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ずるいが口癖の妹が修道院送りになった後で

作者: 椎名正
掲載日:2026/09/18

 舞踏会に行くたびに、妹はお姉さまはずるいと言った。

 お姉さまのドレスの方が立派だと駄々をこねた。

 そのたびに、私は妹に私のドレスを譲った。

 今思うとそれがよくなかったのだろう。

 妹の口癖がずるいになってしまった。

 私が聖女になったとき、妹は言った。

 お姉さまはずるい。

 私に婚約者ができたときに、妹は言った。

 お姉さまはずるい。

 そして、妹は処罰されることになった。

 家庭内でずるいと言うのはまだよかったが、貴族の身分で他の者の前で気軽に言ってはならぬ言葉なのだ。

 「あなたには修道院に行ってもらいます。これは明確な罰であることを理解しなさい。聖女になることは、聖女の責任を背負うこと。貴族が結婚することは、その家の責任を背負うこと。それを理解もせず、他人をうらやむなど最低な行為だと自覚しなさい。貴族である者がみなの前で他人をずるいなど言っては絶対にいけないのです」

 王妃様の裁きで、妹が連行されていった。

 悲しい結果になってしまったが、私には妹が反省してくれるのを祈るしかない。

 妹がいなくなった後、王妃様はみなの前で私に言った。

 「あなた、ずるくない?」



 ええっ?

 心の中でドン引きする私に、王妃様は続ける。

 「あなたの婚約者さ、何、あのイケメン。ずるいでしょう」

 「ええっ?」

 今度は口に出てしまう。

 「イケメンだけならまだしも、めちゃくちゃ仕事できるじゃないの。自分の仕事だけじゃなくて、あなたの聖女の仕事も手伝ってくれるそうじゃない。ずるいわよ」

 「そ、そんなこと言ったら、王妃様の旦那は王様で、有能な王だと国民に大人気じゃないですか」

 「あのかっこつけ男がさ。そりゃあ、国民の前でいいかっこして、きれいごと言っているから、国民人気が高くなるわよ。でも、あの男がかっこつけたあと、苦労するのは私なんだからさ。あんたずるいわよ」

 「さっき、王妃様はみなの前でずるいは言ってはいけないって言ったじゃないですか」

 「私にとって王国民はみんな身内みたいなんだからいいのよ」

 「屁理屈!」

 「いいな。私もちゃんと仕事してくれる男と結婚したかったな。ちゃんとした旦那と結婚、いいな」

 三十過ぎた王妃さまが駄々をこね始める。

 「わ、私なんか、全然ですよ。親が決めた相手と結婚しただけですから。うちの王国には、恋愛結婚したモニカ様がいらっしゃるじゃないですか。うらやむならモニカ様にしてくださいよ」

 モニカ伯爵夫人。

 激しい恋愛で旦那様と結婚をした、私達令嬢の憧れの人。

 そのモニカ様は、私に言った。

 「あんた、ずるくない?」



 「あんないい男とこれから結婚生活できるなんて、ずるいわよ」

 「な、なに言っているんですか。モニカ様は、幼馴染の男性と恋愛結婚したんでしょう。私達のあこがれなんですから」

 「私、思っているんだけど、恋愛結婚ってクソよ」

 「ええっ?」

 「恋愛した後に結婚するから、もう結婚式の時には半分飽きちゃっているのよ。あんたはこれから新婚のドキドキ感が味わえるわけでしょう。ずるいわよ」

 「いやいや。モニカ様は幼馴染の男の子と恋愛結婚したんですよね。これ以上の恋愛勝ち組はいませんって」

 「もうさ、幼馴染なんて、見飽きちゃってさ、もう結構ですって感じなのよ」

 王妃とモニカ様が、ずるいずるいと声をそろえる。

 「いいかげんにしてください。それが王族貴族の姿ですか。私は聖女としてその行いを正さなければいけない立場なのです」

 私はパメラ様の方を見て頷く。

 パメラ様は先代聖女。

 そのパメラ様が、私に言った。

 「あなた、ずるいわよね?」



 「ええっ?」

 「あなたさ、聖女として各地をまわって、すごい接待されているそうじゃない。私の時なんてそんなのなかったわよ。あなた、各地の名産品とか食事で出されるそうじゃない。私の時なんて、具なしスープよ。具があるスープから、聖女様の修行のお手伝いとか言ってわざわざ具を取り除いて出してくるのよ。わけわかんないでしょう」

 「いや、それは」

 「あとさ、聖女として各地のモンスターを討伐するじゃない。私の時なんて、雑魚モンスターから全部ひとりで倒していたのよ。いまじゃ、ボスモンスター以外は現地の人達が倒してくれてお膳立てしてくれてて、ボスモンスターに止めをさすだけらしいじゃない。ずるいよ」

 「パメラ様、その辺で」

 「あとさあとさ、あなたの代から聖女の服が変わったでしょう。何、その可愛い服。ずるいよ。可愛い中にも清楚さがあってさ。私のこの地味なだけの聖女服みてよ。何よ、このくすんだ色。ずるいよ」

 「いいかげんにしてください!」

 私は怒鳴る。

 「私達は女神様の信徒として、聖女としてふさわしい言動を心がけなければいけないのですよ。そんな、ずるいずるいなんて言葉を使って恥ずかしくないのですか」

 私の聖女としての言葉に反応したのか、天から光が差す。

 偉大なる女神様が舞い降りる。

 かしこまる私にむかって、女神様は言った。

 「あなた、ずるくない?」


   おわり


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