西野一恵さんの日常
~入社初日・嗚呼、思ひ出の……
「ざけんなすっとこ作者!西野の「バ!カ!」の「初出撃」なんて、書かれてたまるか!とっとと次!!」
西野一恵(22)/hn:クイーン・グラップル
人呼んで総務課の「あばれ西野」。2年前の入社式、突如(※注1)雪崩れ込んできた二百匹近い宇宙人のすべてを一人で(※注2)叩きのめした「西野伝説」は今でも社内の語り草。その腕を見込まれ入社即日に営業から総務に配属替えになった、正に宇宙人退治専門OL(※注3)。正確には「総務部庶務課宇宙人処理係」、上司のいない実に気楽なポストである。
性格は典型的な姐御肌、きさくで竹を割ったようなさっぱり気性、プライドも高く曲がった事は大嫌い……と書くといいことづくめのようでいて、でもそれじゃあ営業活動はたぶん無理だったね。とはいえ万事大雑把で数字の苦手(※注4)な彼女に経理は論の外。やっぱ宇宙人退治のある総務が一番!
てかさ、宇宙人退治しか「出・来・な・い」ってのがホントの話。修羅場が来なけりゃ一日ぐーたら!
あんたそれじゃOLってか用心棒だよ?そもそもOLじゃなくてプロレスとかやれば?誰しも思うその疑問、とどめに一言、
「それに君の実家って、空手の道場じゃないか!」(同僚一同)(※注5)
スーパーヒロインとしての彼女の能力はあえていうなら「特に無し」。彼女がスーツから受ける恩恵は単純にパワーとスピードのみ、必要にして充分。銃器や剣なども一切持たない(※注6)。幼少期より習い覚えた空手を武器に宇宙人を「かたっぱしからプチプチ潰す」(本人談)その姿はまさに「格闘女王」。
「全然普通のOLちゃうやん!」……わかるよその気持ち。でもな?
この時代、どこの会社にも一人はいる(※注7)んだ、こういう女がさあ……普通なんだよこれが!
解説コーナー(一恵編):担当 加賀美弥生
「……そもそも、なんでアタシがあの「バ!カ!」の説明しなきゃなんないんだ!ケンカ売るつもりだネこの作者!『西野伝説』ってのはアタシの前じゃ禁句だコラ!腹・立・つ・なー・もー!
ま、いいや……アタシ、営業部海外課アジア担当の加賀美弥生ネ。どーせあんの「バ!カ!」、今後もうるさく顔出すし、この場はとっとと短めに終わらす!二度とこんなことやんないからシャキッと聞いとくこと!!」
解説1:
わざわざそー言わなくても、宇宙人はいつでも「突然」。何も無い空間がゆらゆら揺れて見えたら、それが宇宙人がワープしてくる前触れ。防ぎようはないネ。まったく、どっから来るんだか?
ま、おかげで「腕試し」やら「ウサ晴らし」やらの機会にゃ事欠かない。いい時代かも知んない、アタシやあの「バ!カ!」みたいな血の気の多いヤツにはサ。
解説2:
要するにこれがあいつの「初出撃」……くそーーーー!!アタシからしゃべるのか、あのことを!!
もちろん、西野の「バ!カ!」だけじゃなく、他の新入社員も戦おうとした。どこに配属になるにしても、先輩や上司にかっこいいとこ見せておきたいだろ?
でも!そんな仲間を2~3人、こともあろうに西野の「バ!カ!」がぶっとばしやがって……
「余計な手出しすんな!」ってことだよ。そのあまりの剣幕に他の誰も戦えなかった、てのが真相。そんでもって……あああああああああ腹立つ!
言いたかないけど!一番最初にあの「バ!カ!」にぶっ飛ばされたのが誰あろうこのアタシ!真後ろから後頭部に正拳突きってどうよ?同期の社員に攻撃されるなんて思うわけないぞフツー!おかげでその後三日間意識不明だこちとら!
変身スーツってのは、一般市民同士なら大体の場合「防御力が攻撃力を上回ってる」。変身さえしてれば、相手に致命傷を与えることはできないんだ。てことは、武器が世間中に蔓延してても、ケンカ沙汰が大事になることは実は滅多にないのサ。よっぽど派手にやらかしても、お互い疲れて終わっちまう感じで。この時代、やるだけ損なのサ、「ストリートファイト」なんて。宇宙人退治の方が面白いネ。
とはいえ、あくまで「一般市民が、普通に法律で許可された装備を使うなら」ってのが前提条件。本当にヤバイ奴はヤバイモン持ってるから、油断は禁物だけど……って!んなこと言いたいんじゃなくって!!
あの「バ!カ!」!後頭部に正拳なんて生身だったら即死だ、ちっくしょう!
ま、もちリベンジに行ったよ。その話はアタシん時にネ。これまた実は「話したくない話」なんだけど……
解説3:
「宇宙人処理」。具体的にはまず「共用部」に現れた宇宙人を退治すること。「中庭」とか「ガレージ」とか「会議室」とか、あるいは「玄関先」とか!会社の中で「事務所じゃないとこ」で戦うわけ。これが一つ。んじゃ、「事務所」に出てきた宇宙人はどうするかっていうと。トーゼンだけど、そこで働いてる人間が自分で戦う。職場単位でも、どこだって一人二人はいるから猛者がサ。いくらちっちゃな会社だからって、総務の連中が倒しに来るの待ってるなんて時間の無駄だろ?現に、海外課に限らず、営業部のフロアは自慢じゃないがアタシの縄張り!肩凝りほぐすにゃ手頃な運動サ。
ただね?宇宙人「退治」と宇宙人「処理」は違うんだ。アタシは営業フロアに出てきた宇宙人をやっつける、そこまではするんだけど……その「死骸」を回収してしかるべき場所に捨ててくる……そこまでやるのが「宇宙人処理」。
確かに大変で大切な仕事だと思う。あいつらに出てこられたんじゃ、どんな仕事だってできやしない。そんで殺したら殺したで!困り具合はゴキ並みかも知れないけど、体のでかさが全然違う!「ティッシュにくるんでゴミ箱にポイ」ってわけにゃいかない。犬猫の死骸だって、そこらにおっぽらかしとくわけにゃいかないよネ?それといっしょ!始末する係はどうしたって必要。
けど、なにしろヘヴィーでダーティーな仕事だよネ。「オフィスワーク」の概念からずいぶんかけ離れてる。一流会社とかだと警備会社やら清掃会社やら下請けに雇ってそいつらが、ってのもあるけど、「宇宙人処理契約」ってのはかなり高い。なにしろいつだってニーズありあり、「高いと思うんなら無理して雇っていただかなくても、他にお客様はいくらでもいますから」!そっくり返って殿様商売ってやつサ。だから、ちっちゃな会社ほど自分たちでなんとかしなきゃなんないわけでネ。
ただ、「われ鍋にとじ蓋」っていう感じで、そういう「汚れ仕事をいとわない」人間もいる。なかにゃ、「それが得意」「それが好き」ってやつもたま~にいて。そういうやつをどこの会社でも重宝がってる。必ず一人はそういう「人材」が欲しいモンなのサ。てなわけでこの時代じゃ、少々「脳」力不足でも、腕っぷしさえあれば!どんな会社でだって働けるし食うには困らないんだ。ネ?「血の気の多いやつにはいい時代」だろ?場合に寄っちゃ、とくに「会社」より「商店」とか「ホテル」とか、目の前にお客がいるサービス業なんかじゃ、むしろ「高給取り」ってこともある。まさしく「用心棒」、それがすなわち、うちの会社じゃあの「バ!カ!」ってこと。
認めるのはシャクだけど、あの「バ!カ!」は確かに強い。それから素直に認めなくっちゃいけないのは、そういう「汚れ仕事」を全然嫌がらないってこと。愚痴こぼしてるように見えてるときも、顔は笑ってる。
さっきの「伝説」つくったあとも……アタシは聞いて知ってるだけだけど……倒した宇宙人全部自分で始末するとこまでやったらしいんだ。そりゃ、アタシも戦おうとはしたけどサ?後片づけまでは考えてなかった……
「お偉いさんの入社式の挨拶なんて、退屈で聞いてらんねーよ!だからやったのさ。体動かしてるほうがマシ、てかお偉いさん公認の朝礼サボリなんて後にも先にも、愉快つー快!なにしろ二百匹だろ?い~い時間潰せたゼ!」
本人はそう言ってる。半分はまぁホントだろネ。けど、あと半分は。アタシは、アイツなりの「所信表明」だったんじゃないかって、そんな気がする。
それから、確かに事務処理とかは壊滅だけど、何にも「出来ない」ってのは違う。黙っとくのは卑怯だから言っとく。
普段から「お茶入れ」とか「コピー取り」とか、雑用は自発的にやってるらしい。「蛍光管交換」とか「詰まった便所で水道工事屋の工事立ちあい」とか、全部あいつの出番。なんだかんだで結構あるもんだろ?そういうの。そして、普段決まった仕事こなさなきゃなんない時にそういうのやらされると、たとえちょっとのことでもイライラするよネ?ところがアイツは普段がヒマ、内線一本でどこの部署だって、ウキウキして飛んでくる!
つまり「宇宙人退治専門OL」じゃなくって!「雑用のスペシャリスト」サ、あいつは!重宝がられるよそりゃ。
「そーでもしてなきゃ、ヒ・マ・で・ヒ・マ・で!やりたいからやってるだけだよこちとら!だいたいさぁ、『宇宙人(処理)』だって、『クズカゴの中のゴミ集め』とおんなじよーなモンだろ?『蛍光管』?いいね、もっとじゃんじゃん切れねーもんかな?『決算』?かきいれどきだねぇ、あたしにとっても!」
決算の時分は経理に入り浸り、やることは雑用の出張。コピーにお茶入れ、それから何と言っても内線電話の受付!あの時分のあいつらは、便所に立つんだって惜しいってくらいキリキリキリキリ、電話なんて取るやついない。だからあいつが全部取る、そして、取りつがない。メモ取るだけ取って、配りまくる。用件の内容についちゃ、アイツにゃどうせわかんない事多いし、また聞きだと間違いのもと。どこの部署の誰からってだけ聞いて書く。受け取ったやつは、自分の都合のいい、仕事にキリがついた時に返事。簡単なことなんだけど……バカ受け!わかるだろ?
「いやあんなの、なにもあたしがやんなくたっていいんだ。連中の中で一人、そういうやつ決めときゃいいだけなんだけどなー。おととしな、たまたまそのころ『蛍光管』で経理に行ったら……戦争みたいに必死で勘定してんのに、あっちからもこっちからも電話だろ?それもたいして急ぎでもなさそうな調子でさぁ……ひとごとながらあったま来ちまって!!
『必ず伝えて返事はさせる!よっぽどじゃなきゃ掛けてくんじゃねぇ!!』ってやっちまったのがきっかけ。余計なお世話だったかなー?」
いやそういうことには、お互い気づいてやらないといけないんだ。そしてネ、いつの間にか全社に広まっちゃって。経理に限らずどこの課でも「カンヅメ」で仕事したい時はアイツを電話番に呼ぶ!逆に言うと、総務以外に内線してアイツが出たら、「そこの部署はただいまカンヅメ」ってわけ。ここまで来ると誰でも同じじゃなくなってくる。ウチの会社であの「バ!カ!」の声がわからない奴なんて新人だけ、かけた先がカンヅメかどうか一発でわかるから!
まぁそんなわけで確かに!アイツは、事務的なことは何にも、なんだけど。
今のでわかるようにネ、妙に「気配り」上手なんだ。「段取り」とか「仕事の分担」みたいなことやらせると、絶妙なんだよ。何の仕事かもわからないくせに!
「やる気あんのかやれそうなのか、とてもできねーのか頑張りゃなんとかなんのか、顔みりゃわかるだろそんなん?」
……それがわかんないから世の中の「管理職」ってやつらは苦労してんのに!言ってくれるもんだ……
な?あいつは「能無し」じゃない。決して「能無し」じゃないんだけど!
解説4:
「バ!カ!」だーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!
「万事大雑把で数字が苦手」?そんな生ぬるいもんじゃないよ、アイツの「バ!カ!」さ加減は!
とにかく一般常識が無さ過ぎる……どうやったらあんなに物事を知らずにいられるのか見当つかない。「筆舌に尽くしがたい」よ、ありゃ。ここでどーのこーの言うより、続き読みゃわかる、イヤでもサ。
「いいことづくめ」のあたりは、まぁその通り。人柄って意味じゃ「良いヤツ」、わかってるサそれは。ただな?ひたすら「迷惑なヤツ」なんだよ!「バ!カ!」だから!!
解説5:
いや実は、あいつプロレス道場、入門しに行ったことあったらしいんだけどネ。確かにOLよか向いてる。ほんとだったら天職だ。
でもネ、西野の「バ!カ!」がプロレスラーにならなかった理由はちゃんとあンの。ああいうとこはサ、案外荒っぽいばっかりじゃない。「規律」とか「風紀」には割と厳しいだろ?「選手のプライベート」はきっちり管理されてる。それがアイツに合わなかったんだ。
その……言いにくいんだけどサ……ここに来てアイツときたらさぁ……入社3ヶ月で同期の男子社員のほとんど全部を……
「斬って捨てちったゼ。でもどうも物足りねぇ……もうちっと『アレ!』が上手いやつ他にいねーかなー?」
……だなんて、平気な顔して言ってんの!ウチの会社じゃこれまた有名な話、名づけて「裏西野伝説」!
ま、こーいうのは相手あっての事だしサ。男が皆スケベなんだって、言えば言える。アイツは「バ!カ!」だけどルックスは悪くない。「可愛げ」とか「しとやかさ」は全・然・ないけど、「色気」だけはそーとーなもん。ばっちり鍛えてあるわりにゃ、ゴツゴツしてなくて。「肉感的ってか、「ワイルド・ビューティ」とでも言うのかネ?ああいうの好みの男多いと思うよ。それに好みじゃなくても、アイツの最大のウリは「あとくされ皆無」ってとこでネ。「一夜のお楽しみ」なら、たまにはいいかな?って思わせちまうわけだ。そんでもって、自分からガンガン誘う!そりゃ引っ掛かるって!!
あ!言っとくけど!!アタシの方が見た目でも勝ってるからネ!!
え?「道場継いだら」?ふざけるな、そいつはアタシが許さない!
「西野流実践空手」ってのは、アタシの知ってる中じゃ最高クラスのいい空手、何を隠そうアタシも門下生!看板汚すわけにゃいかないよ!!
西野家には「二葉さん」って次女がいてね。ちょっと子供っぽいけど、あの子が弟子ん中からいい婿さんもらって、そいつに継がせんのが一番!
万が一あの「バ!カ!」が後継なんてことになったら!差し違えてでも、アタシがこの世から葬る!!
解説6:
てかさあ、筆記試験があるから武器の免許取れないのサ、あの「バ!カ!」の場合。ホントはスーツの基本出力も免許でグレードあんだけど、絶対違反してるぞ「バ!カ!」西野。
アイツのスーツ?本体もメットもブーツもグローブもスポーツメーカー「ヒズノ」、パワージェネレーターだけはバイクの「オンダ」。いわゆる「格闘家」の定番だよ、こういう組み合わせ。あたしは「ヤイキ」と「ナマハ」だし。スポーツメーカーのスーツはさすがに「体によくなじむ」!ただし、ちょいとパワー不足なんで、バイクメーカーの「エンジン」つむわけ。
ただ、あの「バ!カ!」のスーツってね、「メーカー品そのまま」なんだ。
「変身」ってのは、もはや一つの「文化」だから。普通はもっと自分のスーツにこだわるもんなんだよ。
さっきの「篠崎さん」の解説見たよネ?あのこだわり!ブーツについちゃちょっとアレだけど、スーツ本体については、あのくらい全然普通。アタシも似合ってると思うよ、あの子の「ほのぼのふんわりキャラ」がよく出てる!
……ってネ?そうゆう感じで!自分の趣味をたっぷり盛り込んでサ、だいたいの人は、オーダーメイドでデザインとか装備とか、オリジナルでカッコ良くきめる。年寄りとか子供くらいだよ、「そのまま」なんて……おっと、ちっちゃい子供の場合は親がノリノリでデザインするっけ!
でもアイツは「変身そのもの」にたいしてはぜんぜん興味ないみたいだネ。
「クイーン・グラップル」ってのも、実は二葉さんが考えた。
hnの登録は十五歳以下は任意、十六歳以上は必須。一ノ瀬主任が言ってた通り「意味なし法律」なんだけど、一応そうなってる。だから十六のときに必ず更新あるのサ。
「こんど作る免許はSa~何か名前ないとだめだYo?」って、「四つ下」の妹さんに突っ込まれて。
「めんどくせーなぁ!んなモン本名じゃダメなのかよ?んじゃ二葉さぁ、なんか強そーなの考えてくんない?」
だって。やる気もこだわりもまったく無し!だから、今だに「あたしのhn?何だったっけ?」って……アタシに聞くな!
武器もネ、免許が取れないのはそりゃそうなんだけど、取るつもりもさらさらないらしいくて。
珍しいんだ、こうゆうの、今どきサ。生身じゃさすがに宇宙人相手はキツいから、仕方なくスーツ使うだけって感じでネ。つまり。
アイツの中にあんのは結局「空手」だけ!ある意味純粋。それだけは、認めてやっていいかな……
解説7:
ここにアタシみたいなのがもう一人いるしネ。
ただし!作者のやつちょっと説明不足、言葉の使い方がなってないネ。
いい?どこの会社にも必ず一人はいる「こういう」女っていうのは、「強い」女のこと。間違えないよーに!
「強い女」なら、実のとこ言うとウチの会社は目白押し。こんなに揃ってる会社ってとこだけは、確かに珍しいかもネ。
西野の相棒、総務課の「水森さん」。
変身した状態でなら、多分アタシや西野より強い。スーツバトルの達人!
経理課の「道成寺さん」
「忍者」だよありゃ。珍しいスーツを使う!いや、スーツの中身がもっと変わってるけどネ、彼女は……
さっきの「一ノ瀬主任」。
しれっとお上品に話してたけど、とてつもなく強いんだあの人は。ケタ外れだネ。
そして「トメばーさん」。
厳密には社員じゃないけど、挙げないわけにゃいかない。ズバリ「最強地球人」!
てな感じ。「強い女」が会社勤めしてるってこと自体は、今どき別に全然おかしくない。いやそもそも、「女だって十分強くなれる」のが今の時代なんだから。
ただな?
西野みたいな「バ!カ!」OLは世界唯一!!!
いまいましいけどあんな「ヴ!ァ!カ!」ウチの会社にしか絶対いないネ!!