表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/9

新情報と旧情報   新情報が連発されると読者は混乱する?


男「というわけさ」

女「新情報と旧情報って英語かよ」

男「まあ、英語の文章は構造的に、非常に論理的だということから、英語の視点から日本語の構造を研究するのもいいことだよ」

女「今はポスト構造主義の時代っすよ」

男「話も身長も小さなことを気にしては議論が進まない。さあ、例題を出そう」

女「おい、身長は関係ねーだろが!」

男「ははは」

女「むぎゅ」



 たとえば、ここに青年、彼女、という登場人物がいるとして、

向かいのおばさんの会話相手になっている青年は、遠くの学校で生物の授業を受けている彼女の大人しい性格に似つかない大胆な発言を思い出し、やせこけた頬を持ち上げて、人目を気にする彼には珍しく、大声で笑った。

 の場合、新情報が


青年:『向かいのおばさんの会話相手になっている』

彼女:『遠くの学校で生物の授業を受けている』『大人しい性格』『大胆な発言』

青年:『やせこけた頬』『人目を気にする』『大声で笑う』


 とたくさん並んでいるから読みにくい。

 新情報がならんでいるから、一度に読者が情報を処理しなくてはならない。これが読みづらさの原因である。

 逆に、新情報を一文あたり1,2個数に絞っていけば、読みやすい文章になる。




女「新情報、ね。旧情報ならいくつでも並べていいの?」

男「いや、そうとは言えない。旧情報とはいえ、微妙にニュアンスや言葉が変化してたら、それも立派な新情報扱いだ」

女「大きい本がある。この大きな本は、貰いものだ。みたいな?」

男「その程度の修飾語なら、新旧なんか気にしなくったっていいさ。かさばって仕方がないこの本は、貰い物だ、ぐらい変化してたら新情報かも」

女「ふむ」



 これはまだ許せる文章である。理由は平易な名詞を使用していること。それと、新情報を順番に処理していけば意味がつかめること。この二つである。

 だから、この文章は文節ごとに細かく分けていけば、分かりやすい文になるだろう。

 では、この文章はどうだろうか。



見知った向かいのおばさん相手に、とりとめもない観客の居ないトークショーをくり広げている青年は、遠い生物の授業を設けている教室の隅にいる彼女の、おとなしい性格の割りに大胆な発言を思い出して、やせこけた頬が持ち上がって、別にそうするつもりはなかったのだが、人目を気にする彼には珍しいことに大声で笑った。



 これは非常に読み辛い。内容が先ほどの例題と同じだから、まだ救いがあるだけだ。初見ならばまず分からない。

 出だしが

『見知った=動詞による副詞的連体修飾(非正式名称。主語がおばさんではなく青年、つまり被修飾語と副詞内主語が一致していない、という修飾)(例:彼は会話が変だから、思わず「笑ってしまう」ような人だ。笑うのは彼じゃなく、あなた)』

『向かいの=連体語』

 という、別種類の修飾語が並立しているのが、辛い。

 見知ったおばさん、向かいのおばさん、なら分かりやすい。見知った おばさん、の間に「向かいの」、をねじ込んだのがダメだった。


 一般的に、修飾語の間に無関係な言葉を入れるのは、きわめて悪い。

 理由は簡単、新情報を複数同時に処理しなくてはならない。テンポを損なうのだ。



女「え、でも『とりとめもないくだらない話』は普通じゃない?」

男「とりとめない、くだらない、がどちらも同じ形容詞だから違和感が少ないのさ」

女「下品なくだらない話、とか」

男「形容詞と形容動詞、どちらも同じもの=話を形容しているから大丈夫」

女「男が話すくだらない話」

男「男が、って最初に指定してある分だけまだマシだね。まあ、ここらへんは感覚だよなあ。実際、見知った向かいのおばさん、ぐらいなら普通に読めちゃうし」

女「まあね。でも連発は注意しましょうってことだね」

男「せいぜいそんな所かな」



 同じ理由で『とりとめもない』『観客の居ない』もアウト。

 『遠い』『生物の授業を設けている』教室、もアウト。そもそも設けている、という言い方が一般でない。


 『やせこけた頬が持ち上がって』は、こっちは主語が変化しているのでアウト。

 この文は『青年』が主語だったはず。『やけこけた頬』が主語に変化するのは不自然。変化する理由(強調したかった、など)が必要である。


 『別にそうするつもりはなかったのだが』は挿入句として働いている。文章全体を副詞的に修飾している。

 けれどもこれは、テンポを損なっている。

 理由は簡単。今までは新情報を順番に処理していけば意味がつかめる文だった。

 しかし、これは違う。

 「そうするつもり」の「そう」が指示する内容が後ろに回っている(後方照応)ので、一旦情報処理をとめてキープしなくてはならない。

 その後に続いて『人目を気にする彼には珍しいことに大声で』と新情報が入っているので、キープしながら情報を処理しないといけない。

 これが混乱の元である。このように情報処理の途中に後方照応の言葉をぽん、と置くのは、テンポを崩す元になる。

 


女「こんな女がいる。難しい説明には必ず分かりやすい例を持ち出す女だ。これが後方照応って奴かね?」

男「そのとおりだよ、いい子いい子。大体の後方照応は後ろを強調する効果がある」

女「感謝したまえー」

男「ははー。さてと」

女「なんてドライ」



 分かりやすく改定して、


青年は、向かいのおばさんの会話相手になりながらも、別のこと、今遠くの学校で生物の授業中だろう彼女のことを思い出した。

おとなしい彼女の発言とは思えない大胆な発言を思い返して、やせこけた頬が持ち上がる。

人目を気にする彼には珍しいことに、青年は大声を上げて笑った。


 これぐらい意味を薄くしたら、まだ分かりやすくなる。

 別のこと、は分かりやすくするために入れただけの無意味な言葉で、削除していい。




女「無意味な言葉は分かりやすく整理するための言葉、ねえ」

男「もちろん言葉としての意味は無いが、文章としての意味は生まれる。そう、言葉の緩急が文章のうねりであるからにはね」

女「がっつくだけじゃなく焦らすことも大切なのさー」

男「反省します」

女「今日はゆっくりの日で」

男「というわけで、新情報と旧情報でした」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ