ラスト ある少女の願い
頑張った問題児にご褒美
「フッ…!」
黄金を纏った剣が風のように過ぎ去り、ゴブリンたちを切り払った。
「うひゃー」
「はやーい」
龍人の姉弟は見てるだけだった。魔物が見えた瞬間飛び降り、止める必要すら与えず仕留めて戻ってくるのは誰を真似たのか。
剣の振るったのはティーゼルだった。
器用な少女は“英雄”の武器を適切に使いこなし、自分の体を傷付けない範囲で出力を適切に絞って使いこなしている。
そして御者の先に戻ると再び運転を始めるのは何かの芸のようだ。この馬車はもともとエドガーたちのもの。エドガーが正しく少女のことを理解していれば、ティーゼルはウィルからもらって剣がなくてもこの程度のことはできたのだ。
「フー、フー…」
荷台の方ではウィルが荒い息をして寝込んでいる。ウィシュタリアを経ってから数時間、気が抜けたのかウィルは発熱してしまっているのだ。
「兄貴…」
その日の夜の野営、三人はウィルを寝かせたまま卓を囲む。
「コレだけ離れれば、流石に追ってこれないとは思いますが…」
「運転から魔物の相手まで、ごめんなさいね。ティーゼルちゃん、だったわよね?」
「オレもそうだ。やれることがなかった…」
その上で食事さえ作ろうとし始めたティーゼルをなんとか静止して、ユノが夕食を作った。
「ウィルはまだ、食べられなさそうね…」
少年は荒い息をしたまま寝入っている。正直安全な宿でぐっすり寝かせてやりたい。
「その、ユノ様、ダイン様、ありがとうございました。」
そんな、なんでもやれる少女から感謝の言葉が届いた。
「ウィル様のために、貴族に喧嘩を売るような…、コレは私の、私とウィル様の問題だったのに…」
しかし、
「ティーゼルちゃん!」
ユノはそういうと立ち上がって、
「っ、何を?!」
ティーゼルに抱きついたのだった。
「あなたのこと、わたしあんまり知らないけど、そんなこと言う必要はないのよ!」
「ユ、ユノ様…」
「ユノって呼んで!あなたのことあんまり知らないけど、ウィルがあなたのためにあれだけやったのよ!そして、わたしたちはウィルの家族同然!だからあなたも、わたしたちの家族よ!」
「ユ、ユノさん…」
「もー頑固なんだから〜!けどいいわ!ダインもそう思うでしょう?」
「え?オレ?!オレはその、兄貴の大事な人なら当然!全力で大切にするぜ!」
「わたしはあなたのことティーちゃん!って呼ぶから!あなたもいつかわたしのこと呼び捨てにしてね!」
そんな明るい笑みで、ユノはウィルとは違った意味で暖かさを与えてくれた。
「話を…聞かねえけど、いいやつ、だよな…」
「ウィル?!」「兄貴?!」
「ウィル様?!まだ寝てて下さい。お熱が…」
「そうもいかん、魔物が3匹、近いぞ…。」
「ほんと?」
疑うユノ。しかし、
「ウィル様がこの手の予感を外したことはないです。ウィル様、ひょっとしてその察知の良さわ…」
「ああ、鍛えた魔法使いが…できるものらしい…。」
そういうと「ゲホッ!ゲホッ!」と辛そうに咳をする。
「ずっと魔物の危険があるところで戦ってたせいだろうな。魔物や魔道具、魔法使い。魔の付くものの所在は広く感じ取れる。俺は魔法使いだ。戦わない、と…」
そういってボロボロの体を起こして戦おうとするが…
「ウィル!休みなさい!」
ユノから厳しい言葉が飛んだ。
「なんだよ…、俺は、魔法使いだぞ。」
「だとしてもわたしより年下よ。ダイン、あんたも武器を構えなさい。お父さんやお母さん、ウィル君に守られる時期は終わったのよ。分かるわね?」
「ああ、姉貴、当然だ。足手纏いになるためについてきたわけじゃねえ。」
そう言って2人は立ち上がった。
「俺は…それでも…」
まだ諦めないウィルに。
「ウィル様、私、ウィル様に頼ってもらえて嬉しかったです。」
ティーゼルが声をかけた。
「きっと、2人もそうなんだと思います。ウィル様、いつも頼りになりますから。ですから、少しだけ、少しだけ頼りましょう?ウィル様だけが戦い続けなければいけないなんてこと、ないはずです。」
ウィルの茶色い瞳を真っ直ぐに蒼い瞳が見つめて話す。それでウィルはやっと体の力を抜いて、倒れかけた。
しかし、地面に激突などあり得ない。彼を見守るのはティーゼルだ。ウィルを優しく抱き留め、膝枕をする。
その間、魔物が3匹姿を現した。オークが3匹、あの2人では少し怖い相手だ。しかし、彼らは一歩も引くことなく戦っている。
ユノなど、いつもの大剣を捨てて、拳で超近距離戦だ。ダインと違い碌な装備も身につけていないのに大したものだ。
ダインもその双剣でオークを隙を晒した側から切り刻んでいる。いずれ勝てるだろう。
「ウィル様…」
なんとなしにティーゼルからそんな囁きが溢れる。
「もうお前は奴隷でもなんでもないんだぞ。様付けるのやめて、気軽にウィルって呼びな。」
自分とティーゼルは対等なのだと、そんな本心をそのままに語るが。
「ウィル様、私、ウィル様にお仕えしたいんです。」
ティーゼルの願いは少し違った。
「………お仕え?」
「はい。ウィル様が、私と対等に歩んで行きたい。そう思ってくださっているのは分かるんです。」
ティーゼルはウィルのことはなんでも分かる。その想いを正しく理解していた。
「でもウィル様、私は、とてもまだウィル様と対等な人間だと、そんな風に思えないのです。」
やはりウィルの目をしっかりと見ながらティーゼルも本心を語る。
「ですから、いつかウィル様と対等だと思えるまで、ウィル様と呼び、お仕えさせていただきたいのです。それが、私の意志なんです。」
ティーゼルはそう詰める。ウィルは少し考えて…
「ああ、分かったよ。いつかお前がそう思える時まで、な。お前の願いはなんだって聞く、そう言ったもんな。」
それは、ウィルが一番に求めている言葉では無かった。けれど、ティーゼルは確かに、自分の願いを口にしたのだ。それがウィルには嬉しかった。
「はい。ありがとうございます。ウィル様。どちらな従者か分かりませんね。これでは。」
そういって笑うティーゼルの顔は、とても、とても大切なものに、ウィルは思えた。
「じゃあ、俺も主人として、一つ願いを聞いてもらおうかな。」
そんなことをウィルは言った。
「はい!なんなりと!」
「これで、いいんですか?ウィル様」
「どんな感じなのか、知りたくて…」
ウィルはティーゼルの頬を撫でていた。かつてユノが寝ているウィルの頬を撫でたように、嫉妬したティーゼルが、ウィルの頬を撫でたように。
「何か、知れましたか…?」
ティーゼルは優しくそれを見守っているが、少し頬が赤い気がする。
「柔らかくて、あったかい…」
少しの間そうしてウィルはティーゼルの頬を撫で続け、やがてウィルは意識を手放した。
「ウィル〜戻ったわ『ムグッ!!!」
オーク3匹を倒し終え、戻った姉弟が戻ると、ウィルは眠っていた。起こさないように気を利かせたダインが姉の口を塞ぐ。
ウィルは意識を失い、ティーゼルがその手を自分で頬に当てていた。
「ウィル様も、ですよ…」
龍人2人はその光景を優しく見守っていた。
投稿から1ヶ月と少し、アクセスをチラチラ見ていましたが序盤が読みにくく読むのを数話で辞めてしまう人が多い印象でした。
その辺を改善して、リメイクを投稿しようと思います。
もし1人でもここまで全て読んでくれた方がいたらとても嬉しいです。
気分で書いた作品でしたが設定やキャラなど自分の中では好きな子たちになっていきました。
リメイクも頑張って作るつもりですので、またウィルの物語を追ってくれる人がいたら嬉しいです。




