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晦冥の街~under ground~  作者: ルリト


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「もうすぐ来るぞ」


呟くように発せられた神の言葉に、宗司と直哉の顔が怪訝そうなものになった。


「来るって誰がですか?」


きょとんと眼を瞬かせて聞いたのは直哉。


その瞬間、


それまでは存在していなかった、馴染みの少ない4人分の濃密な気配が公園内に溢れかえった。


「…あ~、まぁ当たり前っちゃあ当たり前だよな~…」


気配から察したのか笑い混じりに言った宗司だが、のん気な声の割に瞳には物騒な笑みが広がっている。


そして、那智達から見て一番離れた後方に位置していたVercheメンバーが、鈍い打撃音と共に何人か地に伏した。


まるでモーゼの十戒の如くVercheメンバーが左右に広がり、真ん中を悠々とした足取りで進み姿を現したのは…。


「…蓮…」


京平が唸るような声と共にその名を呼んだ。


蓮、羽純、孝正、千影。


Moonlessの幹部達だ。


Verche残党が周囲にいるにも関わらず、Blue RoseとMoonless双方の幹部の意識はもう既にお互いにしか向けられていない。


数メートル離れた場所で立ち止まったMoonless幹部達。


公園内の状況をざっと見てとった蓮は一言、


「残りの奴らの始末は、こちらで受け持つ」


そう言った。


途端に、蓮以外の3人が一斉に動き出し、まだ己の足で立つ事が出来るVercheメンバーの残党を潰しにかかる。


ある程度は宗司達で叩きつぶし、尚且つトップ二人も潰れている事もあってか、全てが片付くまでそう時間は要さなかった。


「やだわ…、簡単過ぎてアドレナリンも出ないじゃない」


「出ないんじゃなくて、過去に出過ぎてもう無いんだろ?」


「あら、孝正坊ちゃまは随分と可愛い事を言うのね」


「坊ちゃまって言うな!!」


全体の4分の1程しか残っていなかったあげく、幹部クラスではない一般メンバー。羽純が物足りなく感じるのは仕方のない事だろう。


…それにしても気の抜けるやり取りだな。誰かさん達にそっくりだ。


羽純と孝正のやりとりを見た那智は、次に自然と宗司と直哉に目を向けてしまった。


那智の視線の意味に気が付いた宗司は、物凄く嫌そうに眉を顰めている。


「今回の軍配は、神、お前の方だ」


「………」


情報取得に遅れた為、Vercheの意図を読み取るのに時間がかかり、結局ここに来るのが遅れてしまった事を蓮は言っているのだろう。


実際、来てみればトップを含めてあらかたのVercheメンバーが倒れている。


完全に先の一手を取られたとして、Moonlessに出来たのは最後の残党始末だけ。


いくらBlue Roseが敵方だとしても、これでは譲るしかない。


そんな蓮に対し、神は無言で目を伏せただけだった。


わかりづらいが、これも神なりの了承の仕方だ。


「おい、羽純。お前んとこの下の奴ら、あっちの木陰に放置されてるぜ」


「あら宗司君。お節介ありがと」


「どういたしましてお姉様」


にこやかに微笑みあう二人を見て、直哉が顔を引き攣らせている。


そして、軍配がBlue Roseにあると宣言されたからには、Vercheの処分は全てBlue Rose側が決めてもいいという事。


神と那智の視線が合う。無言のやりとりのあと、那智が顎を引くだけの頷きを見せた。


「まずは、全Vercheメンバーを数人の塊にわけてロープで縛り、各繁華街の歩道に放り投げておいてください。これはBlue RoseとMoonlessメンバー全員の作業です。そして中埜と臣原だけは、宗賀の事務所ビル前に」


雲の合間から零れ落ちる月明かりが差し込む公園内に、那智の朗々たる声が響き渡る。


「アンダーWEB(造語※アングラ界専用の情報ネットワーク)に全ての情報を公開し、これから先、Vercheメンバーがどのアングラ界にも住みつけないようにします。そして、これをもって完全なる絶縁状とします」


その言葉に全員異論はなく、それぞれから肯定の意が返される。


「それじゃあ、ちゃっちゃと作業に入りましょうかねぇ」


宗司の一言で、全員が動き出した。


隅の方に寄せられていたBlue RoseとMoonlessそれぞれの一般メンバー達も、ほとんどが意識を取り戻し、動ける者は全員ロープを片手にVercheメンバーを縛りあげ始める。


さっきの仕返しもあるのか、作業途中で蹴りを入れたりしているのは仕方のない事。


それでも、全員ではないとはいえ二大派閥メンバーが集結している大所帯。


作業は着々と進み、ものの十数分でVercheメンバーは全て縛りあげられた。


「羽純さーん。これって道に放り出せばいいんでしょ?」


「そうよ~。なんだったらゴミを運ぶ用の荷台に乗せて行っても構わないわよ~」


「直哉さん!こいつら地面を引きずりながら運んでもいいっすか?」


「…ちょっとそれはスプラッタになるから、やめた方がいいかな。アハハ」


そこかしこから、最後の片付けに張り切っているメンバーの声が飛び交う。


そんな中、神と那智、そして蓮の3人は、他の者達とは少し離れた場所で、同じくロープで縛られた中埜と臣原の前に立っていた。


ちなみに京平は、神と那智の背後にまるで騎士の如く控えている。


蓮は先程も言った通り、自分からは口を出すつもりはないらしく、不気味な程に大人しく状況を見守っているだけ。


まぁ…その方がこちらもやりやすいが…。


そんな蓮をチラリと見た那智だったが、次の瞬間、すぐさま視線を足元へ向ける事となった。


「…ククククッ…、俺達を追い出せたからってイイ気になってんなよ」


突如として笑い始めた臣原。


京平がジリッと動きを見せたが、神が視線だけでそれを留まらせる。


動こうとした京平に気付いて一瞬だけビクリと体を揺らした中埜も、とりあえず引き下がった様子を見て強気を取り戻したらしく、鼻先で笑いだした。


「どうせお前らもすぐに潰される。それどころか、この街から派閥なんてモンは全部消え失せんだよっ」


悔しさからか、唾棄するように言葉を放つ。


“派閥が全部消え失せる”


それが単なる絵空事ではないとわかっている者は、果たして何人いるのだろうか。


「…組の介入、か…」


それまで黙っていた蓮が、低く呟いた。


組同士の戦国地となる事を避け、そして海外マフィアからの侵入をも難航とさせる為に作られた、未成年による“派閥”の存在。


それが今や、協定を破って利権を手に入れようと目論みだした一部の組の思惑によって、安定が綻びだした。


もはや、組同士で交わされた“高楼街不可侵協定”を信じる事はできない。


彼らの都合の良いように存在を認められた派閥だが、今や当初の存在意義を大きく凌駕し、「裏高楼街を仕切っているのは間違いなく派閥だ」とアングラ界の住人達が口を揃えて言う程となっていた。


自信と自負もあれば、それに見合うだけの力と統率力もある。


“高楼街に手を出そうとする者は、派閥の制裁を受けるべし”


その言葉がまかり通るようになった今、


『Vercheは氷山の一角に過ぎない。本体は水面下に潜っている』


それを理解した神・那智・蓮の3人は、一度だけ視線を交わし合い、(外部からの介入を絶対に阻止する)と、その意をそれぞれの胸の内に刻み込んだ。








「これでやっと片付いたな。今日はよく眠れるぜ!」


「何言ってんのよ孝正。アンタによく眠れなかった日なんてあるの?」


「んだとっ!羽純!いつも一言余計なんだよ!」


全てのVercheメンバーを所定の位置に放り出した後、Blue Rose幹部とMoonless幹部だけとなった北区の公園内に、孝正と羽純の会話が響き渡った。


そして、まだ続くかと思われたやりとりを止めたのはこの一言。


「…っていうかさ、もうゆっくり寝てる時間なんて無いんじゃねぇの?」


宗司の言葉によって、現在の時刻が朝4時という事を確認した孝正は項垂れ、羽純は容赦なく笑いだす。


ようやく訪れた静かな朝。


この静けさがいつまで保つのかはわからないが、それでも久し振りに穏やかな朝日を迎えられそうだと思った幹部達は、さすがにホッと肩の力を抜いた。


孝正の背後にいる千影は、ここに来た当初から一言も発さずに、相変わらず何を考えているかわからない無表情で噴水を眺め、そんな千影が面白いのか、羽純は横から髪を摘まんでチョイチョイ引っ張っている。


京平は無言で那智の後ろに立っているし、宗司と直哉は欠伸を繰り返す。


敵同士のトップが集まっているというのに、穏やかな空気でいられることが不思議だ。


もしここに和真がいたら、この穏やかさが怖いと言って、恐怖に顔を引き攣らせていたかもしれない。


想像して思わずフッと笑いを零した那智。


そろそろ引き上げようか。


そんな気配が辺りに広がり、まず最初に孝正と羽純、そして宗司と直哉が、それぞれ公園の西口と東口に向かって歩き出す。


千影も孝正達の後を追って歩き出そうとした時、それを引きとめるように蓮の硬質な声が響いた。


「おい、そいつを連れて行け」


蓮の視線は那智へと向けられているにも関わらず、千影の足がピタリと止まる。


「さすがにもう目障りだ。これ以上こちらの情報をやるつもりはない」


いつから…とまでは聞かなかったが、紛れ込ませていた存在がバレた時点で那智の負けだ。


おまけに、このタイミングで言ったという事は、誰が内偵なのかもわかっていたのだろう。


参ったな、と溜息を吐いた那智は、蓮の向こう側にいる千影に小さく頷いた。


それと同時に踵を返し、蓮の横をすり抜けて那智の元へ歩み寄る千影。


神は何の反応も示さなかったが、その場にいた京平は目を見張って千影の事を凝視している。


「あまり小賢しい真似をするな。癇に障る」


「それはスミマセンでした。安心して下さい、一度見破られた事をまたしようとは思いませんから」


ワザとらしく微笑みかける那智を見た蓮は、不機嫌さを裏付ける眼差しの鋭さを残したまま、今度こそ公園の出口に向かって歩き出した。


「お疲れ様だったね、千影」


「まさかバレているとは思わず、申し訳ありませんでした」


蓮が去った後、千影は中学生らしからぬ落ち着いた態度で那智に頭を下げた。


声が沈んでいる事から、いたく反省しているという事が伝わってくる。


「いや、幹部にまで上りつめてよくやってくれたよ、ありがとう。…とにかく話は今度。今日はゆっくり休もう」


那智の労わりの言葉に無言で頷いた千影は、歩き出した神と京平の後を追うように、那智と並んで公園を後にした。









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