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篠崎かおりさんの日常(1)発出撃編

 ~入社初日・嗚呼、思ひ出の初出撃!~


《宇宙人警報発令、宇宙人警報発令、中庭に宇宙人およそ250体。『大玉送り』を始めた模様。総務の皆さんは直ちに出撃して下さい……》

(へ?お庭に宇宙人さん?総務の皆さんは直ちに『出撃』?何?)

 映画やテレビの、警察署や消防署のシーンで出てくるような、やたら大きな通話式警報器。その設備がこの部屋についていたのはかおりも知っていた。みんなの前で自己紹介した、あんなに緊張した時にも、仰々しい赤いランプカバーが目に入って仕方なかったのだから。でも、こんな事務オフィスにどうして?

 今そのランプが点灯し、けたたましいベル音とともに、スピーカーからその声が聞こえた時も、かおりには何事が起こったのか飲み込めなかった。

「ん!……ふふ、新人教育・第二部開始ね。一恵!」

 入社初日のかおりともう一人の新人男子に、あれこれと指導していたその先輩女子社員がそう呼ぶと。

「っしゃーーーーーーーー!!おし、やったるぜミッチー!!」

 もう一人いた、なぜかこちらは怠けてばかりの不思議な先輩女子社員が、まさに読みかけだったパチスロ雑誌を机に叩きつけ、ガッツポーズ付きで立ち上がる!

「二人とも、今の作業はちょっと中断でいいわ。今度は一恵に着いてって!あいつが受け持ちの方の仕事、覚えてもらうから」

 大柄なそのもう一人の女性社員はすでに中庭が見える窓際に駆け寄っていた。そして眼下の光景に一瞥をくれると、新人二人に向き直って、

「いいか?あたしは直接こっから行くゼ。お前らは階段で庭まで降りてこい!急げよ!……《ゴングを鳴らせ》ェェェ!!」

 雄叫びつつ、窓の外に身を投げ出した!!

(え?え?ゑ?)

「コラ、ボーっとしない二人とも!聞いたでしょ?庭よ、中庭に行って!!」

「あ、あのぅ……今お庭には確か……宇宙人さんがたくさん……?」

「だから行くのよ?説明は一恵に聞いて!ほら、早く早く!!」

 先程まで伝票の記入を教えてくれていた、小さい方の物静かな先輩に背中を押され、二人は廊下に出された。

「急いで!全速ダッシュよ!」

「ああそっか、そういうことっスね?行ってくるっスーーーーーー!!」

 大きな大きな背丈の同期の新入男子社員。かおりの隣の机で、かおりは難なくサラサラと進めていた新人向けの簡単な作業に悪戦苦闘していた彼が、今度は先に何事かを悟ったようだった。とたんに廊下を飛ぶ!長いストライドの力強い脚の回転は、足が地に着くのがみえないぐらい速い!身体通りのかなりのスポーツマンらしい、その姿はあっという間にもう見えない。

「……ちょっと!アナタもほら、急いで!!」

「あのそのあのその、お廊下は走っては……」

「いいの!『出撃』なんだから!業務命令よ!とっとと走っていきなさーーい!!」

「は、はぁい!!」

 

「遅ェ!!急げっつっただろ?……あれ?でかいの、どした?」

「へ?」

「……すんませーんっス!!いやー、迷っちゃって!!」

 あんなに速く走っていったのに、彼が庭に着いたのはかおりの後だった。

 窓から飛び降りて、先に庭で待っていた先輩は、すでに白い変身スーツ姿。そして中庭を占領して、運動会の「大玉送り」(大玉それ自体も宇宙人だ)に打ち興じている……ように見える、すごい数の宇宙人達。

(あうあうあうあう……宇宙人さんがいて……変身……それってつまりそのあのそのあの……)

「ったく!ま、いいや、最初だしな。始めっか……全社員注目ーーーーーーーーー!!毎度お騒がせの総務課だゼ!!手隙の奴は中庭を見てくれーーーーー!!」

(はうはうはうはう……なになに?ゑ~~~~~??)

 彼女が大音声で檄をとばすまでもなく、窓際は既にどのフロアも、暇な社員達のやじ馬顔でいっぱい。彼女のその声を待っていたかのように、どよめき・歓声・口笛等の一斉コールが返ってきた。そして何と!!

「西野く~~~~ん!今年の新人さんだね~~~~?ごくろうさま~~~~!」

 5階の社長室から、社長がにこやかに顔を出して、自ら声をかけてきた!

(あわあわあわあわ……あ~~~~~~~ん!社長さんがぁ~~~~~~!)

「を、社長だゼ!こいつはいいや、盛り上がる!」

 その先輩の変身メットはオープンフェイスタイプなので、上機嫌な表情がよくわかる、ノリノリだ。傍らののんきな背の高い同期君を見上げると、首をポキポキ肩をぐるぐる、すでに準備運動中。彼もなんだかノリノリだ!

「社長~~~~!!この度はわが総務課に!優秀なる新人の配属のお手配、ありがとうございましたァ!!

 私こと、総務部庶務課宇宙人処理係・在籍2年・西野一恵!新入社員2名、確かにお預かりさせていただきまーす!!つきましてェ、本日の『宇宙人退治』はァ……

 公開新人職務教育!アーーーーンド!総務課新人お披露目会とさせていただきまーーーーーーーす!!」

 とたんに揚がる大歓声!!

 一方、総務課に残った小さい方の先輩は、この展開に頭を抱えていた。

「ちょっとこれ……!はぁ、まったく一恵ったら……やり過ぎよ。もうこうなったら仕方ないけど……うんそうね、こうなったら、頑張れ二人とも。あたしみたいに()()()()()()()()()ダメよ……!」

「ぃよし!舞台はバッチリだ。んじゃ、まずはおチビ!お前からいこう……ん?どした?」

「あにょそにょ……わたし……宇宙人さんと戦うの苦手なので……すご~くダメダメで……」

「うん、じゃねぇかなとは思ってた。顔見りゃわかる。なぁに、だいじょーぶだよ!無理しろとは言わねぇ……おいデカブツ?お前はどうなんだ、宇宙人の方はよ?」

「書類書きとか計算は苦手っスけど、宇宙人なら得意得意!センパイ、ど~~んとお任せ下さいっス!!」

「聞くまでもねぇって面だな。それにいいガタイしてっし、よく鍛えてある。かなりやるなお前……OK!

 ……いいかおチビ、最初に行ってな、1匹だけぶっとばして帰ってくりゃいい。後はあたしとこいつで片づけっからさ。

 お前はどうみてもこういうのは向かねぇや。ミッチーと一緒に普通の仕事してた方がいいし、あたしもそうしてもらいてぇ。ミッチーのやつは……いろいろ大変なんだ、あいつは……な?今後もまぁ、荒仕事はこっちにまかせてもらう。二年この方、ずっとあたし一人で何とかなってきたし、こっちのこいつが見掛け倒しじゃねぇなら。もう手はいらねぇよ、宇宙人の方は。

 ただし!この宇宙人退治って奴は、やっぱりあたしら総務課の大事な仕事なんでね。そこんとこだけはバッチリ胆に命じてもらわねぇといけねぇんだ。だからこの『初出撃』だけ!それも1匹だけキッチリ!な?」

 そう言われてみれば。かおりも、やらないわけにはいかない気がしてきた。

(……うん……お仕事だもの……それに……)

 何だか遊んでばかりいる、ガラの悪い変な人と思っていた。でも、これがこの人の仕事なのだとすると、時には!今かおりの目の前に群れなすこれほどの数の宇宙人を、一人で退治しなければならなかったたこともあっただろう。手が欲しくないはずがない。それでも自分の困った気持ちを汲んでくれて、かつは同期の友の忙しさまで心配している。その言葉を聞くと、

(ごめんなさい、変な人は誤解でした……うん、頑張ろう……!)

「を!いい顔になってきたねぇ。やれるか?よし!……えっと悪りぃ、さっき聞いたけど憶えてねぇや。名前もっぺん?」

「篠崎かおりです……」

「ん、わかった。頑張れよ!じゃ、いくゼ?

 ……お待たせしましたーーーーーーーーーー!!

それでは一人目!篠崎かおりだーーーーー!!」

 かおりの説得の間、待たされてちょっと静まっていた歓声が、再び盛り上がった。

「ちょーーーーっとおチビだが、これでも今年でピカピカのはたーーーーち!かわいいぞーーーーー!!

 思えばこの二年!我が総務課に咲く花は!皆さん御存知、かく言うあたしと水森ミッチー……花って言うか、セコイヤ杉とハエトリソウだ!前言撤回!花なんて、いねぇだろーーーーーーーー!!

 だがしかーし!不毛地帯総務課の汚名、ここに返上!!そしてアイドル誕生だーーーーーーーーー!!

 せっかくのアイドルだからな!こういう血なまぐさい仕事はさせたくないなぁと!流石のあたしもそう思ったが!やる気溢れる彼女が頑張りますと言ってくれたので!敢えて!!

 ……本日一回限り、一匹ポッキリの超レア出撃だーーーー!これを見逃すと、後がないよーーーーーーーー!!

 ……よし!かおり行け、変身だ!!」

 「が……頑張りま~~~~っす!!《シャイーーン・シルバーーーーーーー》!!」

 かおりの全身が一瞬またたいたのち、現れたその姿。銀を基調にパステル色をあしらい、装甲パーツやエンジン部なども、上品な丸さを基調に配置デザインされたかおりの変身スーツ。

 なるほどこのデザイン、戦闘服というよりは、アイドルコスチューム!!

(を!プッ、いいじゃん、いいじゃんかよ!ノリでテキトーに『アイドル』とか言っちまったけど……まんま!)

「え~~~~~~~~~~~~~~~い!!」

 ついに、かおりは駆け出した。夢中で駆け出した。頑張れば、きっとなんとかなる、なんとかなるから!!

「え!!な……マジかよ!でもちょっとまてかおりーーー!!」

 見ていた全員が驚いた。

 かわいいかおりの変身スーツ、しかし、そのダッシュスピードは……高速系とは!

 いかなる戦いにおいても、圧倒的に敵より速く動ければ、よほどのことが無いかぎり、負ける事の方が難しいだろう。

 宇宙人に対抗する変身スーツについても、高速移動を戦闘性能の主眼とするタイプの開発は最初期から行われ、実用化も早かった。高速戦闘系変身スーツ、そう、それ自体は珍しくは無い。

 しかしこのタイプは使い勝手が悪く、また高価になりがちなので、世間一般のイメージでは「玄人好み」とされている。うるさがたの硬派なマニアの、硬派なスーツ、それが高速系……みな意表を突かれた。あのデザインで高速系とは!

 そして何という速さ!かおりスーツのその加速性能、どう見ても通常よくある高速系のそれとはケタ違いだったのだ。

 そう!かおりが姿を変えた銀色の星は、まばたきばかりのその一瞬を、きらめき!流れ!駆け抜け!

「そっちじゃねーーーーーーーーーーーって!!」

 しかし方向が、ああ方向が!全然・まったく・見当違いもいいところ!何故だ?!まばゆい流星になったかおり、でも宇宙人にはかすりもしなかった……そして!!

 バゴッ!!

「ろろろろろ……」

 鈍い音とともに、行く手の壁面に激突し、人型の窪みの中にめり込みつつ、かおり流星は無様に止まった。そして。

「あうあうあうあう……あ~ん……その……誰か……わたしを()()()()()()()~~~!!」

 ついでに、見ていた皆の時間も止まった。

 目の前で起こったその困った事実を!どうにか解釈しようとして。

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