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プロキシ  作者: ネコノ
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1-2 「記憶喪失」



 ここはプロキシ御用達の喫茶店。マスター自体がプロキシのエージェント。そして、この店は警備網が張り巡らされ、重要な話をする際に重宝とする場所。


「――で、ただ顔見せに来たわけじゃないんだろ? わざわざ俺の家からアリスを連れてきて……。つーか、俺んちの警備システムはそんなにヤワじゃないはずだが……」


「ええ、あなたの家のシステムを全部突破するのは骨が折れたわ。個人の家にしてはなかなかいいじゃない」


「そう言いながらもあっさりと突破するあたりは、さすがはL10ってところか」


「ふふ、A級プロキシの神童と呼ばれる人に言われるのは光栄ね」


 プロキシには階級があり、S~F級に大きく分かれる。ミッションの功績などで階級があがる。そして、このランクが上がれば法律上いくつか免除されるものが存在する。例えば、日本では重火器は所持禁止だが、C級以上は重火器の所持を認められている。(もちろん管理体制を強いられるが)


 そして、現在A級と呼ばれるのは日本にわずか3人。


「それも、わずか16歳にしてA級。『神速のサムライ』の異名を持つ男にね」


「しんそくのさむらい? たけるってサムライなの?」


「勝手に奴らがつけた名前だ。あまり興味がない。それより用件があるんだろ?」

 ミリアはコーヒーを一杯飲む。


「これはうちの部隊が通信を傍受した情報だけど、『ジ・ハード』が奪われた何かを奪還するために血眼になって探しているらしいわ。それは――」


「アリスってことか?」

「えぇ、恐らくね」

「それでお前の上は何か言ってたか?」

「それがね。問題ない。撤退しろ だそうよ。」


「興味なし――か」


 NSPの後ろ盾はない。国家クラスの組織に保護してもらうには狙われていると言う確証も必要だ。警察は危険。となれば俺が守るしかないか。


 アリスを眺めると、無邪気にサンドイッチを頬張る姿が映る。


「まぁ、乗りかかった船だ。なんとかするさ」

「そう。何も力になれなくてごめんなさい」

「いや、お前にもお前の事情があるだろ? 別に気にしてないさ」

 国家クラスの組織だと思うように動けないのは仕方ない。


「あ、それとその子の家族について調べてみたわ」

「それでどうだった?」


「それが――わからなかった。NSPのデータベースを調べてみたけど、どこにも情報がなかったわ」

「そうか」


 いよいよをもってまずい流れになってきたな。『ジ・ハード』にNSPすら調べることのできなかった少女。嫌な予感がするな……


「まぁ、何か分かったらまた連絡するわ。こっちもできる限りサポートするつもり」

「あぁ、頼む」

 そう言って、ミリアは喫茶店を後にする。


 彼女の言っていることが本当なら恐ろしくやっかいなことになる……


「ねぇ、たける~」

 アリスの声で我に返り目を向けた。

「怖い顔してた……、だいじょうぶ?」

 心配そうにアリスは覗き込む。

「大丈夫だ。心配するな」

 アリスを不安がらせていたらだめだな。彼女の頭を優しく撫でた。

(アリスは俺のような目に合わせるわけにはいかない……)

 この子は絶対に守ろう。そう心に誓った。



           ◇



 喫茶店に入る数分前。ここは喫茶店より数十メートル離れたビルの一角。そこに見える数人の男。男は双眼鏡で何かを覗き込む。


「見つけました。ターゲットです」


 一人の男が電話で会話をする。

「はい、ターゲットにはプロキシらしき男がついていますが……」


 数分会話をして男は携帯を閉じた。そして、他の男達に支持を出す。


「命令が出た。ターゲットを捕獲せよ。連れの男は殺してもかまわん。必要なら人員の大量導入。兵器による鎮圧も厭わないそうだ。やれ――」


「「「はっ――!!」」」


 そして、男達はその場を後にした。


「プロキシ『神速のサムライ』か…… 楽しみな相手だ。くくくっ」




           ◇



 喫茶店からの帰路。アリスの手を引いて帰っていた。その時、背後の気配に気づいた。数人の男がこっちに視線を向けている。そして、その距離は一定。明らかに追ってきている。これは奴らか?


 しかし、ここは市街地。ここでやり合うわけにはいかなかった。ならば、悟られないように自然に歩き、人気のない公園へ――


 そして、街の中心部から少し外れた公園へ辿り着いた。日も暮れ始め、人気はすでに無くなっていた。後ろの気配――やはりつけられているな……


 そして、殺気――!?


 殺気を感じ取った瞬間、一発の銃声が鳴り響く。とっさに体の軸をずらした。そのおかげで弾丸は髪を微かにかすめる程度で済んだ。


「たける?」

 何が起こったか分からず心配そうに見つめるアリス。彼女ににっこりと微笑みかけ


「大丈夫だ」


 彼女の頭を優しく撫でた。さてと――


「出てこいよ。バレバレだぜ?」


 草むらが動き、3人の男が現れた。全身黒スーツにサングラス。あからさまに犯罪組織という格好だった。手には当然だが、拳銃が持たれている。


「お前らジ・ハードか?」


 しかし、男達は問いに答えることなく


「その少女を渡せ」

「嫌と言ったら?」

「お前を殺すだけだ」


「嘘だな。それならいきなり俺を狙う必要なんかない。つまり、俺の生死なんてどうでもいいんだろ? 証拠を残す意味もないしな」


「………………」


 男達は黙っていた。


「図星か?」

 そして、3人の銃口がこっちへと向き。


「大人しく渡せば、苦しまずに殺してやろう」

 アリスは後ろに回り、裾をぎゅっと掴み、不安そうな顔で覗き込み。


「たける……」

 この子を守るって決めたからな……


「安心しろ。お前は俺が守ってやる」


「殺せ」


 3人は銃の引き金を引き、ほぼ同時に近い発砲音が鳴った。しかし、それは命中することなかった。素早く体をかがめそれを避けていた。


「なっ――外れただと!?」


「お前らの殺気が射線になって見えるからバレバレなんだよ!!」

 そのまま男達に足払い――

 バランスが崩れたところに蹴りを浴びせる。


「なめやがって!!」


 銃口を向けるが――

 銃を右手で弾き、腕に蹴りを加え、銃を男の手から弾いた。


「近接においては銃のリーチは無意味だ。覚えておきな」

 みぞおちに蹴りを炸裂させ相手を気絶させた。あとは一人か。


 ――――!?


 とっさに殺気を感じ、大きく下がった。何かが空をきったのがはっきりとわかった。

 剣? いや刀か?


 もう一人の男は手には何も持っていない。しかし、手の握りかた。そこには何かがあるのは明白。

 そして、男は一歩踏み込む――


 握る手を読みかろうじてその何かから避ける。そして、胸から銃を抜き取り構えた。


「面白い武器だな。ステルス機能付きの刀ってところか」

 男は答えることはなかった。だまってそのまま突進――


 銃を構え、狙いを定める。その狙いは――

 握る部分から予測できる刃だ!!


 引き金を引き、一発の銃弾を撃ち込む。狙い通り、銃弾は刃に命中して火花を散らした。そして、その反動を受け、男は大きくのけぞった。今だ――!!


 この一瞬――、相手の間合いに踏み込み、蹴りを一発、そして銃で殴りつけ気絶させた。

「ふぅ――、これで退治完了っと」

「たける!」


 男達を片付けると同時に、アリスが駆けてきて跳びついてきた。さて、こいつらをNSPの連中に差し出すか。


 空間上にタッチパネルを表示させ、連絡っと。


 次の瞬間――


 タッチパネルを銃弾が貫通してそのまま地面に突き刺さった。そして、タッチパネルはノイズを出してそのまま消滅した。

 狙撃か? 狙った射線を考えると――――!?


 2発目の弾丸。とっさに側転で避けた。音が鳴らなければ危なかった。

「アリス逃げるぞ!!」


 アリスを抱えて走った。このあたりに殺気は感じられない。おそらくは遠距離狙撃。あの公園にいたら格好の的だ。やつら殺す気満々だな。くそ……


 市街地は――だめだ。平然と発砲されたら他の奴らを巻き込んでしまう。


「アリス、俺が渡した携帯端末もってるか?」

「けいたい?」

「ああ、四角いやつだ」

 しばらく彼女は考えるしぐさをする。彼女を下すと、ポケットをまさぐり出し

「あるよー」


 ポケットから四角い端末――今朝渡した通信機を出した。それを受け取と通信ボタンを押した。

現在、連絡網はネットワークを使った電子端末を介している物がほとんどだ。だからこそ、こう言った古い通信手段は傍受されにくく、プロキシや軍の間では好んで使われていた。


『こちらプロキシ日本支部』


 通信を出た人物は男。連絡先はプロキシ日本支部だ。プロキシへの依頼や緊急事態。本来はプロキシ間で行う場合が多いが、こういう統括な場所も存在する。


「俺だ」

『たけるじゃない。どうしたの?』


「実は今、変な奴らに追われている」

『あら、大丈夫?』

「あぁ、大丈夫だ。それでこのあたりで人気がなくやりあえる場所があったらナビしてもらえるか?」

『ちょっと待ってね』


 道路を車が滑り込むようにして進路を遮った。おそらくは追手――

「ちっ、こっちもか……。早くしてくれ」

 細い路地を見つけ、アリスを引き連れ、そこへと逃げ込む。

『急かさないでよ!! ――あった。ここの画像送っておくわね。援護は送る?』

「どのぐらいで来られる?」

『そうね、20分ってところかしら?』

「15分か――」


 これだけの包囲網だ。20分持ちこたえられるかどうか……

「分かった。なるべく早く頼む」

『幸運を祈るわ』


 通信が切れ、さっき送られた地図を確認した。場所は――

 すぐそばにある廃工場。そこならやり合っても問題ないか。彼女を引き連れ走った。



           ◇



「ガキを渡せ! 渡せば命だけは助けてやってもいい」


 廃工場に逃げ込んで直ぐ、工場前に大量の男達が集まっていた。そのうちの一人が拡張機を使って話しかけてくる。


(嘘つけ! さっき散々殺そうとしてたじゃねぇか)


「1分だけ待ってやろう」

 渡したところで殺す気だろう。しかしまぁ、こんな大人数で来て、よほど重要らしいな。


「たける……?」


 彼女は不安そうに見上げ、震えていた。奴らに捕まればこの子がどんなひどい目にあうかわからないな……


「ごめんな。少し怖いかもしれないが、すぐ終わらせるから」

 彼女を古びたロッカーの中へと隠れさせた。


「さてと……、やるか」


 男が二人――

 こちらに気づき銃を構える。だが、遅い――


 男が抜き去る前に素早く取り出して発砲。狙いは腕だ―― 弾丸は見事に命中して男達が銃を落とした瞬間、一瞬で踏み込み蹴りあげた。


「まずは2人。――!?」


 とっさに後ろへと下がった。首ぎりぎりのところをアーミーナイフがかすめる。


「いまのは殺ったと思ったんだがな……。いい反射神経だ」

「あぶねぇなぁ」


 銃を構えるが、男は一瞬で踏み込み――

 撃つのが間に合わない!! とっさに銃のボディで受け止め、金属音が鳴り響く。

 この距離で銃は無意味。なら接近戦で戦うだけだ!!


 男のナイフを避けながら、1発、2発と拳を叩きこんだ。


「居たぞ!!」

 次から次へと――

 再び臨戦態勢となった。



 多くの弾痕が残り、辺りには薬莢が転がっていた。あれからわずか数分。音はすっかりと止み、辺りは静けさを取り戻していた。


「ふぅ、終わったか」


 アリスを狙った男達はその辺に寝転がっていた。もちろん殺してはいない。


 しかし、これだけの人数を投入するってことはよほど取り返したいんだろうな。あんな子が一体何の秘密握ってるんだ……


 ガタガタとロッカーの音が鳴り響く。そして、歩幅の短い足音。やがてその主は姿を現し、足へとしがみつく。


「勝手にでてきちゃだめだろ?」

「だ、だって……」


「怪我したら大変だからな? 次からは大人しく待っていてくれよ?」


「う、うん……」


 次の瞬間――

 爆音と共にすぐ横を砲弾がかすめ、すぐ隣の部屋を粉々に破壊した。

 アリスを抱きかかえ、大きく飛び退く。


『そこまでだよ。神速のサムライ君。その子を渡してもらおう』


 目の前には人ではなく巨大な兵器。戦車のようにキャタピラを持ち、2足歩行。ロボットと言ったほうが近いだろうか? おそらくそれに乗っているのだろう。そこから聞こえるスピーカー音。


「ずいぶんごついものにのっているな」


『こいつは軍の最新兵器でね。ちょっとしたルートから手に入れた品だ』


 砲弾がこっちへと向き――


 撃ちだされ、一瞬にして工場を半壊させた。今のが命中していたら……、いや、わざと外したか?

「ずいぶんすごい威力だな。それを乱射されたらシャレにならないぞ」


『このぐらいの事は楽にできる。君に勝ち目はない。あきらめたまえ。それに、その子は君の手に負える存在ではない』


「どういうことだ?」


『まぁ、少しぐらい話してやろう。20年前の出来事は知っているだろう? 彼女はその鍵となる化け物なのだよ』


「わたしはばけもの……」


 20年前、原因不明のコンピューターの暴走。そして、世界の街は次々に消えていった。消えた街の生存者なし。つまり、誰一人としてその原因は分からなかった。ただ、街が消えたとしか分かっていない。軍が投入されたが、帰還者もなし。そして、わずか半年にして人口が半分になるという未曽有の事態へと陥った。しかし、ある日を境にそれは何事もない自然現象のように消えた。その原因は未だにわかっていない。神罰や祟りと恐れ、現在もタブーとされている。


「その事とアリスが何の関係があるんだ?」


『その子が原因そのものなのだよ』


「出まかせを――」


『事実だ』


「ねぇ、わたしって悪いこなの……?」


『あぁ、貴様は世界中が畏怖する化け物だ』


「黙れ!!」


『おいガキ。お前はその男を滅ぼす存在だ。いや、すべての人間を不幸にする。その男を助けたいなら俺と来い。そうすれば男の命は助けてやる』


「私が……、行けば、タケルは不幸にならない?」


『あぁ、約束しよう』


「なら、私――」

 行こうとするアリスの手を握った。


「あっ……」


「なんで勝手に行こうとするんだ? お前はそれでいいのか?」


「だって……、たけるが――」


「俺の事は良いんだよ。言ったろ? 守ってやるって」


「お前が何者だろうとあまり興味はない。アリスはアリスだろ?」

 彼女はぎゅっと体に抱きついてくる。


『そうか。なら死んでもらおう。そして、彼女は連れて行く』


 アリスを後ろへと下がらせ、頭を撫でた。不安そうに見つめる彼女。

「大丈夫だ。少し待ってろ」

 黙って彼女はうなづいた。


 ゆっくりと歩き、目の前にある巨大兵器に対峙した。銃は効かない。体術なんてもってのほかだ。さっきの装填から銃弾を撃つ俊敏性。かなりの速度。見た目の装甲も厚そうだしな……。対人としては絶体絶命の状況だ。


『死ぬ覚悟はできたか?』


「はぁ……、アレを使うと疲れるんだが……」


『何を訳の分からないことを言っている?』


「なぁ、俺が何で『神速のサムライ』って呼ばれているか知っているか?」


『さぁな。お前に興味がない。死ね!!』


 右手のアームにある巨大なナイフ――離れていても高温の熱を帯びていることが分かる。熱で切り裂くナイフといったところか?


 それを一気に振り下ろしてきた。


『なっ――!?』


 男から漏れる驚愕の言葉。それは当然だろう。この高熱のナイフを受け止めたのだから。

 もちろん腕で受け止めたわけではない。


『光の刃だと!? なんだそれは?』


 柄の先の刃部分は巨大な光を帯びた剣。それを振るい、ロボットの右アームを切り裂く。


 砲弾をこちらへ向け砲撃――――!!

 しかし、弾丸を巨大な兵器ごと切り裂く。


『なんなんだそれはぁああああああ!!』


「企業秘密だよ」


 切り裂かれた巨大なロボットは巨大な爆発を起こした。


(ふぅ、5秒か……。もうちょっと余裕あったな)


 柄をポケットにしまった。しかし、だんだん厄介な事になってきたな。


 すっかり暗くなった夜空を見上げながら、プロキシの到着を待った。


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