルタブを引きながらディスプレイに浮かび上がる文字を読み取る。

 並ぶ文字は要望という名の苦情ばかり。


 お客様サービス課。


 すったもんだの末、最近できたばかりの部署。サービス課という名前が付いてはいるが、ていのいい苦情処理である。

 エリートコースから外れた俺は、たった三人しかいないこの課に配置された。

 部屋は地下に作られた薄暗い資料室を間借りしたもの。空調の音だけがけたましく響く。

 課長席は空席。いつも出勤は昼前。競馬新聞やらでちらかった机の上には、美少女フィギュアが並んでいる。

 唯一の部下は最近出勤していない。なんでも、宝くじに当たったとかで、海外旅行に出ている。


 ため息をつきながら、ディスプレイをスクロールする。

 寄せられる苦情には様々なものがある。

 自分勝手なもの。誰かの嫌がらせのため。興味本意。その中から、業務に参考になりそうなものだけを拾い上げて報告する。


『工事の納期が遅れるので晴れてください』


 却下。もともと予報は伝えている。


『体調を崩したので試合に出れません。雨にして下さい』


 却下。しっかり体調管理してください。


『明日初デートなの。だから晴れてください』


 却下。むしろ、相合い傘でもしてろ。

 ディスプレイから目を離し、空調パイプが這う天井を見上げる。

 雨が降って喜ぶ奴もいれば、晴れを願う奴もいる。もともと農業政策として立ち上げたはずのこのシステム。年間の気候運行はほぼ決められている。

 今まで上に報告した苦情は、皆無。いったいこの部署に意味があるのだろうか。

 ディスプレイが新規着信のアラームを鳴らした。

 缶コーヒーを一口飲んでディスプレイをタップする。


『梅雨を復活させて下さい』


 却下。誰が好き好んで雨ばっかりの日を望むのだろうか。


『傘を忘れたので』


 文面を最後まで読むこともなく却下。


 …… しかし、さっきの梅雨を導入してくれって苦情、やたらと着信する。

 スクロールして、苦情の発信情報を確認する。

 大概の苦情は匿名で端末情報だけが表示されるが、この苦情は個人情報が入力されていた。


『発信者 てるてる坊主』


     *



 空間気象管理局。

 コロニー内の気象全般を管理し、農作物の生産を調整する政府内政省管轄の部局。コロニー内の気象を完全にコントロールし、擬似気象管理システムにより様々な気象状況を作り出す事ができる。


*新サービス開始の案内*


 あなたの為だけに天候を変えるサービスを始めました。明日は晴れてほしい。雨がふってほしい。その願いにお応えします。

 申請は気象管理局専用端末『お天気坊主』からどうぞ。


 

※ただし、運行システムの都合上、意に添えない場合をご了承下さい。



 ―― おしまい ――



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